学校を各地に
学校教育制度も2年目を迎え、生徒が急増したことで、ロスリーでも児童の姿を普通に見かけるようになった。
スーディルでも今年度から開校し、やがてはロスリーに追いつくだろう。
今年度から始めた学校給食のおかげか、周辺農村部の親たちの多くが、何とか子供を通わせてくれている。
さて、これから領内にも学校を建設していきたいのだが、騎士爵領が問題である。
教科書はこちらが準備してあげるが、建設や運営は各家が主導していかなくてはならない。
ゴホーク家のように豊富な資金とノリで進めてくれる騎士ばかりなら良いが。
「説明内容は理解しました。しかし、平民にそこまでする必要性を感じません。」
「そうです、確かに教育こそが、我々と領民を分ける差であることは分かりますが、だからこその危険性もございます。」
「教育の目的は様々あります。理想論をいうなら、人としての成長や、よりよい社会の構築といったメリットを提示します。ただ、それだけではありません。今、この領内は大きく変化し、急激に豊かになっています。その原動力はお金です。しかし、お金は物々交換とは違い、目の前に現物が無い取引もたくさんあります。」
「だから契約書を交わすのですよね。」
「そのとおりです。そうなると文字を読解する必要が出てくる。そして計算能力も必須になる。これから確実に訪れる契約社会に対応した人材を育てていかないと、貨幣経済は浸透しないし、経済発展が遅れ、豊かになるチャンスを逃す結果となる。」
「若様が言わんとすることは分かります。しかし、農民の子にまで必要でしょうか。」
「そうして育てた子供は皆、ロスリーに移り住み、我々には何の恩恵もないのでは?」
「第一、そこまでの資金は、我々にはない。」
「確かに、大きな投資であることは確かです。ただ、これから豊かになり、食糧事情が改善し、医療が進んで乳幼児の死亡率も下がります。既にはしかや天然痘を防ぐ薬も開発しています。つまり、子供が死なない、人口が急速に増える時代がそこまで来ています。そうなった時、農家の次男や三男はどうするのか、土地を受け継げない彼らが都市に移り住んで、教育を受けたロスリーやスーディルの人と競い合って幸せな生活を送ることはできるのか、では誰が教育を施すのか、誰の責務なのか、よくお考えいただきたい。」
「若様、分かるのですよ、そう、分かるのです。しかし・・・」
「では、資金については当家が拠出します。これならどうですか。」
「私の息子も通うことになりますか。」
「ええ、身分は問いませんから。もちろん、家庭教師を別に雇用し、学校教育に加えて個別教育を施す手もありましょう。」
「ああ貴様らゴチャゴチャ五月蠅いぞ!今まで坊ちゃんが行ってきたことに間違いがあったか?道路が、騎士団が、畑が今どうなっとる。うちはやるぞ、貴様らはいつまでも貧乏で領民から恨まれておれば良い!どのみち、そんな領地からは皆、逃げ出すわ!」
居並ぶ他の騎士たちは、皆一様に黙り込む。
あれだけ頑張ったのに、最後はおっちゃんの力技で決まった・・・




