コンラート・リリエンタール
次の日、私たち3世代は、リリエンタール邸を訪問する。
リリエンタール家は、陛下の覚えめでたい西部諸侯の中でも、武門の名家として知られる家である。
「突然の訪問、大変申し訳ございません。辺境伯フランシス・リンツでございます。」
「これはこれは、よくぞお越しいただきました。どうぞ中に。」
「ありがとうございます。」
「この度は、その、事前に何もご相談なく、このような仕儀に相成り、誠に申し訳ございませんでした。」
「いやいや、それでは却ってこちらが恐縮です。それで、お話はまことなのでしょうか。何でも、ご令息は齢12と聞きます。娘はそろそろ三十路が見えてくる歳です。」
「ええ、我が愚息には幾度も確認いたしましたが、本心から、ご令嬢と一緒になりたいと。」
「それは、私たちにとっても喜ばしいことです。」
「御尊父、御母堂としては、反対はされないと。」
「ええ、娘は将来、女官長ではなくとも、陛下のお側で仕える人物になってくれればとは思っておりましたが、幸せを掴むのであれば、親としてはその方が嬉しいです。」
「本当にありがとうございます。それと、ご迷惑をお掛けしました。ホルストからも礼を言いなさい。」
「はい。コンラート様、アストリット様、この度は、私の軽率な振る舞いにより、ご心配とご迷惑をお掛けしましたこと、謝罪致します。ただ、エリーゼ様をお慕いする気持ちに偽りも揺らぎもございません。お認め頂き、本当にありがとうございました。」
「これは、まこと立派な御仁だ。」
「まだまだ子供です。」
「いや、さすがは帝国有数の辺境伯家です。それに御当主様ご夫妻、エルハバード様、アナスタシア様と当代を代表する方々とこうして縁が持てますこと、大変光栄に存じます。娘も女官としての知識しかない子ですので、至らぬところは多々ありましょうが、是非とも末永く、よろしくお願いいたします。」
「これはご丁寧に、ありがとうございます。」
「アナスタシア夫人も、こうしてゆっくりお話をさせていただくのは初めてでしょうか。」
「ええ、剣術大会の決勝戦のことが、今でも鮮明に思い出されます。」
「ああ、あの時の・・・強かった印象は覚えております。」
思い出した、カエル先輩だ・・・
「私は、家督を継ぐまで騎士一本の武辺者。他に何の取り柄もございませんが、皆さんに覚えて頂いているのが嬉しいですね。騎士団時代には、お父上に鍛えられたこともあるのですよ。」
「あ~、それはご愁傷様です。」
「確か、一年の時から準優勝だったのですよね。」
「ええ、アナスタシア様の入学前でしたから、私にとっては優勝できる唯一のチャンスだったんですけどね。ちなみに女性で連覇したのは夫人とご令嬢のフローレンス様だけです。これは賞賛に値することですよ。」
「今は剣術大会の顧問ですものね。ご活躍を嬉しく存じます。」
「近々退任される第一近衛騎士団長の後を継ぐとの声も聞きます。」
「ありがとうございます。私もリンツ家の名に恥じないように努めますので、当家の方こそ、末永くお付き合いいただければと存じます。」
「ありがとうございます。とても安堵いたしました。」
何か、私以外は株が上がった・・・




