空へ
隠居してから時間に余裕もできると、こういう余裕だって出てくる。
ということで、今日はヒューイにある騎士団演習場に来ている。
ここでアーニャさんや技術開発研究所のメンバーたちと簡単な実験をする。
「ご隠居様、煙突付きボイラーと紙袋、用意いたしました。」
「では、煙突の口に紙袋を被せてボイラーを燃焼させて。」
「了解いたしました。」
まあ、当然の事ながら、紙袋は空に舞い上がる。
「これは、たき火をしたときに燃えかすが飛ぶのと同じです。」
「さすがは研究員、いい所に気が付いたねえ。まさにそのとおりだよ。」
「エル君、これは一体何のための実験なのでしょう。」
「空を飛ぶためだよ。」
「・・・ええ!」
やっぱりハモった。
「これと同じ原理で、人を浮かせられるほど大きい物を作れば飛べるよ。」
「確かにそうかも知れませんが、どういう仕組みなのでしょう。」
「みんなはすでに化学工廠で酸素や窒素を作っているから、空気や気体の概念は十分に知ってるね。そして、この気体は、熱を加えると膨張する。それを君たちは蒸気機関によって知っている。」
「確かに、そういう見方をすることができます。」
「じゃあ今度、温めて膨張した空気の重さを計測してごらん。きっと同じ重さだから。」
「それは、何を意味するのですか?」
「膨張して量が増えたのに重さが変わらないということは、相対的に周りの空気より軽くなったと考えないと辻褄が合わない。」
「だから浮くということですか?」
「さすがはアーニャさん。ここに来てもらった甲斐があった。原理さえ分かれば、作ることが出来るよ。熱気球を名付けると良い。」
「分かりました。早速班を編制します。」
「人が空を・・・」
「概念図を書くと、こういう形状になる。下の口で火を燃やして中の空気を暖める事で気球を浮かび上がらせ、気球の一番上には開閉式の扉を付ける。ここから冷たい空気を入れて地面に降りるんだ。」
「しかし、よくこんな物を思い付きましたね・・・」
「でも分かれば簡単でしょ。化粧品なんかよりよほどシンプルだ。実際これは軍用で、上から偵察するための用途を考えているから、ザゴル戦前に思い付いていれば良かったんだけどね。やっぱり、金儲けばかり考えているとダメだね。」
「いいえ、人類の夢をあっという間に実現してしまうエル君は、やはり凄いです。」
「私たちも研究成果を世に問いたいと思います。」
私の評価よ、舞い上がれ!




