エルハバード、隠居する
帝国歴282年1月5日
さて、年始早々ではあるが、フランシスへの爵位継承の儀式が執り行われる。
帝城の謁見の間には、両陛下、宰相、内務卿、他の公爵とリンツ家の面々が集まる。
「では、これより陛下の御前にて、辺境伯爵エルハバード・リンツより嫡子フランシス・リンツへの爵位継承の儀を執り行う。両名、前へ。」
二人が階下に進み出て、フランがが片膝をつく。
「では、我が子フランシスよ。私の後を継ぐに当たっての決意を述べよ。」
「はい。私は、これまで父を目指し、領地領民のため、我が身の研鑽を重ねてまいりました。もちろんまだ未熟で、父を始めとする多くの協力が必要な状態ではあります。しかし、父を始めとする祖先が築いたものを継承発展させ、さらに陛下と帝国に貢献するため、今後ともあらゆる努力を惜しみません。そして同時に、栄えある帝国貴族の名を汚すことなく、騎士の責務を全うすることを、両陛下並びに、ここに居られる皆様方を前に、お誓いいたします。」
「よくぞ申した。」
私は静かにフランの肩に剣を乗せる。
成人の儀以来となるが、随分大きくなったなと思い、しばらく感慨に耽っていた。
「では、我が子フランシスよ。そなたに爵位を譲る。今、この場より、リンツ家の当主として、陛下へ忠節を誓い、領民を慈しみ、栄えある帝国貴族の名に恥じぬよう振る舞い、辺境の地を守り続けよ。」
「はい。お言葉、肝に銘じます。」
「新辺境伯爵フランシス・リンツよ、そなたへの爵位継承を、余は確かに見届けた。今後とも、変わらぬ忠節を期待しておる。」
陛下は玉座から立ち上がる。
「それでは皆の者。新しい辺境伯の誕生を讃えよ!」
全員が、あらかじめ渡されていた儀礼用の剣を抜き放ち、「陛下万歳、新辺境伯万歳」と斉唱する。
フランシスは私の隣に並び、諸侯の方に向き直る。
「では皆さん、先ほど列侯の末席に加えていただきました、フランシス・リンツです。本日は私のために、お忙しいところ立会いいただき、誠にありがとうございました。これから、先輩上位の皆様方のご指導ご鞭撻をいただきながら、国のため、家のため、精進してまいる所存。以後、よろしくお願いします。」
「では、私からも一言。皆様方から頂戴しました長年に亘るご厚情に感謝致します。これからも、この若輩に対し、変わらぬご愛顧のほど、よろしくお願いいたします。」
列席者からの拍手の中、退場し、儀式は終わる。
夜は辺境伯邸でささやかに、いや、あくまでささやかに両陛下を招いてフランシス就任パーティーを行った。
これから、それぞれの明日が始まる。




