陛下、国力を見せつける
締結式の後は、帝城正門前に場所を移して、戦勝記念、平和記念の行事が執り行われる。
やることはいつもと同じだが、ザゴルやチェスター、セペの関係者にとっては未知の式典である。
いや、既知の各国代表団も、同じ事が自国でできるかといえば、まるで不可能だ。
もちろん、彼らに国力を見せつけるのが目的である。
まず、儀仗隊による演技の中、我々列席者が正門の楼台に登る。
そして陛下が前に進み出て、詰めかけた群衆に手を翳すと、城から空砲が撃たれ、中央広場の左右から軍楽隊が入場してくる。
向かって右は神聖同盟加盟国の国旗を振る陸軍軍楽隊、左は帝国旗を振る近衛軍楽隊である。
城や広場沿いの建物屋上には、いわゆる万国旗が渡され、人々の歓声の中、紙吹雪や色とりどりの花びらが舞う。
そして、マーチが佳境に入ると、メロディはグラーツ国歌に変わる。
今やかなり定着したようで、サクラなしでも多くの人が歌っている。
曲が最後を迎えると、くす玉が割れ、南大通りと城内から同時に花火が上げる。
これは昔、私が企画したものと原型は変わらないが、練度は飛躍的に上がっている。
これなら21世紀でも十分立派なレベルだ。
ましてや、この時代の他国の人にとっては、驚き以外の何物でも無いだろう。
こうして、我々が退場するまで城外では演奏が続く。そして、夜のパーティーとなる。後で聞くと、ザゴル使節団との晩餐会は昨夜行われていたそうである。
「どうだエルハバード、そちから見て、式典の出来は。」
「大変精度の高いものだと思います。我が国の威勢を見せつけるには申し分ないかと。」
「ハッハッハ。そちが言うなら間違いあるまい。ザゴルの連中もさぞかしビビっているだろう。」
「ええ、自分たちが一度も勝ったことのない相手が、想像以上の力を持っていたと分かった訳ですから、二度と手出しをしようなどとは思わないのではないでしょうか。」
「そう願うばかりだな。して、パーティーには姉上らも来るのであろう。」
「もちろんです。フランシスも夫妻で参加させていただきます。」
「メリッサやベアトリクス、フローレンスも呼べば良いでは無いか。」
「いやあ、ベアはまだ夜はすぐにおねむの時間が来てしまいますので、フローレンスだけでご容赦願えれば。」
「まあ、まだ6つなら仕方無いか。そうだな。今年はまだ何度でも会えるからいいか。」
「それより陛下、あれほどの力を見せつけたら、各国からまた釣書が大量に来ますよ。」
「側妃で良いならな。次の皇后の座は揺らがぬし、余もこれ以上側妃が欲しいとも思わぬ。ちなみに、今夜はベルトホルトは欠席だ。第一皇子のお披露目式の準備で時間が取れんのだ。」
「そうなのですか。いろいろご多忙なことで。」
「第一皇子とはいっても継承順はベアトリクスの子の後ろだがな。それでも彼奴にとっては子だし、初の主宰行事だ。遺漏無く働いてくれんとな。」
「まあ、彼奴の挙式が終われば時間もできよう。もう一時の辛抱だ。」
「陛下も殿下も、実は大変なんですねえ。」
「そなたから見た余は、一体どんな姿なのだ?」
ノーコメントで・・・




