誕生日は、もちろんあの店へ
今日はローサの誕生日。
今年はフローレンスとヴィレもいる特別な日になるだろう。
もちろん、あの店を訪れる。
「お母様、まだ涙を流されるには早すぎますよ。」
「ごめんなさい。本当に、本当に待ち望んだ日が来たのです。もう、平静を保ってなどいられないのです。」
「さて、ヴィレは初めてかい?」
「ここは評判の店でしたので、学生時代にフローレンスたちと来たことはありますよ。」
「そうだったのか。じゃあ、注文しようか。」
それぞれが注文した飲み物と軽食が運ばれてくる。
「では、いただきましょう。」
「こういったものを食べるは久しぶりなんじゃない。」
「はい。ここに来るのも12年ぶりですし、普段は質素倹約を心掛けております。」
「だよなあ。昔のドレスがむしろ大きいなんて、どんな食生活してるんだ?」
「でも、清貧こそが私の目指す救済に欠かせないものですので。」
「私とローサは、毎年この日にここに来てたよ。」
「嬉しいです。忘れられていなかったんだなあと。」
「忘れるどころか、日々募る一方だったよ。」
「そうですね。毎年指折り数えておりました。あと何年って・・・」
「今日のお菓子はちょっとしょっぱいですね。特別な味がします。」
「さあさあ、今日の主役へのプレゼントを渡そう。誰から渡す?」
「もちろん、三人です。」
「じゃあヴィレ、あれ出して。」
「はい。」
「じゃあ、せーのっ、お誕生日おめでとうございますっ!」
ローサにプレゼントを渡す。
昨日三人で選んだスカーフだ。
もう泣き崩れて言葉にはならないが、私たちにはそれで十分だ。
「もう、このような日が来ないかも知れないと思った日もありましたが、今日は本当に、本当に、私が考えられる最良の時間を超えております・・・」
その後、屋敷に帰って私がロスリーで準備したプレゼントで更にぐしゃぐしゃになり、オルガさんとヴィレ、カタリーナさんたちのプレゼントで、そして、みんなとの食事で最高潮に達した。
ローサ、耐えられたかなあ・・・
さて、公爵邸に帰る道すがら・・・
「今日はお疲れ様。」
「いいえ、本当にありがとうございました。今までの最高をさらに超えました。もう、息をするのも大変なくらい、矢継ぎ早に嬉しいがやって来ました。」
「みんなで作戦を考えた甲斐があったよ。」
「いつの間にそのような事をお考えになったのですか?」
「主にヴィレやアデーレさんたちだよ。私たちがフローレンスと感動してた裏でね。」
「まあ、ヴィレまで意地悪になってしまいました。」
「いやあ、僕だって父上に唆されたようなもんなんだけどね。なあ、アデ-レ。」
「こんなに楽しいのは久しぶりでした。」
「普段あまり目立たないのに、こういうときは大活躍するんだよなあ。それに、アデ-レさんは元本職だからイベント慣れしてるよね。」
「でも、父上ほど妻を泣かせる方も少ないかと思います。」
「ヴィレ、知らない人が聞いたら凄い会話なんだからな。」
「本当に、幸せ一杯です。ありがとうございました。」
今年もみんなのお陰で大成功だった。




