希望の光
夕暮れの小さな礼拝堂で、夜に移りつつある、小さく消えそうな光に大きな希望を見出した数日後、私は町で一枚のビラを見ました。
相変わらず、朝早くに起きて家事をこなし、夜遅くまで布を織り続ける生活を続ける私は、今日も変わらぬ日常を忙しく過ごしておりました。
そんな中で見た一枚の紙。そこには、収穫祭とそれに先立つ祭礼の案内が書かれておりました。
そしてそこには「辺境の聖女来たる。聖女の娘とともに帝都民のために祈りを捧げる」という文字が踊っています。
私の中にすぐ、数日前の情景が思い起こされます。
あれほど心を揺さぶられたのは何年ぶりだったでしょう。
枯れたはずの涙も、捨てたはずの心も、一度に戻って来て、とても熱い気持ちになりました。
これは是非とも行かなくては、という一心で、お仕事をお休みし、ここにまいりました。
そして今、眼前には、帝都民に初めてお披露目される辺境の聖女様と、間違いありません。あの日のシスター、フローレンス様が並んで祭壇に向けて歩いています。
ただただ呆然です。
そして、お二人が儀式を始めます。これは単なる親子の共演ではありません。
それ以上の完成された何かです。
彼女たちに降り注ぐ秋の陽光、一糸乱れぬ動き、全てが神々しく、息をするのも忘れてしまう見事さでございました。
そして、祈りが終わり、聖女様が私たちにお言葉を掛けて下さいます。
とても澄んだ、それでいて落ち着きのあるお声です。そう言えば、同じ声でしたね。
その後、騒ぎが起きます。荒
くれ者が聖女様、いえ、聖女様を迎えようとした貴婦人に飛びかかります。
このようなありがたい場所で、何と言うことなのでしょう。
しかも、その中の一人が発した言葉に我が耳を疑いました。
アナスタシア・ボーエン・・・
お見かけしたことは数えるくらいしかございませんが、あの背格好、髪、その身に纏う得も言われぬ高貴な雰囲気、間違いありません。
かつての同級生であり、あの御方と将来を約束していたアナスタシア様に相違ございません。
私はどうするべきか迷いましたが、身体が硬直して動けませんでした。
しかし、彼女は暴漢の攻撃を華麗に躱し、加勢を得て瞬く間に男達を制圧してしまいました。
あのシスターもとんでもない使い手です。
私も多少は剣を嗜んでいたことはありますが、とても私などが語れるようなものではありません。
そして、ご家族でしょうか、皆で無事を確認する姿は、あの時の言葉どおり、彼女が幸せの中にいることが伝わって来ました。
彼女の肩を抱くのが夫でしょうか。
そして、私の側を通り過ぎる彼らに、私はお声を掛けることなどできませんでした。
私など、入る余地、いえ、視界に入る機会さえ与えられていないのです。
そう感じた私は、アナスタシア様たちのお幸せを祈りながら見送るほかはありませんでした。
しかし、希望の光は確かに見えました。
アナスタシア様の往時と変わらぬ堂々としたお姿に、聖女様の祈りに、そしてシスターの言葉が真実であったことに・・・
私は、今日の事を糧に、シスターの助言を守り続けていきたいと思いました。




