10年の時を埋めようとする
さて、教会内の立派な部屋を一つ強・・・いや、お借りした。
「本当にご無沙汰して、文すら書かず、申し訳ございません。どういう気持ちで書けば良いのかすら分からず。今でもこんなに歓迎してくださるのであれば、勇気を出して書くべきでした。」
「いいんだ。それは私たちだって同じだ。フローレンスの決意を揺さぶってはいけないと思って、書くことができなかった。」
「お互い、水くさいよな。」
「手紙を書かなかったお前が言うな。」
「まあベル君、そうだったの?」
「いやあ、筆無精で、申し訳ない。」
「10年でいろいろあったよ。エラさんもマリアさんも亡くなったよ。」
「そう、なのですね・・・」
「パルも、去年の秋に亡くなった。会わせてやりたかったよ。」
彼女の目から再び涙が零れる。
「これから毎日、皆さんのご冥福を祈ります。」
「でも、悲しいのはこの三つだけだ。ゲルや団長、ジョセフだってしぶとく元気にしてる。」
「よかった。それは何よりです。」
「フローレンスが特に可愛がってたエルヴィーラさんはサントスのレアンドロ殿下に嫁いで、もうすぐ二人目が生まれるそうだよ。」
「本当ですか。彼女のことは、いつも気に掛けておりました。」
「それに加えて、シュテファンとリリーさん。ユルゲンとヨゼフィーネさんも一緒になって、みんなうちで働いてる。とにかく屋敷は子供だらけで大変なんだ。」
「まあ、リリーさん、妹さんがたくさんおりましたよね。」
「去年、一番下の子が結婚して、ロスリーに住んでるよ。」
「皆さん、前に進んでいたのですね。私は修行ばかりで、ご報告できるようなことがございません。それに、いつも思うのは過去のことばかり。とても恥ずかしいです。」
「そんなことは無いさ。とても立派になったように見えるし、誰よりも自分を磨いたのはフローレンスだ。」
「そうですよ。その歳で司教になるなんて、並大抵のことではございません。」
「へっ?女性でも司教になれるの?」
いやいや、みんなそんな顔しないでよ。にしてもすげぇな、神聖教・・・
「そう言えば、ロスリーは男性ばかりだったですね。」
「司教なら別にロスリーに赴任したっていいんじゃない?」
「お父様、まだ帝都に来たばかりですの。」
「連れて帰ろうかな・・・」
「お父様、話を聞いていただけると・・・」
「フローレンス、今日のところは諦めなさい。今度は屋敷の皆を連れてまいります。」
「楽しみです。ありがとうございます。奥方様。」
とにかく本当に良かった。
月並みだが、この言葉しか出て来ない。




