みんなそれぞれ
さて、公爵邸に着いて、旅の垢を落として落ち着く。
メリッサは早速、ヴェーベルン公爵邸のヘレナ様の所に遊びに行った。
ヴィレたちは帝都邸に住んでいるルカスとファビアンの近況報告を聞きに行っている。
ローサはフランシスと帝都中央教会に収穫祭の段取りを確認するために出向いている。「何でお前が行くんだ。」とフランと口論になったが、城に行かれるよりはマシなので、ここは折れた。
ルーデルさんも、久しぶりにアルマさんと落ち合って、夫婦水入らずだろう。みんな心配する必要は無い。唯一心配なのはアイリーンさんくらいなものだろう。
そして私は、アーニャさんといつもの部屋で寛いでいる。
「ここは、夫婦を始めた思い出の部屋だ。」
「はい。もう29年です。身は枯れてしまいましたが、心はあの時のままですよ。」
「身も心も瑞々しいと思うよ。引退はするけど、それは若いうちにもっと色んな事を楽しみたいからだよ。もちろん、お互いヨボヨボになっても、それはそれで楽しいと思うけど。」
「フフッ!本当に旦那様はあの頃から変わりませんね。」
「アーニャさんもね。」
「ええ、私の恋はとても長く続いてます。年甲斐も無いと、笑われてしまいそうですけど。」
「いや、人間、恋はいつでもするし、いつからでもできるものだよ。そして、本物の恋は一生物だよ。」
「まあ、それはジョルジュ様もメンフィスも使ったことの無いセリフです。これは次の作品に活かしてもらいましょう。」
「いや、恥ずかしいよ。それに、私の言葉は、アーニャさんだけのものだよ。」
「まあ!嬉しいです。これは使って欲しいのに使われたくない、とても迷いますね。」
「ははは、本当にアーニャさんは変わらないねえ。とても可愛い。」
「あの、今日はとても心が舞い上がっております。これは何かのご褒美でしょうか。」
「それは、29年頑張ったご褒美じゃないかな。そう言えば来年は」
「父上ー!」
「私たちの血を分けた邪魔者がやって来たようだね。」
ノックもせずにフランシスが駆け込んでくる。
「何だ騒がしい。廊下を走らないのは基本中の基本だぞ。」
「それどころではございません!フローレンスが、フローレンスが教会にいました!」
「何!何だと!それは本当か!」
「ご主人様、本当です。元気に・・・してました・・・」
「クソゥ!何で私じゃ無くてフランなんだ!」
「いや、ちちうえ?」
「どうしていつもいつも私じゃないんだ。私に褒美は無いのか!」
「まあまあ、旦那様落ち着いて下さい。」
「そうですご主人様、フローレンスは帝都中央教会に配属されて、収穫祭で私と一緒にお祈りをするそうです。いつでも会えるのですよ。」
「そ、そうなのか?」
うん、落ち着いた。




