シスターの審判
「では、あなたの胸中を余さず吐露していただきました。その上で、神に許しを乞うため、祈りを捧げましょう。私も共に祈ります。」
「ありがとうございます。」
神に許しを乞う祈りを行います。
よほど敬虔な方なのでしょう、その文言も一言一句正確なものです。
ここまでできる方は、一般信徒ではそうそういるものではありません。
祈りが終わり、私はまた、元の位置に戻り、神の言葉をお伝えします。
「では、祈りは確かに神に届きました。そして、その言葉は確かにお聞き届けいただきました。懺悔を求め、告白したる者よ、あなたは既に許されております。ご安心下さい。」
「あの、私が許されたということでしょうか。」
「お話は伺いました。あなたの周囲には、あなたを大切に思う方々がおり、社会の一員として真っ当に生計を立て、ささやかな幸せを手にしております。それは罪人ではあり得ないことです。あなたは、ずっと以前に許された身なのです。」
「あ、ありがとうございます。でも、私を許していない者もおります。」
「それは、これからも誠心誠意、謝罪し、あなたの善性を証明し続けなくてはなりません。それは人の世を生きる以上、最後までついて回りますが、それと神、そしてあなたが将来至るであろう次の世界とは別です。」
「シスター、ありがとうございます。しかし、許されない事をした事実は消えません。」
「ええ、事実は消えません。しかし、恋は皆するものです。そして、人は時として、進むべき方向を過つものです。ですから、時に自省し、時に懺悔し、他者の幸せを壊すことの無いよう、注意を払い続けなければなりません。かく言う私も未熟者ですので、毎日、反省と懺悔の日々ですよ。」
「シスターでも、そのような事がおありなのですね。最後に一つだけよろしいでしょうか。」
「はい、何なりと。」
「亡くなられた方や、許嫁の女性には対しては、どのようにすれば良いのでしょうか。」
「亡くなられた方に対しては、墓参をするのが良いのでしょうが、どこの誰とも分からぬ者にそれはできません。ですので、たまにはここに来て、冥福を祈って下さい。そして、許嫁の方は、あなたを恨んでおりませんので、ご安心下さい。」
「えっ?それは何故・・・」
「その方は東の辺境ではありますが、大変幸せに暮らしております。その方があなたに対して何か恨み言を言っている所など、私は聞いたことがございません。このことは、アナスタシア様にこの名を授けていただいた私、シスター・フローレンスが、神の下に真実であることをお誓いいたします。」
「おお!神はおられました・・・」
思わず、彼女は泣き崩れる。
「少しは肩の荷が下りましたか。」
「本当に・・・来て、良かった・・・」
彼女の肩を支え、既に夜の帳が降り始めた礼拝堂を後にします。
本当に、印象深い出来事でした。




