パウロのライフワーク
さて、年度末の一日。
パウロが政庁にやってきた。
「おはようございます。旦那様。」
「ああおはよう、パウロ。どうだい?久しぶりの政庁は。」
「そうですね。ガーゴイルに行ってからここに来ることはありませんでしたからねえ。」
「さすがに、もう知っている人はいないかな?」
「農務責任者が私の4つ下で、最後の同僚ですね。」
「そうか。パウロは政庁で働いていた期間は短かったからねえ。」
「それでも8年足らず勤務いたしました。」
「それで、ついに完成したんだね。」
「はい。長らくお待たせしましたが、リンツ家史が取りあえずの完成を見ましたので、お持ちした次第です。」
「随分長いこと苦労を掛けたね。始めたのっていつだったっけ?」
「旦那様がサントスからお帰りになった後くらいですね。」
「20年以上前か。エラさんやセバスが生きてた頃だもんね。」
「旦那様が爵位を譲られると聞き、良い区切りと考え、こうして体裁を整えたものです。」
「そうだね。今後の方針はフランシスが立てるべきだ。」
「何とか最後まで完遂できてほっとしております。」
「やっぱり、パウロに任せて良かった。」
「いろいろ大変なことはございましたが、とても楽しかったです。」
「いろんな人に話を聞いてたからね。」
「はい。古老がいると聞けばオーガブルクやトレドまで行き、追加でフェネトの歴史を調べるためエルリッヒ家に行ったりと、本当に幅広い記述ができたと思います。」
「家史までどこにも負けない立派な家になっちゃったな。」
「恐れ入ります。」
「でも、うちの歴史は続くから、追補も是非お願いするよ。」
「よろしいのですか?」
「もちろんだ。これはパウロにしか頼めない。」
「ありがたいことです。私のライフワークになりますね。」
「そう言っていただけると私も嬉しいよ。これからもよろしくね。」
「はい。お任せ下さい。」
「後は、私の次にアーニャさんとの時間が長かったパウロには、アーニャさん語録もまとめてもらわないといけないなあ。」
「あの~、何だか雲行きが変わって来たような・・・」
「何を言う。これを結婚30周年に発表してアーニャさんを昏倒させるまでがミッションだ。」
「またそんな役回りですか?」
「何を嫌がってるんだ。とっても重要で美味しい役回りじゃないか。」
「今度こそ不敬罪でエネル家が終わってしまいますよ。」
「大丈夫だパウロ。エネル家の歴史もまだまだ続く。」
「いや、商会の方は大丈夫でしょうけど、私の家の方ですよ。」
「ユルゲンは無事だろうから安心しろ。」
「そんなあ・・・」
まあ、何とかパウロをねじ伏せた。
本当に楽しみだなあ・・・




