会長に泣きつかれる
今日も政庁で真面目にお仕事、だったのだが。
「ご領主さま~。ご領主様はおられますでしょうか~!」
うん、ご領主様は帝都です。キリッ!
「ああ~いましたいました。聞いてくださ~い!」
「ああ、ロスリー商会長、先日、帝都に向かわれたばかりではありませんでしたか?」
「いや、そうなんですけど、その、紙とフォークとチョコと高級石けんと、」
「ああ、少しお待ちを。増産をどこかから依頼されたのですか?」
「そ、そうなんです。それもヴェーベルン公爵直々の依頼でありまして。」
お城から~ってにんまりしてたのに・・・
「共同販売でも持ちかけられましたか?」
「それもですが、何より注文が大量で・・・」
「まあ、フォークと高級石けんなら何とかなるでしょう。でも紙は原料が不足気味ですから、あまり大量となると難しいです。チョコの状況は、ご存じですよね。」
「はい・・・」
「それと、共同事業は何が何でも断って下さい。公爵家が入ってくるなんて、事業を乗っ取る気マンマンじゃないですか。」
「でも、それでは私の首が。」
「この領内なら当家でお守りします。もし断れないなら、帝都からは撤収していただきます。」
「はい。分かりました。」
ちょっと気の毒だな。そうだ。あれでも渡しとこうかな?
「分かりました。では明日、もう一度お越し下さい。」
「こ、これは?」
「ええ、限定で販売予定の化粧品セットです。まあ、このために作ったセットではありませんが、鏡付きの箱に様々な高級化粧品を詰め合わせた物です。交渉の武器にどうぞ。」
「あ、ありがとうございます。グスン・・・で、上質な仕上げの化粧箱に色とりどりの口紅とおしろい、下地、アイブロウ、チーク、アイシャドウ、化粧落とし、クリームにパフ、こ、これは・・・香しいです。」
どんな窮地でも嗅覚は健在。それが彼、ロスリー商会長だ。
「そうでしょう。特に口紅と化粧下地、ファウンデーション以外は、敢えて非売品としてきた品です。交渉はさすがにご指南することができませんが、相手との取引材料として申し分無い物のはずです。」
「ええ、ええ、これで納得いただけないなら撤退すると、ええ、今後ともよろしくお取引していただけるなら、こちらとしても便宜を・・・ええ、頑張ってみます。」
「そうです、その意気です。」
うん、その気持ちはよく分かるよ。
うち以外の貴族って、シャレになんないだろうから・・・




