男爵、また怒る
それからしばらく経って。
「襲撃は成功したし、ミハエルの信用も地に落ちたことだろう。あの脳みそ筋肉子爵並み様では手も足も出まい。」
「確かに、襲撃に関してはこれ以上無い成果とは存じますが、まだ手ぬるいのでは。」
「それはそうだ。あの程度で儂の腹が治まった訳ではない。もっとリンツを追い詰めねばならん。もっと襲撃を行うぞ!引き続き敵領内の偵察を行い、手薄な所を奇襲させよ。何なら、領都を焼き討ちしても構わん。」
「しかし、気になる動きもございます。」
「何じゃ。」
「我が領民のリンツ領への移動が止まりません。アッサムの街に検問所を設け、そこで捕捉した移住希望者を元の地に戻しておりますが、とても対応しきれる数ではございません。しかも、さらに税金を下げ、関所通行料を廃止すると触れ回っている模様。このままでは領民が雪崩を打ってリンツ領に向かうことになりましょう。」
「それでは襲撃している意味が無いではないか。いや、もっと襲撃せねばならぬと言うことか?」
「しかし、敵も警戒を強めております。デ=ロペン峠を封鎖された影響で、容易に兵を送れない状況になっておりますし。」
「堂々と街道を通れば良いだろう。」
「関所の通行は、武器の持ち込みが困難です。」
「クソ!忌々しい!最近は、行商への襲撃も減っておるそうだしな。」
「肝心の峠を封鎖されましたので。」
「もうアッサムでもオツテンブルクでも良い。どこでもリンツ領民を見つけたら襲え。」
「事が発覚する恐れが増しますが。」
「構わん。ヤツらが何を騒ごうとも、シラを切り通せ。」
「畏まりました。」
「当面は襲撃を続けて様子を見る。特に、敵の騎士団の動向には注意を払え。」
「はい。それと、もう一つ。」
「何だ。まだあるのか?」
「はい、税収が昨年度の6割と危機的な状況にあります。商店の閉鎖も続いておりますし、最近はリンツ領からの物流も滞っております。何か手を打たなければなりません。」
「6割じゃと、減りすぎではないか。」
「目に見えて領民が減っております。特にこのロプスドールでは、それが原因で、商売人を中心に暮らし向きが悪化しているのではないかと。」
「それでは商会の売り上げにも響くであろう、許せん、許せんぞ!」
「申し訳ございません。」
「引き続き領民の移動制限を徹底せよ、それと、税の取り立てを徹底せよ!」
「御意。」




