7 鏡と視点
唯彩警察 課紹介第一弾 〔分析課〕
寿々が属す第一課は表で動くメインの連中のことで、唯彩の内容も能動的なやつが多いです。(あとは最前線で役立つ系)
分析課は名の通り、分析や後方サポートに長けた唯彩集団で、イメージ通り知的な連中の集まりです。
柚葉ママの少年少女も何人かいたりいなかったり。
「これとは関係ないが、寿々」
「はい」
依然緊迫した空間に、寿々はごくりと唾を飲む。
「タバコ、やめないか」
「アル中に酒やめろが100パー無理なのと一緒ですよ」
「お前アル中も患ってるのか」
*********
遡ること数十分前
「寿々。少しいいか」
「?ふぁい」
誰かさんの熱い希望により脱禁煙に成功したオフィスで、隊員で唯一キセルを吹かせながら寿々は返事をした。
唯彩警察の本拠地は知恵の伽藍の地下にあるわけだが、中々に風通し及び日当たりが悪い〔当たり前〕ため、湿気とカビが籠もりやすい。
故に日中の人口は少ないのだが、無駄に存在だけで周囲に影響を及ぼす寿々と課長はほぼ一日中ここにいる。〔寿→煙い・課長→威圧感〕
敷地面積だけを見ればホワイトなここでも課長室が存在し、久しぶりに寿々はここに通された。
「え、綺麗」
「お前らも机周りくらい掃除しろ」
無駄に綺麗好きであることも彼が課内の腫れ物である理由の1つだが、意外と面と向かって注意はされないので寿々としてはよし。
場所が場所、相手が相手なので火を消そうか一瞬悩んだが、そのまま室内に入ると、課長は奥の椅子に深く腰掛ける。
「元気か」
「毎日会ってますけどね」
開口一番に重い顔でそんなことを言う課長に、平然と返す。通常運転だ。少なくともクビではなさそうと察する。
「子供たちは」
「みんな元気ですよ。最近また一人拾いました」
「変に子供との縁があるのも、考え物か」
「分析課のあの子は」と追加で問う課長に、「変わらず陰キャしてます」と返すと、世間話も終わったようでごそごそと書類を取り出された。
「新しい子がいるのなら、タイミングが悪いかもしれないが」
と前置くと、机の上を一枚の書面をこちらに滑らせた。
「新しい依頼だ」
寿々はキセルに水を落とした。
*******
「あーー終わらねーーーー」
柳は一人、書類を相手に悶えていた。
「柳、またあいつに仕事押しつけられたのか?」
背後から野次を飛ばすのは、柳からして先輩の警官だ。
寿々と同期と聞いているので、立場的にもかなり上の存在。
「あいつにしては珍しいな」
同期という括りは、関係ないようで意外と強固だ。
唯彩警察の同期はそのまま、教会からの同い年の連中を意味する。
要は、この先輩と寿々は教会で幼い頃から一緒に育ったため、まだ師事して一年とそこらの柳とは違い寿々についても詳しい。
「そうっすかー?」
柳がフォローのない先輩の言葉に一層項垂れる。
が、先輩は平然とした顔でコーヒーを啜った。
「あいつが仕事押しつけるのは、大抵飲み会絡みだろ。けど、最近はいくら誘っても来ない。つまり、別の理由だ」
「た、確かに……」
派手な場所や騒がしい場所が嫌いだという日中の発言を疑いたくなるほどに、どこの飲み会にも顔を出す寿々が飲み会の誘いを断るだけで異常。
加えてそれが数日連続。疑わない方がおかしい。
「指標が酒って、寿々さんらしいっすね……」
「元々あーゆーやつだよ」
空間にしばし沈黙が流れる。
緊張を鵜呑みにしながら先輩を見上げるが、彼はぼうっと課長室の扉を見つめるだけだ。
柳はこの空間を打開するような唯彩を秘めていない。
相手の感情を読む唯彩もあるし、空間停止の唯彩も歴史を探せば存在する。
そんな、世界のどこかの唯彩人に羨みを抱きながらも、柳ははっきり口を開いた。
「何か、知ってるんすか」
青い瞳がぎょろっとこちらを向いた。
反射で肩があがる。
柳含め、新人らの中での評価はある意味固定だ。
“あの世代は異質”
寿々、縹、若、銀朱、枯野 今残っているのはこの五人。
全員がS級以上に登録され、一時期の”寿々”と”銀朱”はSS級という未開拓の等級にあてられていた時代もあったという。
現にこの”縹”という先輩も、並外れた唯彩と巧みな体術で、戦線を駆け巡るS級警官だ。
青の綺麗と不気味を交差した瞳や、真っ黒のスーツ姿が魅力的に映る女性警官も多いようだが、近くで見ていて分かるのは、オンとオフが激しいということ。
オフ時は後輩にもこうしてラフに話しかけ、街で声をかけてくる市民にもフレンドリーな対応を取る。
が、オン時の何を考えているのかまるで分からない異質な雰囲気は見る者を咄嗟にこわばらせる。
とまぁ同僚からは警戒の対象である警官だが、たとえオン時でも寿々ら同期には笑顔を見せるのだから余計に分からない。
ある意味、二面性を持つ世代ともいえる。
二面性というなら、寿々の場合は六面性くらいあるような気もするし。
だからこそ、先輩ら一部には残華組と呼ばれることにも納得はいく。
「いえ。失礼しました」
柳も気を逆立てないようすぐに詫びる。
縹はじっと柳を見つめると、不意に自分から目線を逸らし、柳の椅子の背から手を離した。
「あいつのことだ。どうせすぐ書類片手にお前に泣きつく。俺から言うことはない」
それはある種の信頼、そして放棄ともいえる。
柳も1時間前に寿々が呼ばれていった課長室の扉を眺める。
分かってはいたことだ。
この一年だけでも、寿々と柳の格の差を感じ続けた。
寿々が柳の知り得ない任務を担当していることも、薄々理解している。
それでも、何だか寂しい気持ちをしてしまう。
去り際、縹は自身の机から一枚の鏡を柳の机に移した。
残華という最高ランクの唯彩教会を出たエリートは助言する。
「視点を変えろ」
ただそれだけを添えて。
出すのめっちゃ楽しみですね。”少女”の出演依頼ねじ込んでおきます。