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錫の寿々に鈴はない   作者: 藤野葵
千嵐ー断裂
10/69

9 残華

髪色と目

世間一般には知られない、唯彩人と凡人の違い。

唯彩人は髪色が生まれつき染まっており、目の色が特殊です。

寿々は灰髪にエメラルドと菫色の金銀妖瞳、縹は緑味のある青髪と目、柳は緑髪と目、銀朱は銀髪に朱眼です。

(髪色と目の色が違う、ということは別に関係ないです。二色見えた場合と主人公補正。いやどないやねんって?)

「じゃ、これで証拠出そろったけど。まだ弁明したい?」

「……くっ、くそぉっ!!!おらぁ!!」

「『銀朱』」

「おぉっ。銀朱くん出しゃばるね」

「そのために呼んだんだろ?」

「まぁね~」


酒瓶の転がる地面に、ざっくりと腹を切られた男が倒れ伏せる。


既に店の閉店時間は過ぎ、客も引き払っている。


カウンターに提出された“証拠”は、計150杯のジョッキ。そこから12杯のジョッキが別で除けられている。

そしてどこから取られたのか小さな袋に入れられた白い粉末。

座敷には腹をパンパンにして顔を真っ赤にする寿々と縹が横たわる。


「友人10人以上を客として店に招き、ジョッキに含んだ毒で殺害。それも、その客が実際に亡くなったのはここで酒を呑んだ三日後。死体はもちろん全員別々の場所で見つかったが体内に残っていた薬品がまさかの一致。同一事件に巻き込まれたと判断、捜査」


既に意識のない店の店長を踏み台にして、枯野は揚々と店員に言葉を続けた。


「一般的に酒場で用意されるジョッキの数は座席数の倍と言われている。ここの座席数は60席。仮に120個のジョッキを用意していたとして、隠蔽のために、クレームをつける団体客の注文に、足りないジョッキを10以上犠牲にはできない」

寿々と縹で飲みきった100の大ジョッキ、そして若が一人で飲んだ20杯、残りは他の代の卓から集め、計150杯。


「店が足りなくなるほどのジョッキを一度に開けさせ、かつ二人がこの飲みきり挑戦に挑むことで、集計のために空いたジョッキを回収させない。そういう魂胆だよ」


いつになく変なスタイルになった寿々の腹を撫でながら若も続ける。


「し、しかし客に提供された計150杯のジョッキから、さすがに薬を入れたジョッキは分からないですよね?第一、既にこの事件が起こったのは10日以上前。薬もジョッキには既に残っていないのでは……」


彼らより下の代の警官が声をあげる。


既に事件から10日。

そもそも現行犯でない時点で、犯行に使用されたジョッキへの証拠残留は見込めない。

飲食店なのだから、消毒等の設備の充実も考えれば尚のことだ。


その言葉に、枯野はしばらく動きを止める。

柳もその空気に固唾を飲む。


ゆっくりと振り向いた枯野の目が煌々と金色に光るのを見るまでは。

口元に細長い指を当ててにこりと微笑むと、枯野は再び店員らに向き直る。


「罪を認めるってことでいいかな?」


枯野が問いかけると、それまで視線を逸らしていた店員が言う。


「私達は店長の指示に従っただけなんです!このジョッキを別で保管してろって。けど今日はジョッキが足りなくなったから仕方なく出して!――」

「銀朱」

「うん」

「だから!私たちは無実――


奥のキッチンでガシャンと食器らが落下する音が遅れて聞こえる。

素早い風がすぐ近くで過ぎ去り、その跡には銀朱が平然と立っている。



「さ、帰ろっか」


全員の脈がないことを銀朱が一瞬で確認してくると、枯野は一同に声をかけた。


「こ、これが……残華組の任務遂行……」


生気が抜けた声で誰かが漏らす。


「ちょ……ト、トイレ……」


細い声で寿々はもたもたと店のお手洗いに駆け込む。


「酒に強くないのにこの役引き受けるからでしょ」


その後ろ姿に銀朱は眉尻をさげる。


「縹は平気?」


同じく微笑む若はまだ座敷に寝そべる縹の頬を、笑顔のまま容赦なくしばく。

ムクリと起き上がった縹は、一旦体を反らして吐くとようやく立ち上がった。


「くさい」


思い切り顔をしかめた若が紫色の目を光らせると、店内から異臭は消し飛び畳の痕もが忽然と消える。

代わりにカウンターのジョッキのうち1つにビールが入っている。まるで”今”注がれたばかりのように。


(?)



「お、俺ら、ここにいて良いのか?」


また一人が言う。


ちょうど寿々と縹の30分50杯チャレンジが終わった頃だった。

閉店時間間近となり、そろそろお開きかという雰囲気になった辺りで突然、それまで一番騒がしかった残華組の卓が静まりかえった。

柳が見ていた限り、うち一人である枯野がかなり前から席を立っていたことは覚えているが、彼が店内で何をしていたかは分からない。

しかしその枯野が突然店長を呼びつけ、大量のジョッキ、そして手の中から粉末入りの袋を取り出し問責。


そして今に至る。


そもそも、これは急な予定だったのだ。

シェルター調査隊は本来、今日より数日遅い日が帰還予定日となっていたが、予想以上に調査の進みが順調だったため帰還が前倒しとなっている。

そんな帰還から皆で飲みに行こうとなったのも偶然、この店を選んだのも偶然だ。


どこから一体誰が予想してこの解決方法を考えたのか。


(つまり、枯野先輩と若先輩は既に証拠集めに動いていた・・・?)

枯野がシェルター調査隊の隊長で今日帰ったばかりということは一旦忘れる。

早々に席を立っていたという事実と、どこから現れたのか証拠品の粉末、つまり毒物。

柳は彼、そして彼女の唯彩を知らない。

何か情報収集に優れた唯彩なのだろうか。



枯野の言葉を合図に、戸惑いながらも一行は退却の支度をする。

柳は、その群れから少し離れ、カウンターに置かれた12個のジョッキの方を見た。

そこで驚く。

100から省かれた12個のジョッキに勿論ビールは入っていない。

寿々か縹かが飲みきったのだから当然だ。


――――しかし、今このジョッキには、はっきりと粉末が残留していた。


慌てて二人が安全かどうか見やる。

しかし、二人とも明らかに酒の飲み過ぎで仲間に介抱を受けているだけのように見える。


枯野が店長を問い詰めやすくするために撒いたフェイクか、あるいは飲みきったジョッキを回収した後に自分が見つけた粉末をかけたか。

(いや、毒は酸化するって聞いたことがある。これはまだ新しいものだ……)


余計に分からない。


しかし、分からない理由は分かる。

柳は残華組の五分の四の唯彩を知らない。

これが全てを物語っているということだろう。



「俺、縹背負って帰るから」


眠る縹の腕を掴みながら銀朱は若と枯野の二人に言う。

若は既に寿々を背負っている。


若の背で、寿々はまるで子供のようにすやすやと寝息を立てていた。

寿々が痩せ型だからなのか、若は軽々と背負いながらその言葉に頷いた。


「じゃ、枯野はかちょーに報告してから帰るね~」


唯彩警察では任務解決を行った警官が後始末や書類提出をするルールがある。

今回のメインは枯野のため、彼が事後処理は行うこととなる。


「じゃーね。若ちゃん、銀朱くん。おやすみ」

「うん。おやすみ」

「…………おや、すみ」


結局、残華組から離れているようだった銀朱も、彼らと親しい間柄のようだ。

孤高の一匹狼だと寿々が称した理由は分からないが、ただ彼の印象や任務中の行動をそう表しただけだったのかもしれない。


少なくとも銀朱という先輩について今日で分かったことは、礼儀正しく会話は辿々しいが戦闘は一流。

特に暗殺に長けているように見えたが、それは彼の唯彩からなのだろうか。

帯刀していることから剣士ということも窺えるが、いわゆる腰での帯刀ではなく背中に沿わせるように服の下に隠して帯刀しているので剣は街中でも持ち歩くほど慎重なようだ。



パラパラとみな伽藍への道を進める。

警官は緊急の事態にもすぐに出動できるように、一部例外を除き全員が寮生活。

どうせ帰る場所は一緒なのだから、わざわざ酒場で解散する必要もなかったかもしれない。



「……なんか、俺らあの人たちを身近に感じすぎてたんだな」


ふと、隣を歩く淡黄が話しかけてきた。


「どういうことだ?」


トンチンカンな質問だったか、淡黄はあからさまに眉間に皺を寄せながらため息をつく。


「あんな任務解決、とてもできたもんじゃねぇだろ。お前は普段から寿々先輩見慣れてるせいじゃねーか?」


手順の良さ、役割分担、臨機応変さ、そして潔さ、全て唯彩警察官に必要なものだ。


「確かにな」


柳は前者と後者の両方に納得する。


寿々は単独でも数々の難題をこなすし、そのどれもで明確な失敗はない。

彼女の優秀さに慣れてしまっていた、その指摘はもっともだ。

慣れていたということは、その優秀さに頼っていたということも同義。


技術は見て盗むものというが、柳の場合、今できているのは彼女から頼まれたことをやるだけ。

その内容も物探しと書類の後処理くらい。

1年やってきてこれだけの成果は客観的に芳しくない。


師匠が優秀すぎるせいで気づけていなかった。いや、埋もれていたという方が適切か。


「まぁ元気だせよ。あんなん、一生かけても出来るような代物じゃねーわ」


淡黄も諦め半分に両手を頭の後ろに回した。


「けど、いつかあんなのが出来るように――

なりたい、ならなければ、どちらが続いたかは今の柳には分からない。


「あの代、まだ俺らの五つ上だぞ?無理無理。結局は唯彩の善し悪しなんて運なんだからさ」


そこまで言われて柳は黙り込んだ。

寿々にようになりたいわけではない、それは嘘になる。

が、淡黄の言っていることは至極もっともだ。

今の柳も、唯彩人としての柳でも、寿々とは既に持っているポテンシャルが違う。


「お、おい?いや、なんか気悪くさせたか?」


柳があまりに落ち込んでいたか、淡黄はアタフタと柳を励ます。


「ほらほら、けど最前線で活躍するだけが機関じゃねぇって言うだろ?裏からのサポートもあるし、唯彩によっては重宝されるものもあるじゃねーか」

「お前、変なタイミングで良いこと言うよな」

「は?」


「かっこよくねーってこと」


柳はふっと笑った。


「んだとぉ?お前みたいなビジュアルばっかのやつとは努力の量が違うんだ!いつか絶対美人の彼女お前に紹介してやるからな!!」


柳と淡黄はお互いに笑い合った。



*******



「かちょー。話逸れますが扇琉浜の件で」

「なんだ。報告漏れか」


今回の任務の後処理を話が一段落したところで、枯野はわざとらしく切り出した。


「まぁある意味。これ」


枯野は一冊の手記を手渡した。


「地下シェルターの壊れた金庫に入ってました。適当に分析課に回すなり寿々使うなりしてください」

「お前が調べればいいじゃないか」


課長は叱るわけではなく言う。


「いやだって俺の任務は現地調査までです。疲れたんですーかちょーガールズバー行きましょー」

「お前も行ったことなんてないだろうが」

「にゃははは」とおかしな笑い方で笑うと、枯野は課長に手を振り、同期の歩く前へ走っていった。


課長は枯野からわざわざ個別に手渡された手記を見る。

革製の表紙を彫ったような古語で『ホーミノウの手記』と記載されていた。

残華組成立の流れ

寿々さんの同期どうしよ→幼なじみ五人組にしよ→神。いいのできた→五人組か。五人組?多くない?→けど今更誰減らすよ絶対無理だ(←今ここ)

三人組ってよく出来た構成ですよね。いいんです。枠から外れていきましょ。

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