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保護猫と私  作者: 光内椿
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あなたの名前

もしかしたら、飼い主がいてどこかから脱走してしまったのかもしれないと新聞や広報誌のペットコーナーを読み漁るが、それらしき記事は見つからない。どことなく安堵したのを覚えている。それほどこの子が可愛くて、家族にしたくて仕方なかったのだ。あさましい気持である。その証拠に名前まで付けようとしていた。父は「ミャオと鳴くから光内ミャオちゃんでどうだ」と推している。私はなんとなく嫌で却下していた。「桜」「鈴蘭」「楓」「椛」植物の名前を呼んでみていた。どれか反応示したらその名前にしようと思っていた。猫にも選択する権利があると思っていたから。

「椿」と呼んだ時、猫が振り向き「にゃん」と返事をした。名前が決まった「椿ちゃん」である。

「椿ちゃん」と呼ぶと寄ってきた。もう嬉しい。初めて名前を付けたのだ。父はまだ「ミャオちゃん」にこだわっている。「光内・ミャオ・椿でどうだ?」と提案してくるが、私は肯定も否定もしなかった。だが、私はこの子を「椿ちゃん」と決めたのだ。そして自分のあさましい気持に蓋をして喜んだのである。

椿ちゃんは、爪とぎはちゃんと買ってきた爪とぎ棒でするし、トイレもすぐ覚えた。賢い子である。名前をつけ、避妊手術も受け、赤い首輪もつけ、うちの子になった。

避妊手術の際に寄生虫駆除薬を使用したが、数日後肛門から白くて太いヤツが出てきて大騒ぎしたのを覚えている。なかなかの衝撃だった。

避妊手術、受けさせるのは簡単だが、生殖機能を奪うというのは倫理的問題を私に提示した。椿ちゃんはもっと子供を産みたいのかもしれない。椿ちゃんは家猫になりたいと思っていないのかもしれない。しばらく悩んだ。しかし、発情期を迎え交尾できないというのはとてつもないストレスで家を出てしまう猫もいたり、卵巣の病気になったりリスクを考えて考えて、避妊手術受けさせることにした。しかし病院に向かう車の中で「申し訳ない。これ以上産ませてあげられない。ごめんなさい。」と懺悔を繰り返していた。

病院で診察をしてもらい預かってもらった。翌日迎えに行くと看護学生ということもあってか、摘出した臓器を見せてもらえた。小さな小さな赤黒いそれは椿ちゃんの子宮だった。本当に手術を受けさせたのだ。と事実がドンとのしかかってきた。

ドクターの説明の中で「子宮からみると、椿ちゃんは何回か出産経験があるようです。また、5~10歳とお伝えしましたが、麻酔で一時心拍が弱くなりました。もしかしたら高齢で10歳ぐらいかなと思われます。」と伝えられた。10歳の場合人間の年齢換算で60歳手前、まぁまぁおばあちゃんである。もしかしたら長く一緒に居られないかもしれないとぼんやりと思っていた。

それからもしばらく毎日脱衣所で椿ちゃんを膝に乗せ、一緒に勉強した。しかし、寒いところで長時間過ごしていたためか、声が全くでないほどの大風邪をひいてしまった。しばらく椿ちゃんとの時間はお預けである。

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