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保護猫と私  作者: 光内椿
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肉とレジャーシート

「にゃーんあおーん」猫の声で目が覚めた。

多分昨日出会ったあの三毛猫の声だった。祖母がバタバタと台所で何かしている音がする。きっと朝ごはんの用意だ。手伝おうと台所に行くと、鍋からモクモクと湯気が出ている。でもみそ汁の匂いはしない。何を作っているのだろうと、のぞくと肉が鍋の中を泳いでいた。「何を作ってるの?」と聞くと「猫様用のご飯」とおどけた様子で言っている。今朝も豆腐をあげたが、食べなかったと。でも去る様子もないし、しばらく様子を見ていて気がついた「昨日の肉が欲しいのでは」と。それから急いでお湯を沸かして肉を茹でているところに私が起きてきたらしい。

呆気にとられてしまった。「猫は毛が落ちるから」と嫌がっていた祖母が猫のために肉を茹でている。

茹であがり、冷まされた肉を持って勝手口から出ると待ってましたとばかりに三毛猫がすり寄ってきた。

昨日出会ったばかりなのに、すごい慣れようである。スリスリと右足に顔をこすりつけてくる。早速肉をあげるとすぐ頬張っていた。豆腐ではだめだったようである。食べるところをじっと見ているとミントグリーンの瞳と目が合った。でもすぐそらされてしまう。猫も食べられるところを凝視されるのは気に障ったらしい。そして私は一度部屋に戻り、フリースを羽織ってマフラーを巻き、再び外に出た。

すり寄ってきた三毛猫に手を伸ばしてみた。逃げることもなくむしろ鼻を寄せてきてすっぽり手の中に頭が収まってしまった。ふわりとした毛、ミントグリーンの瞳がこちらに向けられ眩しそうにしている。そのまま背中の方に手を滑らすと腰をぐっとあげて伸びをした。猫とはなんと美しい生き物だろう。純粋にその美しさに一目ぼれした。


その後ブロック塀に座って猫を眺めていると猫はコンクリートの地面に腕を折って座った。香箱座りという。もっと猫と一緒にいたかったがブロック塀は寒いし硬い。部屋にある厚みのあるレジャーシートを持ってきて足を延ばして座った。そうすると三毛猫は伸びをして、私の方へ近寄ってきた。また撫でさせてくれるのかと手を伸ばすと先ほどとは違いスルリと私の手を躱し、足に上ってきた。爪が刺さって痛い。だがここで声をあげると逃げてしまうかもしれないとぐっとこらえた。そして猫は私の足の上で寛ぎ始めたのである。

寛ぐ三毛猫、頭から尻尾にかけては黒色で尻尾は身体に沿って収納されている。上ってきたとき刺さった爪は仕舞われて、ふわふわの白い脚をちょこんと揃えて座っている。

私から顔は見えないが、きっとあのミントグリーンの瞳が周りを見ているだろう。それとも瞑っているだろうか。頭をゆっくり撫でて時間が流れる。まるで自分だけの猫を手に入れたようで嬉しくて口角が上がってしまう。


ふわふわの猫を撫で、太腿に温かさを感じたが、寒い。風は冷たく、何も風を遮るものがない。レジャーシートを敷いているがその下はコンクリート。どんどん体温を奪われていく。猫は私の足に上る前はこんなに冷たい場所に座っていた。寒いがこの可愛い生き物を目の前にして家の中に入る選択肢は無かった。猫を撫でているうちに心が落ち着きどこか満たされていった。まるで心の中を太陽が照らしてくれているような晴れやかさ、風のない湖面のような穏やかさ。心地よい時間だった。


さて、バイトの時間が迫ってきた。猫と一旦離れなければいけない。だが、猫を抱っこする方法がわからない。どうやって降ろしたら良いかわからず、しばらく猫が降りるのを待っていた。

降りない。全然降りてくれない。様子を見に来た母が助けてくれるまで三毛猫はぬくぬくと座っていた。

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