うちのご先祖、バイトリーダー
飴矢、けっこう珍しい名字なんですよ。
飴矢は特に理由もなくだいぶテキトーに付けたペンネームなので本名はちゃんと違います。
名乗ったあと大体聞き返されます。
電話で予約を取るときは3回は言う羽目になるので、幹事で居酒屋の予約取りなんかのときは同席する誰かの名字を拝借しています。
ついでに読み間違いも多いです。
学生の時分は途中から面倒くさくなって、よくある間違いのときは訂正せずそのまま返事してました。
印鑑もほぼ売ってないのでよくある間違いの方を買ってしれっと押してしまおうか…とも思いましたが、さすがにバレたらまずいなと踏みとどまっている。
こんな感じで珍しいので気になるのは由来。
というわけで、父に聞いてみたら父も昔気になって親戚のおばちゃんに聞いたそうだ。
おばちゃんいわく「うちは侍の家系よ!」とお寺で家系図を見せてくれた。
足軽大将だったご先祖が明治時代になり、漁師の網元へと婿養子にいき今の名字になったようだった。
その後も子が生まれないときは養子を迎えながら兄と飴矢の代が七代目。
「…足軽大将って現代でいうとなんだろうね?」
と父に聞くと
「中間管理職だし課長あたり…?」
「いや、足軽って平時は農民で戦の時だけ駆り出されるやつよね?」
と聞き返す。
「そうそう。じゃあ課長まではいかないかー」
「足軽って要はバイトでしょ?それの大将ってことは…足軽大将は現代でいうバイトリーダー…」
「バイトリーダーw」
二人の間で二度と侍の家系などとは言うまいと固く決めた瞬間である。
さて、この足軽の家系。
奇数代は真面目で賢い人物が、偶数代は破天荒が誕生するのを不思議と繰り返している。
兄と飴矢の代は七代目。
この交互に生まれる破天荒だが、四代目はその生涯を働くことなく終えた人物。
奥さんや後妻がたいそう裕福な家庭だったということもあるが、まさに高等遊民。
五代目の祖父は寡黙で真面目な人だった。
受験のときに虫垂炎さえ発症しなければ、国立大学医学部を受験予定だったそうな。
受験ができず、そうこうしていたら戦争に突入した…そんな世代。
父はこの祖父からなぜ…というレベルのお喋りかつ幼少期のエピソードが世が世ならサイコパスと呼ばれてもおかしくない変人。
「世が世なら兄上に家督を譲ってください!とか言ってわたしが父を討つわ」と信長を見ながらいうレベル。
たぶんその後わたしも兄の忠臣から、父を討った危険人物と見なされて心優しい兄に内密で討たれるタイプのプチ破天荒。
父も「有り得るな!」とか言って笑っているし、おおよそ大河ドラマを見ながらする会話ではない。
偶数代が奇数代の財を使い果たす傾向があるため、ドがつくレベルの庶民として現在は生きている。
わたしは父譲りの破天荒要素が強めだし…兄、頑張れ。
そして生まれた兄のところの男児。
控えめに言って天使は例えじゃなくてホント控えめな表現だったことに気付かされたかわいい甥っ子。
大人しい兄夫婦とは打って変わって、八代目だしまさに暴れん坊将軍。
兄が高い高いをやめるとまだしてほしかったようで「あーっ!!!」って言ってガチ切れしていた。かわいい。
涙はちっとも出ないけど「あーっ!!!」って言って怒る赤ちゃん。かわいい。
現時点ではまだ赤ちゃんだし、寝るのと泣くのとかわいいのが仕事。
背筋力と足の力が強めで抱っこしたらビチビチするから、すぐおろして好きなようにさせている。
気が向いたら大人しく抱っこさせてくれる、ありがとうございます。
甥っ子がどう育っていくか楽しみでならない。
わりと大きな物音にも動じないし、常に堂々とした大物である。
何をしても「かわいいね」か「賢いね」しかわたしの語彙力が機能しないし、破天荒でもいいと思っている。
かわいいで全てを超越してくる。
でもうちのご先祖バイトリーダーは黙っておく。
…もし名字の由来を聞かれたら、その時は兄がうまく伝えてくれることだろう。