職場の虫係
虫の話なので苦手な方は飛ばしてください。
この話で大事なところは#7119で救急車が必要か判断してくれるところに電話が繋がります※自治体によってはないところもあります
飴矢は田舎生まれ田舎育ち。
子供の頃はよく近所の小さい山や公園に行って、虫取り網を振り回していたタイプ。
夏休みの日記はほぼその日の戦果でしたね。
蝉、トンボ、蝶々やバッタ…虫取り網がなければ素早く手で捕獲していました。
そうです。野生児です。
一緒に育ったはずの兄はさほど虫にも興味を示さず、取るのもあまり上手くなかったですね。
数少ない兄より得意だったものが昆虫採集。
どの木の、どれくらいの高さにいるのかを耳で判断して無駄にいい動体視力で捕獲していました。
そうして育ったわけですが、さすがに今はそんな趣味もなく。
まぁ、トンボとか蝉あたりの持つところがあるタイプの虫くらいはまだ手で取れますけど。
「トンボは持つところがあるから」と職場で言ったら「虫にそんな場所はない」ときっぱり言われてしまいましたが…。
いや、ありますよね?虫には羽とか胸のあたりとかこう…噛まれず掴みやすい場所が!
トンボなら羽を折りたたんで親指と人指し指でつまむスタイルがデフォルトかと思っていたのに。
ともかく、職場も田舎なわけでそこそこ虫が出没するんですよね。
店内に侵入するのは主にダンゴムシ、ゲジゲジ、コオロギあたりですね。
1回クワガタのオスもなぜかいたので捕まえたところ、小学生男児のお子さんがいる同僚がお持ち帰りしました。
本人は触れないって言うから、そのへんにあったお菓子の空箱にとりあえずいれてあげました。
その後クワガタは夏休みを過ぎてもまだ長生きをして、お子さんは翌年からカブトムシやクワガタを見てもほしいと言わなくなったとか…。
ゲジゲジあたりの害虫は見つけ次第、即駆除します。
近くにティッシュや紙類があれば数枚手に取って捕獲。
袋に入れて廃棄のながれを5秒くらいで済ませます。
段ボールの方が近くにあれば手頃なサイズに切り取って叩き潰しています。
殺虫剤は少しでも吸うと喘息とアレルギーがでて、実質相討ちとなるので余程の覚悟がないと使えません。
女性が多い職場なのでわりと皆さん虫が苦手です。
なので、こういうことばかりしていたら出ると呼ばれるようになりました。
虫係の誕生です。
出勤するとロッカーに「休憩室にゲジゲジがいるので見つけたら倒してください」などと手紙が貼ってあるときもあります。
虫が出ると「今日は飴矢さん出勤?」なんて会話があっているようです。
レジ打ち中にそこそこのサイズの蛾が向かってきたら、とりあえず素手で叩き落としたり(レジが終わってからちゃんと捕まえています)それまでは虫取り網がなくてもなんとかなっていたんですけどね。
ある日。店内にアシナガバチの侵入。
レジの近くだったので、すぐに捕獲しないとお客さんがきたら危ない。
いつ飛び立つかわからないので、段ボール箱とかを取りに行く余裕はない。
何かないかな…と探すもレジ付近にはビニール袋の小さいやつしかない。
大きいレジ袋は有料だから、無料で置いている透明の小さい袋くらいしか使えそうにない。
仕方ないのでビニール袋の口を広げて、気配を消してやつの後ろに近付きます。
ある程度までそっと距離をつめたところで、一気に袋を被せます。
袋の中で元気に飛び回っている。
よくビニール袋でアシナガバチ捕まえることができたな…。
とりあえずハチを入れた袋を、動かすのをやめると上に上がってきて刺されそうになるのでブンブン振り回しながらバックヤードへ行く。
途中、すれ違った同僚に「飴矢さん、何持ってるの?」と聞かれて「アシナガバチ」と答えたら曖昧な笑みを返された。
たぶん何て言えばいいか分からなかったんだろう。
バックヤードまで行って始末する気満々でいたら、数少ない虫が平気な同僚に「かわいそうだから逃がしてあげて」と言われたので逃がしてあげた。
上司に「ビニール袋でアシナガバチ捕まえましたよ!」と報告したら「野生児が過ぎる」といわれました。
ただ軽く刺されてみたいで少し指が腫れてきたので、その場で虫刺されの薬を売ってもらって塗った。
半日くらいジンジンしていたから「あぁ、これ効くんだなぁ」と実感しました。
数日できれいに治りましたよ。
1週間後、アシナガバチに刺されたお客様のご来店。
「わたしもちょうど先週、刺されたばっかりなんですけどこれ塗りましたよ!」と斬新なセールストークで商品は売れた。
ちょうど刺されたばかりって何だろうと言いながら自分でもどうかなと思った。
さすがにこの辺りでまたハチが来たらまずいなと、私物の虫取り網を店に置いておくことにした。
その後もトンボやアシナガバチを捕まえるのに役立っている。
虫取り網(私物)の導入ってどうなんだろう…と思いつつ、店長は数人変わったけれど誰からもつっこまれないのでそのまま置いている。
今年は「スズメバチに刺された」というお客様がいるとのことで薬の説明をしてほしいと別のスタッフに呼ばれた。
売場に行くとわりと普通に立っているおじさんがいた。
まぁ元気そうなので一安心して「どんな症状がありますか?」と聞くと
「刺されたのは自分ではなく母で倒れた。どの薬を塗れば…」などと言い始めるので
「スズメバチに刺された後で倒れたなら、今すぐ救急車を呼んでください。顔色が白いなどがあればなおのこと躊躇せずに呼んでください」と即、お客様は帰した。
わたしの剣幕に先に対応していたスタッフもおじさんもびっくりした様子だったけど、ごめんよ。
スズメバチの毒は回るのが早い。
以前にも刺されたことはありますか?などの確認もいるだろうが、倒れているのは母親なら息子の見た目からしても高齢者だろう。
薬を買いにやって来ているなら、刺されて時間も経っていそうだと判断して帰らせました。
詳しい状況を聞くのは救急隊員さんに任せていいだろう。
ここで悠長に時間を使っている場合ではない。
スズメバチに刺されるのは2回目以降が危ないとはいうものの、初回でもひどく症状が出ることはあるので患部の痛み以外にも何か症状あれば救急車を呼ぶか#7119(※自治体によってはありません)で救急車を呼ぶ必要があるかの問い合わせを。
どうしても救急車が嫌なら即受診を。受付でスズメバチに刺された旨をお伝え下さいね。
そしてスズメバチに刺されたら、できるだけエピペンという自分に刺すアナフィラキシー回避の時間稼ぎのために使用する注射を処方してもらいましょうね。
形はペン型です。コンパクトに持ち運べます。
もしまたスズメバチに刺されたときなんかに自分、もしくは動ける周りの人に太腿にペン型のものをキャップを外してから押し当てて使います。
グッと押し当てるだけの注射なので使い方も難しいものではありません。
エピペン使用後は速やかに救急車を呼んで病院での処置となります。
さらに、先日はついに駐車場にセアカゴケグモが出た。
お客様から「毒グモがいるんですけど?!」と報告を受けたスタッフがいて困っていた。
とりあえず火バサミ、ビニール袋、クモの写真を撮って検索するためにケータイ電話のみの軽装備で現場に向かう。
軍手はなかったから、まぁ火バサミ持っているしと素手。
正直、駐車場は店舗の管轄じゃないんだけどなぁ…と思うものの確認くらいはしておかないとな。
セアカゴケグモだった。
どうしようもないから手持ちの装備で生け捕りにした。
現物があったほうがいいかなと思って生け捕り。
クモが入ったビニール袋はさらにもう1枚袋を重ねてから段ボール箱に入れて、逃げ出さないように厳重に包んだ。
午後になって、あまり仲の良くない店長が出勤してきたので「毒グモらしきものを生け捕りにしたので市役所あたりに連絡してください」と頼んだ。
以降、なぜか店長(クモが苦手)からは仕事以外の用件で話しかけられなくなった。
店長はあまり仕事もせず、力仕事は人任せ、若い女性スタッフにはやたらフレンドリーに話しかける(特に用事があるわけではない)のでわりと皆から嫌われているから構わないけども。
「飴さん、毒グモを生け捕りはもうパワーワードが過ぎるよ」とは同僚の談。
この一件以降、クモも見かけなくなった。不思議。
虫係としては仕事がないのはいいことである。