表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/18

7.良かった

ひまりからのお願い。

子どものかわいいお願い事だ。聞いてやりたいのも山々だけど。


「うーん、何とかしてやりたいけど、俺らが急に話に行くのも難しくないか?余計拗れるんじゃ……」


いくら妹が友だちだとはいえ、その兄貴がしゃしゃってもなあ。


「だ、だいじょうぶだよ!パパはちょっと人がニガテで、こわい顔してるだけだから!」

「……全く安心材料じゃないよ?ひまりちゃんや」

「でもね!ちゃんとやさしいのよ!」

「ひまり……」

「みんな……パパをこわがるのよ。パパもいつもムスッとしてるから、ダメなんだけど……笑ってほしいの……」


ひまりは必死に訴えた後、しゅんとして下を向いてしまう。そんな顔を見たら、普通に心が痛む。


「このままじゃ、パパはずっと一人なの……」


ずっと一人?そうだ、奥さんを亡くされているんだよな。でもケンカしてるとはいえ、かわいい娘がいてくれるのに?そんなに思い詰める程のケンカをしたのか?


「そしたら、ますます俺らの手には負えないんじゃ……」

「いいじゃん、兄ちゃん、一緒に謝ればいいんだろ?いてやろうよ!」


俺がぶつぶつ言っていると、優真が横から口を挟んできた。


「優真、お前そんな簡単に……」

「兄ちゃんはいつも考え過ぎなんだよ!何とかなるって!かわいいひまりのお願いだもんな?」

「翔真まで……考え過ぎって何だよ、ちゃんと考えないと、後からいろいろな……」

「はいはい!大丈夫、大丈夫!僕たちは手伝うよ、ひまりちゃん」

「うん、一緒に行こう、ひまり」

「いいの?!優兄ちゃん、翔兄ちゃん、ありがとう!!」


ひまりがパアッと花が咲いたように笑う。

そして三人で俺の方を見やる。


はあ……。乗りかかった船か。


「分かった、二人だけじゃ不安だし、俺も協力するよ」


「!ありがとう!一樹お兄ちゃん!」


ひまりは更に嬉しそうに言って、俺に抱きついてきた。本当に妹が増えたと改めて感じる。


ここは兄ちゃん達が一肌脱ぎますか。


……うん、一瞬でも盗みに入ろうとした贖罪も兼ねて。親父さんも、本心では早く仲直りしたいだろうしな。


「じゃあ、詳しいことは明日決めようか。ひまり、お手伝いさんが待ってるだろ?」


「あっ、そうだった!」


明日は土曜日だ。この何日かはバイトを休ませてもらっていたが、明日はさすがに行かないとだよな。で、病院も行って。


「3時くらいに公園に来れるか?」

「うん!」

「優真翔真は……」

「僕たちも大丈夫だよー。明日は午前練だけだから」

「よし、決まりだな。じゃあまた明日だな、ひまり」

「うん!ありがとうお兄ちゃんたち!またね!」


ひまりが足取り軽く去っていく。

三人でその後ろ姿を見守っていると、ひまりは途中で振り返り、俺たちに手を振る。


そんな姿を見て、俺は改めて思う。


ーーー良かった、ひまりを傷つけるようなことをしないで済んで。


まだまだうちの問題が解決した訳じゃないけれど。


これから先が不安で仕方ないけれど、それでも、だ。


「良かった」


ひまりに手を振り返しながら、一人言る。


あの笑顔を曇らせずに済んで、本当に良かった。


「?兄ちゃん、何か言った?」

「いや」


そして、この優しい弟妹にも、迷惑をかけずに済んで良かった。


ーーー本当に、本当に良かった。


「俺たちも帰るか」


気づけて、良かった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ