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12.ひまり 2

次に目覚めたのは、白い世界。


『ひまり』


私の名前を呼ぶ、綺麗な人。私は彼女を知っている。


『ママ……。わたし……わたしも、死んじゃったのね?』


私の言葉に、ママはそっと頷く。

そして、私を抱きしめながら、現世を見せてくれた。


そこにいたのは、私のお葬式で生気のなくなったように茫然と佇むパパと。パパの代わりに必死で段取りを進める頼くんと関じぃ達だった。


不思議なことに、こうなるといろんな事が全て見えて来た。


パパがママとの仕事を、本当にやりきりたかったこと。

そこに私を連れて行きたかったこと。

途中で面倒なライバル会社の横やりが入って、思う通りに進まなかったこと。

私を愛してくれていたけど、会うとママを思い出して辛くなったこと。

ママの死を私のせいとは思っていなかったけど、また愛しすぎて喪うのが怖くて、どこかで線を引いてしまっていたこと。

そしてそれを後悔していること。


ーーーいろいろ、いろいろ見えて来た。


『ママ……どうしよう。ひまり、パパに酷いこと言ってお別れになっちゃった』

『……そうね。悲しいわね。でもひまり、これは仕方ないの。パパが自分で考えて、乗り越えなくちゃいけないのよ』

『ママ、つめたい……』

『そうね。冷たく思うだろうし、厳しいわね。でも、これはパパが自分で引き寄せてしまったものだから。……分かる?』

『……わかんない』


本当は、ちょっと分かってきていた。

パパは、ママが大好き過ぎて、ママの死から逃げすぎていた。喪うことを恐れすぎて、大切なものに手を伸ばせずにいた。自分で気づかないと、いけないことだった。


でも。


『ひまりもパパに酷いこと言っちゃったから。パパにちょっとでもごめんなさいをしたいの』

『ひまり、それはちょっと難しいわ。ママも会いたかったけど、パパは心を閉ざし過ぎていて近付けないの』

『でも!やるの!ママは帰っていいよ』

『ひまり……』


分かってる。ママは私を迎えに来てくれた。温かい世界に還るために。でも、私はまだいけない。

ワガママは、子どもの特権だ。まだまだ、難しいことなんか、理解してあげないんだから!


『……もう、その頑固なところは誰に似たのかしら』

『きっと、二人によ』


私の答えに、ママが『そうね』と、楽しそうに笑う。


『本当にそっくり。分かったわ、少しの間だけ、好きにしなさい。……本当に難しいわよ?』

『うん!ありがとう、ママ!』


こうしてママから許しをもらい、パパへの接触大作戦開始!となったのだけれど。



……パパの心の壁の高さは、想像以上だった。



私たちを失くして、ますます仕事人間になったパパは、周りにも容赦がなかった。

理不尽な事はしない。けど、正論で追い詰められ過ぎるのも、人間には厳しい時がある。

雑な経営で傾いていた同業他社を買収した時も。優しさの欠片も見えないやり取りに、逆恨みも増えていく。

噂には尾ひれが付き、パパがやっていないことまでパパのせいになっていく。


そして、世の中に闇サイトだの、なんだのが蔓延(はびこ)り始めた頃には、森山家を取り巻く気配が黒く淀み過ぎていて、私はおいそれと近付けなくなっていった。


『もーう!パパの頑固者~!意気地無し~!!』

『あら、諦めた?やっぱり難しいわよねぇ、困った人』


こっちの世界は時間の概念はないけれど、現世では数年経った頃。じたばたしている私に、久しぶりにママも降りてきて声をかけてきた。


『諦めない!もん!だって、このままだと、パパはあの暗い所にいっちゃいそうだもん。そうしたら、本当にずっとずっと会えないじゃない』

『そう、なのよね。自業自得とはいえ、ひまりとママは寂しいね』

『……うん。パパのバカちん』


他人を……そして何より自分を不幸に追い込むのは、何よりの罰なのだ。業ってやつ?パパみたいに自殺的な行為なんて、もっての他。こちらの世界に来ても、暗くてじめじめした所からの始まりになってしまう。


『……はあ。現世は人の力が強いしなあ……。どこかにあの闇を祓える人はいないかな~!』

『……また、難しいことを言い出したわね』


私が見えて、暗闇に負けない人。


『いたところで、どうするかって話だしね……はあ……』


もし、いたとして、祓い屋です!なんて怪しげな人を家に入れてくれないだろうし。

呪い殺されるなら、それはそれで別にとか思ってそうだし。

ますますコミュ障だし。


そろそろ潮時かな。


そんな諦めかけた時に、奇跡の出会いがあったのだ。



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