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1.涙も出ない

人間て、安心したりとか、まだ余裕のある時の方が泣きやすいと聞いたことがある。あまりにもショックが大きすぎると、泣くこともできないと。


今の俺だ。


川村一樹、もうすぐ17歳。高校二年生だけど、学校は辞めることになりそうだな。


なぜなら、ついさっき、ろくでなしの父親がいなくなったあの日から、女手ひとつで俺ら四人兄妹を育ててくれた母さんが死んだからだ。頑張り過ぎの、心筋梗塞だった。



「わあぁぁぁん!お母さん!!お母さん!目を開けてよぉ!」


末っ子のひとみが、母にすがり付いて泣いている。それはそうだ。まだ6歳の一年生だ。


「ひとみ、ひとみ。母さん頑張ったから。寝かせてあげよう?」

「兄ちゃん抱っこしてやるから。ほら」


泣いて鼻声になりながらも妹に声を掛けるのは、双子の弟の優真と翔真。奴らもまだ中学生だ。


「優真、翔真。兄ちゃん病院と話をしてこないといけないから、母さんとひとみを見ていてくれな」


「うん。兄ちゃんは、一人で平気?」


「大丈夫だよ。行ってくる」


気遣い屋の優真が声をかけてくれるが、一人で事務手続きに向かう。正直に言えば、現実味が無くて、どこかぼんやりしてしまっていて、一人は心許ない。けれど、今回の病院代と葬式代で、なけなしの貯金だって大部分無くなる現実があるのだ。自分がしっかりしなくちゃいけない、これが第一歩だ。


「うし!」


俺は両頬を軽く叩いた。


挫けてもいられない。まだまだ小さい弟妹がいるのだから。





お葬式や、それに付随するなんやかんやは、悲しみを紛らわせるために忙しくあるもんだとか言われているけれど、自分がその立場になると納得してしまった。


お金やら手続きやらで、泣く暇もない。


とはいえ、うちは両親共に天涯孤独だったから親戚もいないし、火葬場で簡易的なお葬式を兄妹であげただけだったけれど。それでも、充分な忙しさだった。主に気持ちが。


アパートの家賃や光熱費だって、待ったなしだ。保険に入る余裕もなかったしな。仕方ない。




それでも、何とかやりくしてひと月が経とうとした頃。


「ひとみさんは、小児がんと思われます」


「え……」


母が亡くなって、二週間くらいしてから、ひとみの体調が芳しくなかった。ずっと微熱が続いて……。引いたと思うと、また発熱するのだ。母を亡くした寂しさかと思っていたのだが、あまりにも続くので病院に連れてきた。


けど、まさか。


「小児、がん……」


「……その中でも血液のがん……白血病です」


「白血病……」


俺は馬鹿みたいにおうむ返ししかできなかった。だって白血病なんて。何かの話やドラマでしか見たことないし。だって。まさか。


「川村くんの所は、お母様も亡くなったばかりで大変だけど……今は兄妹だけで?ご親戚なんかは?」


呆然としている俺に、ドクターが聞きづらそうに聞いてきた。


「兄妹だけです……。うちは両親とも天涯孤独で……父もいなくなってますし……」


「……そうか。うん。……いろいろ大変だとは思うけど、病院でも役所に確認したりいろいろやってみるから!ひとみちゃんが頑張れるように、いろいろ考えよう」


「ありがとう、ございます……」


ドクターのご厚意はありがたい。



けれど、先の見通しがはっきり立った訳でもない。不安だらけだ。ひとみの病状も何もかも。





ーーーああ、神様。俺たち兄妹が何か悪いことをしましたか?


お金はないけれど、社会に迷惑をかけないように頑張っているつもりです。弟も妹も、ワガママも言わず慎ましく暮らしています。


世の中、悪いやつなんていっぱいいるのに。


何で、ひとみなんですか。


理不尽の一言では済まないよ。


……本当に、涙もでないわ……。

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