表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤き贖罪の英雄譚 -The Legend Of Re:d Stone-  作者: シクル
Season0「The Return To The Origin」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

77/112

episode77「荒れ狂う獣性-Origin Of Rivalry-」

(――――速ェッ!)


 チリーの身体のど真ん中。つまるところ、正中線……青蘭はそれを的確に狙う。


 一手。


 二手。


 三手。


 青蘭の連撃が、チリーの正中線に立て続けに打ち出される。一、二手目は身を引いてかわしたものの、更に踏み込んだ青蘭の三手目の拳は避け切れずに胸部で受けてしまう。


 ふっ飛ばされかけたのをどうにか持ちこたえ、チリーは反撃を試みた。


 しかし乱暴に振り回した拳は空を切り、カウンター気味に顎に青蘭の右拳によるアッパーが繰り出された。


「――ッ!?」


 そのアッパーを、チリーは左手でどうにか受け止める。その咄嗟の防御に、青蘭は一瞬目を剥く。


 すぐに青蘭は拳を引いて態勢を立て直そうとしたが、チリーの左手が強引に青蘭の拳を握りしめ、捕らえていた。


 その驚異的な握力に青蘭が戸惑っている内に、チリーは青蘭の左手を右手で抑え込み、そのまま青蘭の頭部に思い切り頭突きを喰らわせた。


「ぐッ……!」


 いくら身体を鍛えても、身体の構造上、人間は頭部へのダメージに弱い。しかしそれは本来、頭突きを喰らわせたチリーも同じハズだ。


 だがチリーはそのまま青蘭の両腕を掴んだまま、青蘭の腹部に膝蹴りを叩き込む。


「やっぱりなァ……ッ!」


 頭部から僅かに血を垂らしつつ、チリーが笑みを浮かべる。


「”武術”とかいう形式張ったモンのにこだわってるテメエは、予測の外の攻撃にゃ対応し切れねえらしいなッ!」


 事実、青蘭の戦い方は相手の動きを読んで反撃を行う”カウンター型”の闘い方だ。


 予測とは常に自身の想定する範囲で行うものだ。攻撃をそのまま受けながら強引に相手の動きを止め、自身へのダメージを考慮せず頭突きで反撃する闘い方は、青蘭の想定の中にはなかったのである。


 青蘭がこれまでの闘いを制してこれたのは、これまでの相手が全員予測の範囲内の動きしかしてこなかったからだ。


 自身を傷つけてでも強引に攻めてくる人間との闘いを、青蘭は知らなかった。


「貴様ッ……!」


 しかしそのまま終わるような青蘭ではない。


 その場で踏ん張って足払いをしかけ、チリーが態勢を崩しかけた隙をついて強引にチリーの両手を振り払う。そして即座に、半ば慌てるようにしてチリーから距離を取る。


「……貴様を”天性の獣”と称したが……訂正させてもらおう」

「あ?」

「貴様はただの獣だ! 荒れ狂うその獣性……俺が制する!」

「ンだよ……口のわりに楽しそうな顔してンじゃねえか!」


 青蘭自身は気づいていないが、その口元には笑みが浮かんでいた。


 退屈でしかないと感じていたこのコロッセオでの闘いの中、未知なる好敵手との遭遇は青蘭にとっても心躍る体験となったのだ。


 そして一進一退のその闘いに、多くの観客達から歓声が上がる。


 既に彼らのせいで賭けに負けた貴族達は大半がコロッセオから退場している。この場に残っているほとんどの人間は、純粋に試合の観戦を望む者と、チリーや青蘭に賭けている酔狂な者達だけだった。


「仕切り直しと行こうじゃねえか! 青蘭ッ!」

「どこからでも来い! ルベルッ!」


 チリーと青蘭が互いに構え直した――――その時だった。


 会場から控室に続く通路から、突然悲鳴が上がる。慌てて二人がそこに視線を向けると、通路の向こう側から顔のひしゃげた男の死体が会場の中に投げ込まれた。


「なッ……!?」


 突然のことに息を呑む二人。

 そして通路の中から現れたのは、体長三メートル程もある巨大な熊だった。


「なんだこいつ……どっから入って来やがったんだ!?」


 真っ黒な体毛のその熊は、顔の辺りに大きな爪痕が残っている。獰猛かつ凶暴なその獣は、腹でも減っているのか、チリー達を見て咆哮した。


「うわあああああ!?」


 熊が乱入するなどという話は、観客の”ほとんど”が聞かされていない。悲鳴を上げた観客達は、一目散に出口に向かって駆け出していく。


「ここでエクストラマッチの開始だァーッ! 飛び入り参加の謎の少年、ルベル・C(チリー)・ガーネットと、東から来た放浪の戦士青蘭との闘いに、魔獣の森のヌシ、トロルベアの乱入だァ!」

「ハァ!? 聞いてねえぞふざけんなッ!」


 罵声を浴びせるチリーだったが、審判はそれだけ叫ぶと一目散にその場を去っていく。


 会場には、チリーと青蘭、そしてトロルベアだけが残された。



***



 その光景を、観客席から悠然と眺める男がいた。

 ケヴィン・サディアスと、エルピス・サディアスだ。


「親父、本当に大丈夫なのか? あんなの放っちまって……」


 不安げに問う息子のエルピスに、ケヴィンは鼻を鳴らして応える。


「最後は弓兵に毒矢を射たせる準備をしてある。我々はトロルベアが生意気なガキ共を蹂躙するのを、ここで眺めておけば良いのだ」

「なるほど……それもそうだな! よし、あの猿を喰っちまえトロルベア!」


 ケヴィンの言葉を聞いて、エルピスは心底愉快そうに手を叩くとトロルベアの応援をし始めた。


 トロルベアは、コラドニアシティの街道沿いにある魔獣の森に棲んでいた大型の熊で、トロルベアとは近隣住民が付けた俗称だ。


 クレミー一派が魔獣の森に住み着く前、あの森が魔獣の森と呼ばれていたのはこの化け熊がヌシとして棲んでいたからなのである。


 それをケヴィンの私兵達が罠を仕掛け、数十人がかりで捕らえたのがこのトロルベアだ。


 ケヴィンは元々自身の権力や力の象徴としてトロルベアを捕らえ、飼育させていた。そのトロルベアを今、チリーと青蘭を抹殺するために会場に解き放ったのだ。


「お前にくれてやる最後の餌だトロルベア……! あのクソガキ共をぐちゃぐちゃのミンチにして貪り食え!」


 ケヴィンの言葉に呼応するように、会場でトロルベアが再び咆哮した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ