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赤き贖罪の英雄譚 -The Legend Of Re:d Stone-  作者: シクル
Season3「The Origins Of The Legend」

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episode63「従え-I am The Red Stone-」

「壊そうぜ。それこそが俺達の責務だ」


 うずくまったチリーの肩に、そっと赤い手が置かれる。チリーはそれを振り払わず、低くくぐもった声で、問いかけた。


「……何のためだ……?」


 チリーの問いに、人影は首を傾げる。


「何のために壊すのかって聞いてンだよ」


 チリーが下から睨めつけると、人影はチリーの肩から手を離す。


「……さあ? 俺はそう作られたからそうするだけだ。道具だからな」


 道具が、その在り方を疑問に思うことはない。ただそのように作られ、そのように役目を果たすだけだ。


 ここにいる人影は、己を賢者の石だと主張する存在は、ただそのように在るだけなのだ。


 人語を解すせいで誤解してしまいそうになるが、この人影はただの道具に過ぎない。破壊に意味も、理由もない。


「……そうかよ」


 そう呟いてから、チリーは力強く手を伸ばす。


 赤い人影の首をつかもうとした手は、ぬらりとした感覚と共に人影の中に入り込んでいく。掴んだような感触はない。


「だったらテメエは俺が使う」

「……ほう?」

「お前がただの道具で、その力に理由も意味もねえならッ!」


 そうだ。


 この旅の中で、チリーは誓った。


 力を破壊のために使わない。


 この力は、”守るために使う力”であると。


「俺に従え賢者の石ッ! 勝手に人の身体に間借りしてンだ……家賃ぐれえ払え!」

「……!?」


 そこで、人影は異変に気づく。


 自身の赤い身体が、少しずつチリーの中に溶け込んでいっているのだ。


 抵抗しようとしてもまるで止まらない。赤い人影は――――賢者の石の力は、チリーの中に取り込まれていく。


「俺は破壊の力だ……俺はいずれお前の意識を奪い、責務を果たす」

「たかが血の分際でデケェ口叩いてンじゃねえよ。テメエは黙って俺に使われてやがれッ!」


 その言葉を皮切りに、チリーが賢者の石の力を取り込む速度は早まっていく。


 完全に取り込まれる寸前、人影がもう一度だけ音を立てて笑ったような気がした。



***



 マーカス・シンプソンは、目の前で起こる現象に困惑していた。


「ウサちゃんの血は動かないだろォォォォォォォォォッ! ふざけないでよォォォォォォッッッ!!!!!!」


 そしてブチギレていた。


 魔力を爆発させるウサギなどあってはならない。

 エリクシアンのウサギなどあってはならない。

 まして血がひとりでに動き出すウサギなど論外だ。


 ウサギとは愛らしく柔らかく、純粋で無垢で汚れのない、愛情を命として具現化させたようなものでなくてはならない。というのがマーカスの思想だ。それは他の動物も例外ではない。


 しかし目の前のウサギは完全に”解釈違い”だ。こんなウサギはあり得てはならない。


 今にも暴れ出しそうな程に冷静さを欠きつつあったマーカスだったが、倒れているウサギの身体に異変が起こり始めていることに気がつく。


 ウサギの身体が、少しずつ人間に戻り始めている。


 恐らく、吸い込んだマーカスの魔力が、血と共に体外へ排出されたからだろう。完全に元に戻るのも時間の問題だ。


 本来なら、あの一撃で死んでいるハズの命だ。しかし元に戻り始めた手足はピクピクと痙攣している。恐らくまだ生きているのだろう。


 そして体外に放出された血は、人を象った後は大きな動きを見せない。プルプルと震えており、まるで何かに拘束されているかのようだった。


「さッ……殺処分ッ……してやるゥ……ッ! 殺ッ殺ッ殺ッ殺ッ殺処分ッ!」


 血を警戒しながらも、マーカスは素早く倒れたウサギに近づいていく。もうその身体はほとんどがチリーに戻っており、ウサギとは呼び難かった。


「天に返還しろォォォォォ!」


 アーミーナイフを振り上げ、奇声を上げるマーカス。しかし次の瞬間、血が凄まじい速度でチリーの身体の中へ戻り始めた。


「――――ッ!?」


 チリーの周囲で激しく魔力が迸り、その衝撃でマーカスは弾き飛ばされてしまう。


 慌ててマーカスが起き上がると、意識を取り戻したチリーが立ち上がっていた。


 それも、今までとは全く違う姿で。


「なんですか……それは……ッ!? なんなんですか!?」


 チリーの全身を、赤い血が装甲のように包んでいた。しかし左目だけが露出しており、チリーの真紅の瞳がマーカスを捉えている。


 口元は、完全に血の装甲で塞がれていた。アレは恐らく、マーカスの霧をこれ以上吸わないためだろう。あの状態では、チリー自身も呼吸が出来ない。


 ようやくクリアになった意識の中で、チリーは心底安堵する。


(動かせる……! コントロール出来る!)


 今まで血の装甲は、完全にチリーのコントロールを外れていた。暴走する魔力が、ただ荒れ狂うだけの力だった。


 だが今は違う。身体を流れる魔力も、身にまとった魔力もコントロール出来る。


 その中で、疼くような感覚があった。全てを破壊しようという、力の中の意志がチリーを急かすように脈打っている。


(……はしゃぐなよ。とりあえず暴れられそうで嬉しいのか?)


 刹那。チリーはマーカスの前から姿を消した。


 困惑するマーカスだったが、その顔面にチリーの右手が迫る。


「ッ!?」


 そのまま顔面を掴まれ、マーカスは地面に叩き伏せられた。


「ぶげッ……!?」


 マーカスが悲鳴を上げても、チリーは攻撃の手を緩めない。


 強引にマーカスの身体を起こすと、その腹部に渾身の左拳を叩き込む。


 衝撃で吹き飛ぶマーカスだったが、その身体に血のロープが巻き付いた。


 魔力濃度の高いチリーの血は魔力そのものだ。コントロール次第でどのような形にでも変化する。


 チリーはマーカスの身体に巻き付いたロープを強引に引き寄せた。


「うおおおおおおおおおッッ!?」


 血のロープに引き寄せられたマーカスを待っていたのは、尋常ならざる密度の魔力が込められた左拳だ。アレほどの破壊の魔力を直接叩き込まれれば、エリクシアンでも無事ではすまない。


 どれだけ逃れようともがいても、血のロープはマーカスを放さない。


 そしてマーカスの身体には、必殺の一撃が叩き込まれた。


「かッ……!?」


 赤黒い魔力が閃光の如く弾けて、マーカスの腹部で炸裂する。その一撃で意識を手放して、マーカスはその場に倒れ伏した。


 それと同時に、周囲に立ち込めていた霧状の魔力が消えていく。マーカスの能力が完全に消えたのを確認してから、チリーは口元の装甲を解いた。


 今のところ、コントロール出来ている証拠だ。


「……まあ、悪くなかったぜ。たまにゃ人参もな」


 冗談めかして吐き捨てて、チリーはとりあえず脱いだままになっている自分の服を回収しに行った。


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