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赤き贖罪の英雄譚 -The Legend Of Re:d Stone-  作者: シクル
Season3「The Origins Of The Legend」

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episode58「空からの刺客-Mad Bad Circus Time Pt.2-」

 エトラとの戦闘を終え、エリザを箱に片付けたシアはすぐにミラルの元へ駆け寄った。

 かなり乱暴な救出になったが外傷は特にない。


 こうやってまじまじと見て初めて、シアはミラルの手の包帯や、頬や首筋に残る切り傷の痕に気がつく。


「……こんな傷だらけで、なに人の心配ばっかしてんだか……」


 シアには想像もつかないような事情が、彼女にはあるのだろう。ウヌム族の里に用があるのも、ゲルビア兵に追われていることやエトラの”聖杯”という言葉と関係があるハズだ。


 こんな少女が、一体何に巻き込まれているというのか。そんな状態で、何故シアや里の心配までしてしまうのか。


「とにかく、義理は果たすわよ。ほったらかすと寝覚め悪いし」


 自分に言い聞かせるような言い訳を漏らしつつ、シアはミラルを背負おうとする。しかしその瞬間、上空から刺すような殺気が降りてきた。


「エトラ・グランヴィル。彼はもう終わりだね。ニ度も失敗するなんて」


 半ば反射的にシアが振り返ると、そこには巨大な翼を舞わせて宙に浮く、一人の男の姿があった。


 これだけ派手に化け物じみていれば考えるまでもない。エリクシアンだ。


 肩にかかる程度の薄茶色の髪と、美しい切れ長の瞳。美男子と言って差し支えない見た目だ。


「美しい僕に見惚れているが……僕の瞳に映る君の姿もよく見た方が良い。君もまた、美しい」

「……そりゃどーも。後で一杯どう?」

「喜んで。僕が奢るよ。その少女と引き換えに、ね」

「――――エリザっ!」


 エリザは今、エリクシアンの血を吸って興奮している。立て続けに使ってコントロール出来るか不安だったが、エリクシアンを相手にするにはこれしかない。


 だが次の瞬間、男の翼から数本の羽が発射される。


 それはまっすぐにエリザの箱に突き刺さり、まるで楔のように箱を閉じた。


「見ていたよ。人形遊びには付き合いたくないな」

「つれないのね。女子は人形遊びが好きなのよ」

「言わないだけで男子も好きさ。ただ、今日は遠慮しとこうかな」


 そして男は、ポケットから一つの十字架を取り出す。それがなんなのかシアが考えるよりも、その十字架が力を発揮する方が早い。


元素十字エレメントクロス……ウィンド


 男の言葉が呪文となり、十字架が――――元素十字エレメントクロスが力を放つ。

 局所的に発生した突風が、シア達に吹き付ける。


「っ……!」


 思わず腕で顔を庇ってしまう程の強風だ。しっかりと足に力を入れておかなければ態勢を崩されてしまう。


 そしてこの突風で、エリザの入った木箱は数メートル先まで飛ばされてしまっていた。

 エリザも木箱もかなり軽い。これだけの突風が吹き付ければ簡単に飛ばされてしまう程に。


「さて、どうする?」


 これで一気に、シアには戦う術がなくなった。


 恐らくあの十字架……元素十字エレメントクロス魔法遺産オーパーツだ。エリクシアンな上に戦闘用の魔法遺産オーパーツまで持っているとなると、最早シア一人では手に負えない。仮にエリザを使えたとしても、飛べないエリザと安全圏から攻撃出来るあの男が相手では圧倒的に不利だ。


 逃げるのは難しい。森の中に身を隠して祈るしかないのかも知れない。


「答えが、君の瞳に映ってる。降伏した方がいいよ」

「あらそう? 一応あたしの目には”ぶっ殺す”って書いといたつもりだったんだけど」

「口が悪いのは良くないね」

「口の悪い女にしかない色気ってのがあんのよ。ばーか」


 減らず口を叩くシアに、男はふっと笑みをこぼす。


「仕方ないな。あまり好きなやり方じゃないけど、強引に行かせてもらうよ」


 そう言って、男が翼をはためかせた……その時だった。


「待て待て待て待て! ちょっと待て!」


 突如、大ババ様の家の方から青年の声が響いてくる。


 見れば、そこにいたのは二本の足でしっかりと立ち、こちらへ歩いてくるシュエット・エレガンテの姿があった。


「誰だ……君は? 手配書の少年とも違うな」

「ハッハッハッ! 俺を知らないとは幸福な奴だな。今から俺を知ることが出来るのだから!」


 のたまいつつ、シュエットはシアの前に立つと、腰に下げた剣を……アダマンタイトソードを抜いた。


「シュエット! アンタ、まだ起きてきちゃダメでしょうが! こんな短時間じゃ、傷は完全には治らないわよ!」

「心配してくれるのか? ならそれが一番の秘薬だ。俺はこの通り、ピンピンしている!」


 治癒の秘薬は、確かに強力な治療薬だ。人間の持つ自然治癒能力を極限まで高め、眠っている間にあらゆる傷を短期間で治す。


 だがシュエットが眠っていた時間はほんの数分間だけだ。多少は治療出来ていても、決して万全ではないハズだ。


「俺の名はシュエット・エレガンテ。誇り高きヴァレンタイン騎士団で……いずれ最強になる男だ!」

「ふぅん。知らないけど」

「なんだー! その興味なさそうなリアクションは! お前も名乗れ! 失礼な奴だなまったく!」


 憤慨するシュエットに、男はつまらなさそうにため息をついて見せると、渋々と言った様子で名乗り始める。


「僕はゲイラ・バーキット。マーカス隊の副官だよ。これでいい?」

「よし、では決闘だ。俺は強いぞ」

「……そうは見えないけど?」

「ふっ……聞いて驚けよ。俺はかつて……あのサイラス・ブリッツと一対一で戦い、生き残った男だ!」

「な……ッ!?」


 声高に叫ぶシュエットに、ゲイラだけでなく後ろのシアまでもが驚愕した。



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