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赤き贖罪の英雄譚 -The Legend Of Re:d Stone-  作者: シクル
Season3「The Origins Of The Legend」

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episode57「人形遊び-Mad Bad Circus Time-」

「人質はどうでもいいんだね? シア・ホリミオン?」


 しかしシアは、動揺するどころかミラルの首筋目掛けてエリザのノコギリを振り上げたのだ。これには流石に驚愕し、エトラはミラルを突き飛ばしながらノコギリを回避する。


 ミラルがエトラから離れた瞬間、今までエリザに任せていたシアが駆け出す。そして素早くミラルの元へ辿り着くと、彼女を庇うようにして立ち、ニヤリと笑みを浮かべた。


「はい、賭けはアンタの負け」

「チッ……」

「手配書には生け捕りにするように書いてあったし、アンタも殺さずに連れて帰ろうとしてたじゃない? だったら、一番まずいのはこの子が死ぬこと」


 エトラは、シアの豪胆さに驚嘆する。


 シアは、エトラがミラルを絶対に殺さないと高をくくったのだ。だからこそ、エリザで強引に攻めて、ミラルに危険が及べば、エトラは彼女の命を優先する。生きたまま連れて変えるのが彼の任務だからだ。


 だからと言って、普通はそこまで度胸のある賭けには出られない。この状況で当たり前のように助けるべき相手の命をベットするこの女は、エトラからすればまともではない。


「ここまでは褒めてあげるね? でも、まさかこの後逃げ切れるだなんて思ってないよね? シア・ホリミオン?」

「はぁ? アンタ、あたしが逃げると思ってんの? ざけんじゃないわよ。こっちゃ腸煮えくり返るくらいムカついてんのよ!」


 そのまま、エリザはエトラ目掛けて駆けていく。


「……少し厄介だね?」


 ノコギリを避けながら、エトラは右手から魔力のロープを伸ばす。そして近くの大木に巻きつけると、そのままロープを一気に縮めた。


 縮むロープの勢いで大木の枝の上に上り、エトラはエリザの様子を伺う。どうやら、簡単に勝てる相手ではないらしかった。


「イカナイデ……イカナイデ……サミシイ、ヨ」


 エリザは顎を鳴らしながら高速で大木へ接近すると、そのノコギリを大木目掛けて薙いだ。


 鋭い刃が幹にめり込み、ノコギリはそのまま高速で前後する。木片を散らしながら大木を切り倒そうとするエリザを見て、エトラは思わず息を呑んだ。


「だが所詮は操り人形だね? そうだね? シア・ホリミオン?」


 エトラの左手から、魔力のロープが伸びる。その瞬間、エリザはノコギリを大木から引き抜き、ロープ目掛けて跳躍する。そしてそのノコギリで、エトラのロープを切り落とした。


「ただのノコギリじゃあないねッ!? そうだねッ!?」


 驚愕しつつも、エトラは次の手を打っていた。


 今度は左手のロープが、シア……正確には、シアとエリザを繋いでいる糸へと向かっていた。


 何本もの糸が、ロープによってまとめ上げられる。それを力強く引き寄せ、エトラはシアによるエリザのコントロールを妨害しようと試みる。


 エリザは強力だが、所詮は糸で操られた人形に過ぎない。操り手がいなければ、ただの人形なのだ。


「あ、ちょっとバカ! 何すんのよ!」


 シアの指に張り付いていたエリザの糸が、離れていく。その結果、エトラの目論見通り、エリザの動きがピタリと止まった。


「楽しい人形遊びだったね? シア・ホリミオンッ!?」

「あーあ……知らないわよ」


 エリザが止まればこちらのものだ。そう判断して、エトラは大木から、シア目掛けて跳び上がる。


 しかし次の瞬間、エトラは信じられないものを見た。


「ムシシナイデッ……アソンデ、アソン……デ……」

「え――――?」


 エトラの眼前に、エリザがいたのだ。


 一瞬頭が真っ白になりかけ、エトラはシアの指を確認する。その指に糸はない。エリザは今、誰にも操られていないハズだ。


 しかしエリザは、空中でそのままエトラに組み付いた。


「うおおおおおおおおッ!?」


 組み付いてきたエリザのノコギリが、エトラの背中を高速で切り刻む。いくらエリクシアンの身体が丈夫でも、痛みがないわけではない。何度も何度も切り刻まれれば、絶叫する程の苦痛になる。


「あたしはエリザを動かしてるんじゃないわよ。”制御してる”だけ」


 魔法遺産オーパーツエリザ。またの名を、殺人人形キリングドールエリザ。


 この人形は、使用者の魔力に反応して”動き始める”のだ。糸はあくまでエリザの制御装置に過ぎず、エリザ自体は”自律行動する殺人人形”であり、からくり人形ではない。


「ぐッ……ッ!!」


 激痛に抗い、エトラはエリザの拘束から逃れようともがく。しかしエリザはエトラの身体にピッタリとはりつき、決して離れはしなかった。既にノコギリの刃は骨まで達している。骨に刃がめり込む厭な音が響いていた。


 地面に落ちて、エトラはエリザに上から覆いかぶさられるような態勢になる。返り血にまみれた美しい人形が、顎を上下させながらエトラを見下ろしていた。


 今までせわしなく動いていた目が、今はピタリと動きを止めてエトラだけを見ている。


「ダイスキッテイッテヨ……ズット、イッショニ……」

「ひ、あ……うわーーーーーッ!?」


 パカリと開いたエリザの口から、太い針が伸びてくる。ソレがエトラの首筋に突き刺さり、そのまま凄まじい勢いで血液を吸い始めた。


 エリザの動力源は魔力だ。しかしそれは、必ずしもシアのものである必要はない。


 魔力の流れる血液。即ち、エリクシアンの血液を吸い取れば、それはエリザの動力源として十分以上の働きをする。


「……はい、やめ! やめろ!」


 ある程度血を吸ったところで、シアは強引に後ろからエリザを掴む。すると、エリザはぐるりと頭だけを回転させてシアを見た。


「アソンデ……」

「嫌よ。もう十分でしょ。遊びは終わり」


 シアが近づくと、エリザの糸は吸い込まれるようにしてシアの指に張り付いていた。再び制御されたエリザは、シアの指の動きに従ってエトラから離れていく。


 普通の人間ならとっくの昔に死んでいるだろう。エトラは無惨な姿に成り果て、意識を失ってピクピクと痙攣を繰り返していた。


 エリザは、シアの動きに抗おうとしている。これが始まると、もうまともに制御出来ない。


 小指を五回、次に人差し指を一回、最後に親指を一回曲げる。この手順を左右の手で行う。これがエリザを沈めるための手順だ。エリザはノコギリを収め、目と口を閉じると眠るようにその場に倒れた。


「はぁ……疲れた。毎回思うけど二度とこいつ使いたくないわね」


 エリザは再び折りたたまれ、木箱の中にそっと片付けられた。



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