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赤き贖罪の英雄譚 -The Legend Of Re:d Stone-  作者: シクル
Season3「The Origins Of The Legend」

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episode56「悪夢の見世物小屋-Mad Bad Circus Time-」

 チリーの強さは、まさに一騎当千、と言ったところだった。


 普通の人間に過ぎないゲルビア兵が、束になってかかっていっても相手にならない。数で勝っていても囲むことすらままならないのだ。動きの速すぎるエリクシアンは、訓練された兵でも捕らえることは難しい。


 戦えるゲルビア兵達の数は、凄まじい勢いで減少していく。数分程度で半分程度まで減少し、ゲルビア兵達は撤退を視野に入れ始めた。


 このまま全員叩きのめし、ミラル達の元へ合流しよう。そう考えたチリーだったが、ゲルビア兵達の向こうから異様な気配を察して目つきを変える。


(エリクシアン……!)


 ミラル達とは早めに合流したかったが、エリクシアンが現れたとなれば無視して突破することは難しいだろう。


「これはこれは……ルベルさんじゃあありませんか」


 こちらへ歩いてきた男はかなり体格の良い男だった。


 チリーより頭二つ分は大きいだろう。見上げるような大きさだ。

 全身が分厚く、骨格レベルでの太さが見て取れる。顔は長方形に近い角ばった顔立ちで、柔和そうなタレ目がにこやかにチリーを見据えていた。


 かなり威圧感のある男だったが、それとは別の不気味な気配を漂わせていることにチリーは気づく。


 どこか薄気味悪さを感じ、チリーは本能的に警戒を強めた。


「僕はこの部隊の隊長を務めるマーカス・シンプソンと言います。あなたも、少し自己紹介してもら――――」


 言いかけたマーカスの身体に、魔力の熱線が直撃する。


 マーカスと会話をするつもりは、チリーには一切なかった。油断している姿を見せた隙に、魔力を叩き込んでひとまず黙らせる算段だ。


 当然不意打ちだったようで、マーカスは驚愕で顔を歪めつつ熱線をそのまま受け、ふっ飛ばされて倒れ込んだ。


 マーカスは間違いなくエリクシアンだ。それもあの体格である。今の一撃で完全に沈むハズがない。すぐにチリーは倒れたマーカスへ追撃をしかけようとしたが、ふと異変に気づく。


「なんだこれは……ッ!?」


 チリーの周辺一帯が、濃いピンク色の霧に包まれているのだ。咄嗟に口元を抑えたが、僅かではあるものの既に吸い込んでしまっている。


 チリーの内側に、不快で重たい魔力が流れ込んでいく。


「そ、そんな……隊長! まだここには我々がッ……!」


 霧の中から、ゲルビア兵達の悲鳴が聞こえてくる。濃い霧のせいで周囲の状態はよく見えず、チリーは目を凝らした。


「酷いですよ。僕がまだ喋っていたのに……名乗りもしないで攻撃だなんて」


 霧の中から、ゆっくりと歩いてくる影がある。マーカス・シンプソンだ。大柄な身体で悠然と、マーカスはチリーの元へ歩み寄ってくる。


(霧の原因は……こいつか!)


 歩いてくるマーカスの身体は、周囲の霧と同じものを纏っていた。そしてチリーの周囲の霧が薄れると同時に、理解し難い光景を目にした。


(なに……!?)


 そこにあったのは、脱ぎ捨てられた衣類と鎧だった。それも一つではない、いくつも転がっている。


 鎧の中から、小さなネズミが這い出してくる。どこか困惑した様子のそのネズミは、怯えるようにして鎧の中へと逃げ込んでいった。


 他には、頭に兜を乗せた鹿や、だぶだぶの衣服と鎧を身体に引っ掛けた猿、似たような状態の犬や猫、羊、牛や豚等、様々な動物がその場をうろついていた。


(何が起こってやがる……!?)


「霧を吸わないように口元を抑えている……とても良い判断です。賢い方です。不意打ちをする胆力もあります。……素敵な方だぁ」


 品定めするようにチリーを見つめたあと、マーカスは恍惚とした表情を浮かべる。それと同時に、チリーは自分の身体に異変を感じた。


「なッ……!」


 メキメキと厭な音を立てながら、チリーの足が変形していくのが見えた。手足が縮んでいき、全身をびっしりと真っ白な毛が覆い尽くす。


 不快な感覚が顔中に張り付き、押し込まれるような、内側から引っ張られるような感覚を伴って、頭部が形ごと変形していく。


(クソッ……わずかに吸った時点でッ……!)


 二本の足で立っていられなくなり、チリーは縮んだ身体で地面に”前足”をついた。服の中に身体が埋もれ、チリーの視界は遮られた。


「賢い子は……大好きなんです。かわいがってさしあげますよォ」


 二本の白く長い耳が、チリーの服の中からピンと立ち上がった。


「”僕の見世物小屋(マーカス・サーカス)”ッ! さあおいで、かわいいうさぎさん……!」


 チリーの身体は、一匹の小さなうさぎへと完全に変化してしまっていた。




***




 魔法遺産オーパーツ、エリザ。


 エトラがシアについて調べた時、彼女の所有物として記載されていた魔法遺産オーパーツだ。


 手に入れた経緯は不明だが、戦闘用に作られた魔法遺産オーパーツであることは間違いない。エリザに関するデータはほとんどなく、シアがこの魔法遺産オーパーツを使って賞金稼ぎをしているのであろうことしか、エトラには推察出来なかった。


「アッ……アッ……アソビ……マショ……」


 カタカタと音を立てて、エリザの口から声が発せられる。人間の少女と変わらない見た目の人形が、規則的に顎を上下させて人形然とした動きを見せるのはひどく不気味な姿だった。声もシアのものではない。エリザから直接発せられたものだ。


 エリザの身体から伸びる糸は、わずかな光を帯びながらシアの指に繋がっている。


 魔法遺産オーパーツであることを考えれば、恐らく動力源は魔力だ。


「ウヌム族の血には、わずかに魔力が残っている……だから動かせるんだね? そうだね?」


 シアは答えない。ただ黙ったまま、両手を交差させた状態で後ろからエリザをジッと見つめている。


「……頼んだわよ、エリザ」


 シアが呟いた瞬間、エリザが高速でエトラとの距離を詰める。それと同時に、エリザの右腕が関節とは逆方向に折りたたまれた。


「ッ……!」


 折りたたまれた肘の中から飛び出したのは、無数の鋭い刃を持つノコギリだ。ソレが、自動で前後している。


 エリザが振り回すノコギリを、エトラは素早く回避する。しかしエリザは、どういうわけかエリクシアンの動きに対応していた。


「アソボッ……アソボッ……アッ……アッ……」


 美しく見えていたエリザの顔が、おどろおどろしい何かに見えてくる。見開かれた眼球がギョロギョロと動き、上下する顎が無機質な音を立て続ける。


 エリザの動きは速い。ミラルを抱えたままでは、回避し続けるのは難しいだろう。


 即座に、エトラはミラルを盾にする。仮面の裏でほくそ笑むエトラだったが、シアは動じる様子がなく、エリザも全く動きを止めなかった。



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