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赤き贖罪の英雄譚 -The Legend Of Re:d Stone-  作者: シクル
Season3「The Origins Of The Legend」

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episode54「理不尽への怒り-Absolutely No!-」

 チリー達とシアが話をしたあの場所からウヌム族の里まで、あまり距離は遠くない。急げば日が落ちる前に辿り着けるくらいの距離だ。


「俺が正面から入ってぶちのめす。その間にお前らは三人でババアのとこに行け」

「……はぁ?」


 要するに、チリーが里の正面で陽動している間に大ババ様の救出を済ませてしまえ、という話である。


「治癒の秘薬はババアの家にあンのか?」

「ああ、里でも作れるのは大ババ様だけと聞いているぞ。恐らく全て大ババ様が管理しているハズだ」


 答えるシュエットに、チリーはよし、とうなずく。


「おい金髪」

「シアよ! さっきも名乗ったでしょーが!」

「うるせえな。おいシア、シュエット背負えるか?」


 ざっくばらんに問うてくるチリーに、シアは眉をひそめる。


「……アンタ本気で言ってんの?」

「シュエット一人抱えられねえ程か弱い女にゃ見えなかったけどな」

「そうじゃなくて! あたしに怪我人背負わせるってどういうつもりなのよ!?」


 チリー達にとって、元々シアは敵だ。今でこそチリーに敗北して大人しくしているが、普通に考えればいつ裏切るかわからないような相手のハズである。


 そんなシアに、仲間の怪我人を背負えなどと指示するのは本来あり得ない話だ。


 本気で困惑するシアだったが、その隣でミラルが笑みをこぼす。


「シアさん、シュエットに何かするつもりなら一番最初に狙ったと思いますよ」

「……それは……」

「シアさんが本当は里を助けたいの、わかってます! ね、チリー」


 ミラルが見せたのは、屈託のない笑顔だった。


 それが否応なく胸に染み込んできた気がして、シアは声を荒げる。


「だー! うっさい! 何よその全部お見通しです、みたいな顔は! ムカつくわねこのガキ!」

「や、やめへくらはいー!」


 そのまま飛びかかってミラルの頬をつねるシアを眺めつつ、チリーは腕を組んで再び口を開く。


「お前らはババアを助けたら、まずシュエットに治癒の秘薬を飲ませてやれ。見ての通りそいつは今ほとんど死体みてえなモンだ」

「そしてこいつはほとんど死体みたいなかわいそうな俺を地面に落とした極悪非道の男だ」

「お前が最悪降ろせっつったんだろーが! 根に持ってたのかよ!」


 動揺するシアをよそに、チリーはシュエットとそんなやり取りを始める。隙だらけに見えるその姿からは、シアを疑う、という感覚がもうないことを示していた。


「……」


 だがそれと同時に、シアはチリーから何かあればただではおかない、という凄味も感じ取っていた。瞳の奥に秘められた覚悟を垣間見た気がして、シアは一度唇を結んだ。


「……よし、行くぞ」


 急かすようにそう言って、チリーはシアへ視線を向ける。はやく案内するよう顎で促すチリーに、シアは嘆息した。


「……わかったわよ」




 そうして、里の近くでチリーと、シア達の二手に分かれることとなった。ウヌム族の里には門が設置されているが、エリクシアンの身体能力があれば通常の門は問題にもならないだろう。そもそも既に、ゲルビア兵によって開門されているのだが。


 大ババ様の家は集落から少し離れた位置にある。里の外側からぐるりと回り込むようにすれば、大ババ様の家に一番近い裏門に辿り着く。


 シアは背負っていた箱をミラルに預け、代わりにシュエットを抱えて裏門へ向かう。


 呆れた連中だ。そう思ってシアはため息をつく。


 今出会ったばかりの、それも自分達を捕らえてゲルビア帝国に突き出そうとした女を信用して里まで案内しろだなんて、シアが逆の立場なら絶対に言わない。


 それも、怪我人と非力そうな少女を預けてしまうのだから、シアは思わず顔をしかめたくらいである。


「これ、結構軽いですね。何が入ってるんですか?」


 見た目からかなり重たいものを想像していたミラルだったが、重さは想定の半分以下だ。それこそ子供一人分は入っていそうな物々しさのある木箱だが、精々旅の荷物より少し軽い程度である。


 ちなみにミラル達の旅の荷物は元々ミラルが背負っていたが、今はチリーがシュエットの代わりに背負っている。


「別に、ちょっとした荷物だけよ」


 そっけなく答えて、シアは歩を進めた。


「ていうか未だに信じらんないんだけど。こんな状況あり得る?」

「……? 何がですか?」

「なんで! アンタらに襲いかかったあたしが! アンタらの仲間背負って道案内任されてんのよ!」


 本気で不思議そうに問うミラルに、思わず語気が荒くなるシアだったが、ミラルは笑みをこぼすだけだった。


「チリー、すぐにわかったんじゃないでしょうか。シアさんが悪い人じゃないって」

「……その判断が意味わかんねーっつってんのよ……」

「それと、多分ですけど……今すごく怒ってると思います」


 真剣にミラルがそう言うと、シアの後ろでシュエットが頷く。


「……そうだな。正直俺も腹を立てているところだ」

「何よ、まさか里のこと?」


 頷きつつ、ミラルは既に正門を抜けたであろうチリーに思いを馳せる。


「シアさん、急ぎましょう! 絶対大ババ様も、里も助けましょうね!」

「……調子狂うわほんと」


 純粋で真剣なミラルから目を背けつつ、シアは裏門へ向かって急いだ。



***



 シアに案内された通りに進めば、ウヌム族の里の正門はすぐに見つかった。


 入り組んだ獣道の奥だったが、エリクシアンの脚力で跳躍すれば大抵の障害物を飛び越えてショートカットが出来る。


 正門は既に開かれている。壁は見上げる程に高かったが、恐らくエリクシアンが飛び越えていったのだろう。


 チリーは投げ捨てるように荷物をその場に降ろし、門の向こうを見据える。


 簡素な木造建築がいくつか並んでいるが、そこら中に破壊の痕がある。傷つき、倒れたままの人々や、既に事切れているであろう者も乱雑に転がされていた。


 鎧をまとったゲルビア兵達が、一斉にチリーに視線を向けていた。


「おい、あのガキ……!」

「手配書のルベル・C(チリー)・ガーネットだ!」

「捕らえろォッ!」


 向かってくるゲルビア兵達を睨みつけ、チリーは拳を握りしめる。


「ミラルの家を襲い、ヘルテュラシティで好き放題して……今度は里を襲撃だァ?」


 そこにはいつだって、無関係な人々の犠牲がある。


 ミラルだってそもそも、こんな戦いの中に巻き込まれなくて良かったハズなのだ。


 倒れている人達を見て、更にその中に遺体を見つけて……チリーは頭の血管が切れるような感覚さえ覚えた。


 ゲルビア兵の一人が、集団から飛び出してチリーへ切りかかる。


 チリーは剣が届く直前、カウンター気味に拳を放ち、相手の兜が派手に凹む程力強く殴りつけた。


 難なく叩き伏せられたゲルビア兵を見て、他のゲルビア兵が僅かに動きを鈍らせる。


「一人残らずぶちのめす! 全員まとめてかかって来いッ!」


 無数に迫る剣と鎧に、チリーは正面から立ち向かっていった。


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