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赤き贖罪の英雄譚 -The Legend Of Re:d Stone-  作者: シクル
Season2「The Rebirth Of The Mors」

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episode51「新たなる始まり-Next Start-」

 出発の準備はすぐに始まった。


 ミラルが眠っていた三日間分の猶予があれば、サイラスからの情報が何らかの形でゲルビア帝国まで通じている可能性は極めて高い。ミラルの聖杯に関しては、既に知られていると判断するべきだろう。


 コーディは補助が難しいとは言いつつも、それでも出来る限りの補助はしてくれた。当面の旅費や身を隠すためのローブなど、ミラルからすれば十分手厚い補助だ。むしろ予定通りならどこまで補助するつもりだったのかと逆に不安になる程である。


 出発のその日、ミラル達はヴァレンタイン家の別荘からひっそりと送り出されることとなった。


 その場に居合わせるのはコーディとレクスのみで、別荘の裏口から逃げるようにして出発する。


「……それじゃあ、行ってくるよ。団長」


 所々に包帯の巻かれたひどい有様だったが、それでもシュエットはいつものように自信たっぷりにそう告げる。


 そんな姿に呆れ半分、と言った様子でレクスは微笑む。


「死ぬんじゃねえぞ。必ず戻って来い」


 そう言うと、レクスは腰に差していた剣を鞘ごと外し、シュエットへ手渡すように突き出した。


「これは……?」

「お前の新たな剣だ。アダマンタイトで打ってある……持って行け」


 魔力に対して高い耐久性を持つ合金……アダマンタイト。殲滅巨兵モルスの熱線にすら耐える耐久力を持つアダマンタイトで打たれた剣は、鋼よりも硬い。


「折れない剣は、お前にこそふさわしい」


 元々レクスは、これをシュエットにいつか渡すつもりで用意していた。


 シュエットが自分の弱さを認め、強くなるための一歩を踏み出したその時に渡すために。


 今がその時なのだ。


「団長……!」


 感極まった様子で、シュエットはその柄を握る。今までの剣よりもどこか重たいその感触をしっかりと握り込んで、シュエットは決意を新たにする。


「……どーでもいーけどよー……。よくこんなおぶさった状態で盛り上がれるなお前……」


 シュエットの傷はあまりにも酷い。本来なら病室をまだ出てはならない程だ。自立すら難しい。


 そのため、シュエットはウヌム族の里までチリーにおぶさった状態で移動することになっている。


 当然、今もその状態だ。


「騎士の魂に場所は関係ないぞチリー」

「いやお前が良いなら良いけどな……」


 何故か誇らしげなシュエットに呆れ、チリーは嘆息する。


「チリー、シュエットを頼む」

「……ああ。その内送り返してやるよ」


 そんな言葉を返し、チリーはレクスと微笑み合う。少し名残惜しいが、いつまでもここにはいられない。


「さて……ラズはこの辺りでお別れかな」


 ラズリルはそもそも、ヘルテュラシティまでの旅が終わればフェキタスシティへ戻る予定だった。ここを発つ以上、別れは必然とも言える。


「ラズ……今まで本当にありがとう。色んなこと教えてもらったし、ラズがいなかったらここまで来れなかった気がするわ」

「買いかぶり過ぎだよ。ミラルくん達がここまで来たのはミラルくん達の努力の結果さ。ラズはほんの少し手を貸しただけだよ」


 それに、と付け足して、ラズリルは口惜しそうに言葉を紡ぐ。


「……サイラスとの戦いを見て怖くなってしまったんだよ……。ラズは恐らく、この先の戦いにはついていけそうもない」


 偽りのない、ラズリルの本音だった。


 サイラスのあの圧倒的な力を前に、ラズリルは一度完全に心が折れた。殲滅巨兵モルスとの戦いではほとんど何も出来ず、自分がただの人間に過ぎないことを痛感したのだ。


 ミラルやチリーに対する情はいくらでもある。出来ることなら最後まで見届けたい程だ。


 だけどもう、ここが引き際だ。


「ふふ、チャンスだよチリーくん。情けないと笑いたまえ」


 冗談めかして自嘲気味に笑うラズリルだったが、予想に反してチリーは真剣な面持ちでラズリルを見つめていた。


「笑うかよ。……ありがとな」


 その思いがけない言葉に、ラズリルは一瞬射抜かれたような感覚を覚えた。


 軽口が中々出てこず、口を開けたまま数瞬硬直してから、ようやく息を吐く。


「ラズの方こそありがとう……。思えば君にはペースを乱されがちだった。楽しかったぜチリーくん」

「ンだよ、素直で気持ちわりーな」

「こっちの台詞なんだがね……」


 肩をすくめるラズリルに笑みを見せて、チリーは背を向ける。


 馬車は目立つし御者や馬が巻き込まれかねない。ここからは今まで以上に、自分達がゲルビア帝国に追われているという危機感を強めなければならない。自分達の足で、目的地を目指して地道に歩いて行くしかないのだ。


 ミラルはチリーの隣で強く決意して、ローブを深く被り直す。


「それでは、行ってきます!」


 ミラルがそう言って手を振ると、ラズリルもレクスも、コーディも手を振り返す。その光景をしっかりと目に焼き付けて、ミラルは前を見据えた。


(いつか必ず、みんなに恩返しがしたい……!)


 そのために生き延びる。どんな運命でも打ち破って、前に進む。


「行くわよ!」

「……おう」


 シュエットを背負い直し、ミラルの後をチリーがついていく。


 旅は、新たな始まりを迎えた。



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