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赤き贖罪の英雄譚 -The Legend Of Re:d Stone-  作者: シクル
Season2「The Rebirth Of The Mors」

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episode49「弱さと強さ-Next Start-」

「頭を上げてくれ、団長」


 深々と頭を下げるレクスに、シュエットは静かに告げる。


「最初からお前と共に……戦ってやれなくてすまなかった……!」


 シュエットや他の団員達と共に、最初から立ち向かうべきだった。少なくとも、シュエットの意志をもっと汲んでやるべきだった。そう後悔するレクスだったが、シュエットは小さくかぶりを振った。


「謝るべきなのは、俺の方なんだ」


 それでも頭を上げないレクスに、シュエットはそのまま言葉を続ける。


「俺には結局、サイラス達と戦える程の力はなかったんだ。団長の判断は正しかったんだ……」


 拳を握りしめ、シュエットは唇を固く結ぶ。


 シュエットは最後までサイラスと戦った。決して折れはしなかった。


 だが、勝てなかった。


 ズタボロにされ、チリーが駆けつけたおかげでどうにか命を拾ったようなものだ。今無事に生きていることに感謝しなければならない。


 目が覚めて、自分の身体がどれだけ痛めつけられたかを理解した。そして事件の顛末を知った時、シュエットは嫌という程自分の無力を噛みしめることになった。


 結局のところ、サイラスも殲滅巨兵モルスも、チリー達がいなければどうにもならなかったのである。エリクシアンや魔法遺産オーパーツに対して、ただの人間はあまりにも無力だった。


 それが悔しくてたまらなくなって、シュエットは込み上げてくる涙を抑えきれなくなる。


「俺は弱い……ッ! 弱かったよ……団長ッ……!」


 もう、認めなくてはならなかった。


 決して自分は強くなんかない。

 あまりにもちっぽけで、無力な、ただの人間だということを。


「……それでもお前は戦った」


 顔上げて、まっすぐにシュエットを見つめてレクスは言う。


 シュエットは涙を拭わないまま、レクスへ顔を向けた。


「前にも言ったハズだ。決して折れない心、それがお前の強さなんだ」

「心が折れなかったところで、倒せなきゃ意味なんかない! なかっただろ!」


 サイラスに最後まで立ち向かったのは確かだ。その戦いが、チリー到着までの時間稼ぎくらいになったことくらいはシュエットにもわかる。


 だがそれだけだ。


 今のシュエットには、ただそれだけのことにしか思えなかった。


「そうじゃねえ。そこからなんだよお前は」


 ゆっくりと歩み寄り、レクスは両手でシュエットの肩を柔らかく掴む。


「お前は今からいくらでも強くなる! 弱さを認めた今が、その時なんだ!」


 実力不足で、なのに自信過剰で。口だけで団のナンバー2だと嘯いていた。それがシュエットの弱さだ。だがその一方で、決して折れない鋼の心を持っていた。それがシュエットの強さである。


 その二つをシュエット自身が理解して、前に進み始めた時。それこそが、シュエット・エレガンテが強くなるための最初の一歩なのだ。


「よく生き残ってくれた……! よく折れずに戦い抜いてくれた……! お前はきっと、俺より強くなる!」

「団……長……ッ」


 感極まってわんわん泣きじゃくるシュエットを、レクスは優しく抱き止めた。


 今日はまだ、弱くて良い。これから強くなるのなら。




***



 シュエットの病室をレクスが立ち去ってから、一時間程経った後だろうか。やや慌ただしい様子でドアが開かれ、中に入ってきたのはチリー、ミラル、ラズリルの三人だった。


「シュエット! お前、賢者の石についてなにか知ってンのか!?」


 挨拶もなく藪から棒に騒ぎ出すチリーに、シュエットは首をかしげる。


「賢者の石ぃ? なんだそれは」

「ハァ!? コーディのオッサンがお前に聞けっつーから来たんだろうが!」


 イマイチ飲み込めていないシュエットに、とりあえずミラルはコーディに渡された見舞いの品を見せた。


「シュエットさん、怪我の方はどうですか? これ、コーディさんから預かってきたお見舞いの果物です」


 バスケットの中はりんごや梨、葡萄等の果物で溢れている。色とりどりの果物に頬をほころばせ、シュエットは小さく頭を下げる。


「ありがとうミラルさん……ヴァレンタイン公爵にも改めてお礼を言わなければ……」

「ラズも運んだよ」

「ありがとうラズリルさん……」


 わざわざ律儀にラズリルにも頭を下げるシュエットに、どこかうんざりした表情を見せつつ、チリーは小さく息をつく。


「で、どうなんだ? 何も知らねえのか?」

「まあ待てチリー、その前に言わねばならないことがある」

「……なんだよ」


 そこから少しだけ間を置いて、シュエットは深く息を吸い込んでからチリーを見据えた。


「お前がいなければ死んでいた。礼を言う」


 ひどく真面目な表情でシュエットがそんなことを言うので、チリーは一瞬間の抜けた顔になってしまう。だがしシュエットの態度の変化に気づいたのか、チリーは小さく笑みを浮かべた。


「だがしかし! しかしだな! 借りは必ず返すぞ! いつか必ずな!」

「……おう、楽しみに待ってて……いや今返せ! 賢者の石に関することを教えろ!」

「あー! 待て傷が開く!」


 シュエットに掴みかかろうとするチリーは、ミラルとラズリルの手でなんとか食い止められた。



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