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赤き贖罪の英雄譚 -The Legend Of Re:d Stone-  作者: シクル
Season2「The Rebirth Of The Mors」

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episode48「ヴァレンタイン邸のその後-Be With You-」

 ゲルビア帝国の宰相、ニコラス・ヒュプリスはサイラスから受けた報告をただちに皇帝へと伝えることを決めた。


 他の何を後回しにしてでも伝えなければならぬと走り、執務中の皇帝の元へ慌てて駆けつけた。


 皇帝、ハーデン・ガイウス・ゲルビアの執務室は驚く程飾り気がない。デスクや書類、明かりのシャンデリアがなければ囚人の部屋かなにかのようだった。


 ニコラスはこの部屋を訪れる度に得も言われぬ恐怖心を抱く。この徹底的な無機質さが、まるで人為的に作られたうつろのようで足を踏み入れるのが憚られるのだ。


 それでも扉を叩き、声をかければ皇帝は中に入るよう促す。


 そしてニコラスは、真っ先に結論を述べた。


「陛下! ミラル・ペリドットは……恐らく”聖杯”を所持しています!」


 ニコラスが告げた途端、皇帝は書類から目を離し、ニコラスを凝視する。


「直ちに捕らえろ……絶対に逃がすなッ!」


 ほとんど怒号に近い声量で飛ばされた指示に、ニコラスは即座に従った。


 程なくして、ミラル・ペリドットは指名手配者となった。



***



 サイラス達が町を去ったことで、ヘルテュラシティには平和が訪れつつあった。


 殲滅巨兵モルスの爆風による被害はいくつか出ていたものの死者はいない。ヴァレンタイン家の本邸はほぼ破壊されてしまった挙げ句、敷地内に半壊した殲滅巨兵モルスが放置される形となったが、それらについては現在対応中である。


 殲滅巨兵モルスに関しては下腹部から下の部分しか残っておらず、動き出すことはまずないだろう。


 ミラルが目を覚ました翌日、チリー達は改めて自分達の素性と本来の旅の目的をコーディ・ヴァレンタインへと話した。


「すみません、今まで隠していて……」


 ヴァレンタイン家別荘の客間でひとしきり話し終え、ミラルが深々と頭を下げるとコーディはかぶりを振る。


「いや、ひとまず事情を隠しておいた殿下の判断は間違ってはいない。慎重な殿下のことだ、漏洩のリスクを重く見ていたのだろう」


 実際、クリフは部下が情報を吐かされた結果ラウラの居場所をランドルフに知られている。情報に対して慎重になるのも無理はないだろう。


「しかしすまないが……私にはもう君達の旅を補助出来るような余裕はないんだ……」


 本邸があの状態では、流石に公爵家と言えどもあまり余裕はない。ヴァレンタイン家はこれから色々と立て直しを行わなければならない状態だ。


「……悪い。俺も相当壊した」


 つぶやくようにチリーが謝罪の言葉を告げると、隣でミラルとラズリルが目を見開いた。


「ち、チリーくん……」

「ンだよ」

「謝罪が出来るのかい!?」

「バカにしてンのか!?」


 僅かに怒気を込めるチリーを見て、コーディは慌てて仲裁に入る。


「い、いや、壊したのはほとんどサイラスと殲滅巨兵モルスと聞いているよ! 君はむしろサイラス達を倒してくれたって話じゃないか!」


 チリーもラズリルも本気で言い合いをするようなことはもうあまりないのだが、チリーの語気が強いせいで仲を知らない相手からすると一触即発に感じられるのだろう。


「改めて感謝させてくれ。何よりも、殲滅巨兵モルスを破壊してくれたことを……。ほとんど礼が出来ないのが口惜しい。いつか必ずこの礼はさせてほしい」


 コーディにとって殲滅巨兵モルスの存在は、ヴァレンタイン家が代々抱えている爆弾のようなものだった。もうこれ以上、殲滅巨兵モルスの脅威に関しては悩む必要がない。


「もういらねーよ。寝床に飯に治療までしてもらってンだからな」


 特にミラルの治療に関しては、非常に手際よくやってくれていた。既にある程度特殊な事情の中にあることを理解してくれたコーディは、ミラルを別荘の中で治療出来るように手配してくれている。シュエットは教会に併設された病院へと運び込まれたようだが、ミラルだけはヴァレンタイン家で個別に預かってくれたのである。


「チリー、ちょっと変わった?」

「いや、変わってねえけど……」


 眉をひそめてそう答えるチリーだったが、以前と今ではもう考え方が違う。


 壊す者ではなく、守る者であろうとすると決めたのだ。在り方が変われば考え方が変わってくる。


 責任を果たすために賢者の石を壊す。それもあるが、今は”賢者の石による被害から人々やミラルを守る”に変わり始めている。


 チリー自身の自覚の度合いは、まだまだと言ったところだが。


「今出来る最大限の礼、と言ってはなんだが……君達の探す賢者の石に関わる情報を持つ男を紹介させてくれ」


 コーディがそう言うと、三人の表情が一変する。


「君達と面識のある男だ」


 コーディは少しだけいたずらっぽく笑って、紅茶を一口啜った。



***



 病室のドアが開く。


 ゆっくりと入ってきた男の顔を見て、シュエット・エレガンテはベッドから身体を起こす。


「……団長」


 呟いたシュエットに、男は――――レクス・ヴァレンタインはゆっくりと頭を下げた。


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