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赤き贖罪の英雄譚 -The Legend Of Re:d Stone-  作者: シクル
Season2「The Rebirth Of The Mors」

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episode44「オーバーフロー-The Fall of the Mors-」

「掴まれ……ッ」


 どうにかミラルを抱きかかえ、チリーは背中から地面に落下した。

 下から突き上げるような衝撃が背中から走り、チリーは吐血する。


「チリー! チリー……!」

「……俺はいい。お前は?」

「私は……大丈夫……」


 殲滅巨兵モルスに触れた時に右手のひらが焼けただれているが、それ以外の外傷はない。チリーが自身を盾にしてかばってくれたおかげだろう。


「失敗したのか……?」

「……ええ。ごめんなさい」

「謝る必要はねェ。それより、原因の方を考えるぞ」


 頷き、ミラルは殲滅巨兵モルスから感じたことをそのまま話し始める。


殲滅巨兵モルスの魔力、すごく大きかったわ……。簡単には無力化出来ない……」


 話すミラルの右手を見て、チリーは顔をしかめる。


 殲滅巨兵モルスの熱量は、近づいた時点でチリーも熱気でわかっていた。エリクシアンでもないミラルにとって、右手の火傷は耐え難い痛みだろう。それでもこらえて、ミラルは意識を保っている。


 今は再び飛び回るサイラスに集中しているようだが、そう何度もチャンスはないだろう。少なくとも、今の一撃をもう一度喰らった場合、ミラルを再び守りきれる保証がチリーにはない。


 チリーはすぐにでもミラルをラズリルの元へ返したかったが、当のミラルはまるで諦めている様子はなかった。


「……なるほどな。確かに殲滅巨兵モルスの中じゃとんでもねえ量の魔力が循環してやがる」


 それがリッキーの魔力なのか、殲滅巨兵モルスの持っていた魔力なのかはわからない。


 聖杯の力の限度はわからないが、ミラルがすぐに奪い切れる程の魔力量ではないのだろう。


「……なら、逆だ」

「逆?」

「ああ。殲滅巨兵モルスの野郎の魔力を増幅させる」

「で、でもそんなことしたら……!」

「一か八かだ。魔力を限界まで増幅させて……破裂させンだよ!」


 殲滅巨兵モルスの装甲は極めて硬い。外側から破壊するのは難しいだろう。

 だが、内側からならどうだろうか。


 殲滅巨兵モルスはエリクシアンではなく、あくまで”モノ”だ。中へ急激に必要以上の魔力を注ぎ込んだ場合、処理し切れずに漏れ出す可能性がある。


「ミラル……もう一度頼めるか?」

「……勿論よ」


 あれだけの火傷を負いながらも、ミラルは一切躊躇せずにそう答えた。


 時間はあまりない。サイラスはともかく、レクスが後どれくらいもつかもわからない。


 殲滅巨兵モルスはここで食い止めなければ、ヘルテュラシティが惨劇に見舞われる。それだけは絶対に回避しなければならなかった。


 チリーはミラルを背負うと、再び殲滅巨兵モルス目掛けて跳躍する。


 既にチリーの身体にも限界が近づいてきている。


 サイラスとの戦いに加えて、殲滅巨兵モルスとの戦闘で相当なダメージを負っているのだ。

 それでも、チリーは高く跳び上がる。


(こいつを食い止めることが出来たら……俺は、変われる気がする)


 壊すだけだと思っていた力に、別の意味を与えて、それを信じてやれる気がした。


(守るための力だって、胸を張れる気がする)

「おおおおおッ!」


 身体に残った最後の魔力を右腕に込めて、チリーは殲滅巨兵モルスの胸部に拳を叩き込む。

 その一撃が僅かな凹みを作り出し、チリーはそこに右手でしがみついた。


「ミラルゥゥゥゥッ!」

「お願い聖杯……! こいつを止めて……っ!!」


 今度は両手で、ミラルが殲滅巨兵モルスの胸部に触れる。


 再び高熱にさらされ、ミラルの両手が焼けただれていく。それでもミラルは、必死で殲滅巨兵モルスに触れ続けた。


 そしてその身体からオーロラのような光が現れ、魔力となって殲滅巨兵モルスの中に流れ込んでいく。


「なんだ……!? 何をしている!? は、はははははッ! なんだこれ、魔力が高まるぞォッ!」


 ミラルによって魔力を増幅された殲滅巨兵モルスの中から、リッキーの高笑いが響き渡る。


 その様子を見ながら、サイラスが顔をしかめた

「魔力が高まるだとォ……?」


 サイラスの視線が、ミラルの方へ向けられる。


 サイラスの中で、ミラルとラズリルがどうやってザップを処理したのかはずっと疑問として残っていた。


「何かあるな……あの娘」


 呟きつつ、サイラスが様子を見ている間も、ミラルは殲滅巨兵モルスの魔力を増幅させ続けていた。


 ただでさえ密度の高い魔力が循環していた殲滅巨兵モルスの魔力が、突如として更に膨れ上がる。


 その魔力の高まりが、リッキーにこれ以上ない全能感を与えていた。


「これだけの魔力があれば、もう誰にも負けやしない! カスケット家は僕の代で復権する! ははははははッ!」


 だが一つの器の中に、注がれる水の量の限度は常に一定だ。


 それは殲滅巨兵モルスとて例外ではない。

 いくら殲滅巨兵モルスが強大とは言え、その中に溜め込める魔力の量にも当然限度がある。無尽蔵に何かを溜め続けられる概念など、あるハズもない。


 容量をオーバーした器が辿る未来は一つ。


「あ、……れ……?」


 破裂だ。


 殲滅巨兵モルスの中で増えすぎた魔力が暴走を始める。まともに立っていられず、殲滅巨兵モルスはふらふらとよろめき始めた。


 チリーには、殲滅巨兵モルスの中で魔力が胎動するのが感じられた。制御し切れず、破裂する寸前なのだろう。


「離れるぞッ!」


 ミラルの返事を待たず、チリーは殲滅巨兵モルスの胸部を強く蹴り込んで後方へ飛び跳ねる。


「レクス! 殲滅巨兵モルスは爆発する! 離れろッ!」

「なんだと!?」


 殲滅巨兵モルスの全身が軋み、プスプスと燃えカスのような音が立ち始める。


 そしてチリー達の背後で、殲滅巨兵モルスの身体は魔力に耐え切れず、爆発四散した。


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