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赤き贖罪の英雄譚 -The Legend Of Re:d Stone-  作者: シクル
Season2「The Rebirth Of The Mors」

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episode43「殲滅巨兵破壊作戦-The Fall of the Mors-」

 ジッと見つめるミラルの瞳を、チリーはまっすぐに見つめ返す。


 あの日、チリーに協力を求めてきた時と同じ、澄んだ決意の込められた瞳だ。


「迷っている暇はないわ……! お願い!」


 出来ることなら、ミラルも自分の力で殲滅巨兵モルスに辿り着きたい。しかしそれが出来ないことは嫌という程わかっている。それと同時に、恐らくミラルの力でしか現状が打破出来ないこともはっきりと理解していた。


 殲滅巨兵モルスは強大だ。人やエリクシアンだけの力ではとても敵わない。よしんば殲滅巨兵モルスを止められたとしても、そこには甚大な被害の痕が残る。


 既に周囲は悲惨な状態に陥っている。今頃町では音や揺れに驚いた人々が殲滅巨兵モルスに気づき、怯えているかも知れない。


「私には聖杯の力がある。どういうわけかわからないけど、人にはない力が、今私の中にある」


 そのまま、ミラルは続ける。


「チリーは言ったわよね? 自分の力を、守るための力だって……! 私だってそうよ! 私に力があるなら、守るために使いたい!」

「ミラル……」

「だから……一緒に守ってほしい。私達で力を合わせて、殲滅巨兵モルスを止めるのよ! きっと出来るハズよ!」


 ミラルだけでは止められない。チリーだけでは倒せない。


 だけど、二人で力を合わせれば変わる。


「……わかった」


 ミラルの言葉を咀嚼しながら、チリーはその手を差し出す。


 その手をミラルがそっと握り込むと、彼女が震えているのがわかった。それをそっと包むようにして握り直し、チリーは覚悟を決める。


「俺がお前を、殲滅巨兵モルスのところまで連れて行く! 俺達の手で、あいつを止めるぞッ!」

「……ええ!」


 チリーはすぐに、ミラルを背負う。このままミラルと共に、殲滅巨兵モルスへ接近するつもりなのだ。


「チリー! どこまで出来るかわからんが、陽動は俺がやる!」

「ああ、頼んだぜレクス!」


 殲滅巨兵モルスの意識はサイラスに集中しているが、いつチリー達に向くかわからない。危険な陽動作戦だったが、今はレクスを信じて託すしかない。


「……ラズもやった方がいい?」

「無理すんじゃねェよ、そこでシュエットを見てろ」


 それだけ言い捨てて、チリーはレクスと共に殲滅巨兵モルスへと駆け出していく。


 その背中を見つめつつ、ラズリルは小さく嘆息する。


「……頼んだよ」



***



 ミラルを背に乗せて走りながら、チリーは彼女の鼓動を感じていた。


 怖くないわけがない。


 あれだけの威力を持った殺戮兵器に、手が届く位置まで近づこうというのだ。普通なら思いついても実行しようとは思わない。


 だがそれでも、ミラルは決意した。聖杯の力を、守るために使うと。


「お前、強くなったな……」

「え……?」


 何も知らない、追われるだけだった商家の娘。


 わからないまま過酷な状況に放り出され、聖杯という重過ぎる運命をその身に宿してしまった少女。


 だがミラルは、その運命を自分の力だと解釈した。そしてそれが、人を守るために使えるものだと。


「俺も、そうでありたい。この力が、破壊の力じゃなく……誰かを守るための力だと……そう信じたい」


 赤き崩壊(レッドブレイクダウン)を引き起こし、エリクシアンになり、赤き破壊神と呼ばれるようになった。チリーがしてきたことは、どこまでも破壊ばかりだった。


 自分の中にあるのは、壊すためだけの力なんだと思っていた。


 だが、それを変えられるのだとしたら。それはチリー自身で変えるしかない。破壊ではなく、守るために力を振るう。そう生きていくしかない。


「……私はもう信じてる。わかってるわ……あなたは、破壊者なんかじゃないって」


 身体の奥底から、じんわりとしたぬくもりに満たされていくかのような心地だった。


 こんな危機的状況でも、力と勇気が湧いてくる。


 だが殲滅巨兵モルスはもう目前だ。いつまでも浸ってなどいられない。


 意を決して、チリーは殲滅巨兵モルス目掛けて跳び上がった。


 チリーには魔力がある程度感知出来る。殲滅巨兵モルスのどこが動力源なのか、チリーにはすぐに理解出来た。


殲滅巨兵モルスの胸部に魔力が集中してやがるッ! あそこが動力源だ! エリクシアンもそン中にいる!」


 チリーが跳躍したことで、殲滅巨兵モルスの目がチリーへと向けられる。しかしその瞬間、殲滅巨兵モルスの足元で金属音が鳴り響いた。


 レクスである。彼の金剛鉄剣アダマンタイトブレードが、殲滅巨兵モルスの足に叩きつけられたのだ。


「よそ見すんじゃねえッ! 俺とってんだろうがッ!」


 チリーとレクスに意識を向けかけていた殲滅巨兵モルスに、サイラスの火炎が直撃する。


「鬱陶しいんだよ……! 蟻と羽虫がッ!」


 黒い熱線の再充填は、戦いながら出来るものではないのだろう。ちょこまかと回避するサイラスとレクスに気を取られ、殲滅巨兵モルスは例の熱線を撃つ気配がない。


「ミラルッ! 捕まってろ! 放すンじゃねえぞッ!」

「ええ!」


 ぎゅっとチリーの身体にしがみつきながら、ミラルは殲滅巨兵モルスに視線を向ける。


 巨大な鋼鉄の怪物の振り回す腕が、チリーとミラルの頭上すれすれを通り過ぎていく。それでもミラルは、目を閉じることだけはしなかった。しっかりと殲滅巨兵モルスを見据える。チリーと同じように、まっすぐに。


「頼むぜ……ミラル!」


 殲滅巨兵モルスの動力源である胸部に辿り着き、ミラルは必死で手を伸ばす。殲滅巨兵モルスの胸部に触れると、凄まじい高熱を帯びているのがわかった。


「っ……!」


 ジュウ、と音が立つ程の熱だ。皮膚の焼ける臭いがする。


 それでもミラルは、苦痛に耐えながらも殲滅巨兵モルスの胸部に触れる。そしてザップの時と同じように、その魔力を奪い取ろうと力を込めた。


 ミラルの身体から発せられる七色の光が殲滅巨兵モルスの中に流れ込んでいく。しかしすぐに、ミラルは異変に気づいた。


「えっ……!?」


 殲滅巨兵モルスの持つ魔力が、膨大過ぎるのだ。


 ザップの時同様、魔力を奪っている感覚自体はある。だが殲滅巨兵モルスの動きは止まるどころか鈍る気配もない。


 そして次の瞬間、二人の眼前に殲滅巨兵モルスの腕が迫る。


「邪魔なんだよッ!」

「――――ッ!?」


 チリーはミラルをかばうようにして無理矢理身体を捻り、そのまま正面から殲滅巨兵モルスの拳を受けてしまう。


 鎧を一撃で砕かれながら、チリーはミラルと共に落ちていった。




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