episode42「私を信じて-Trust You,Trust Me-」
「ハァッ……ハァッ……!」
今のを連発されれば勝ち目はない。
あんなものが町に放たれればひとたまりもない。
おまけに今ので相当な体力を持っていかれたチリーは、再び魔力をチャージし始めているであろう前方の殲滅巨兵を睨みつけた。
「何か……何か手はねェのか……!?」
再び、殲滅巨兵の魔力が再充填される。次の攻撃は完全には防ぎ切れない。
それでも……
「クソッ! お前ら俺から離れんじゃねェぞッ!」
後ろにいる全員にそう叫び、チリーは身構える。
殲滅巨兵の魔力はあの顔らしき部分に充填されている。ドス黒い輝きが殲滅巨兵の顔から発せられ、チリーが歯を食いしばった――その時だった。
突如、殲滅巨兵の頭部に、下側から激しい衝撃が起こる。
角度をずらされた殲滅巨兵は、斜め上空に向かってドス黒い熱線を放った。
「今のは……ッ!」
殲滅巨兵の頭部を下から殴ったのは、あのサイラスだった。
そのままサイラスは殲滅巨兵に対して数発ぶち込み、よろけたところに口から火炎を吐き出した。
殲滅巨兵の装甲はサイラスの火炎でも焼けたり溶けたりすることはなかったが、勢いよく吐き出された火炎は殲滅巨兵の身体を再び仰向けに倒した。
「よォリッキー! やるじゃねえかァ! 今のお前と闘るのも悪かねェッ!!」
「この戦闘狂のイカレ野郎! これ以上お前みたいなのの下でやってられるか!」
再び起き上がった殲滅巨兵は、飛び回るサイラス目掛けて拳を振り回す。サイラスはそれらを全てかわしつつ、ヒットアンドアウェイで殲滅巨兵に打撃を与えていく。
あれだけの攻撃を受けてもまだ闘いに執着する姿に、チリーは顔をしかめたが、ある意味これはチャンスでもある。
しかし、サイラスを戦力にカウントした上で殲滅巨兵を完全に止めるのは現状難しい。あの黒い熱線を何度も撃たれればそれだけで終わりだ。サイラスとて無事ではすまないだろう。
サイラスが接近戦を仕掛け、魔力の再充填を妨害している今の内に、何か打開策を思いつかなければならない。
「クソッ……!」
この傷ついた状態で、レクスと共に殲滅巨兵を攻撃し続けるしかないのか?
「チリー!」
拳を握りしめ、殲滅巨兵の元へ向かおうとしたチリーの元に、ミラルが駆け寄ってくる。
「バカ! 離れてろ!」
「待ってチリー! 私に……考えがあるの」
ミラルがそう言うと、後ろでラズリルがピクリと反応を示す。
「まさかミラルくん……」
ラズリルに対して小さく頷き、ミラルはチリーへ視線を戻した。
「聖杯の力を使えないかしら」
「何……?」
ミラルの言葉に、チリーはハッとなる。
殲滅巨兵の動力源が魔力なのは、チリーにはすぐにわかった。サイラスとの会話や消去法から、中にリッキーがいるのもわかっている。恐らくリッキーが魔力炉として動力源になり、殲滅巨兵を動かしているのだろう。
なら、魔力を操作する聖杯の力は、確かに有効かも知れない。
だが……
「恐らくミラルくんの聖杯は、触れなければ効果を発揮出来ない! 殲滅巨兵に触ることの出来る距離まで近づくことになるんだよ!?」
ラズリルの言う通り、ミラルの力は触れなければ発動しない。ミラルを殲滅巨兵に近づければ、どうなるか想像するまでもなかった。
すぐに、チリーは首を左右に振った。
「駄目だ。危険過ぎる」
「わかってるわよそんなこと! でも、他に方法なんてあるの!?」
ミラルの言葉に、チリーは言い返せなかった。
現状、このまま殲滅巨兵と戦い続ければジリ貧になって全滅するだろう。
だがこの場からチリー達が逃げ出せば、町は巻き込まれる。そしてそのまま、あの危険な兵器がゲルビア帝国へと渡るのだ。
「……死なせたくねェ」
呟くようなか細い声が、チリーから漏れる。
「俺は、お前を死なせたくねェッ!」
繰り返したくなかった。
あの時、自身の魔力を抑えきれずに暴走した時に感じた恐怖がこびりついている。
「……チリー、私を信じて」
「ミラル……」
「私はチリーを信じてる。だから、力を貸してほしい。私を、殲滅巨兵のところまで連れて行って!」
決意を秘めたミラルの言葉に、チリーは息を呑んだ。




