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赤き贖罪の英雄譚 -The Legend Of Re:d Stone-  作者: シクル
Season2「The Rebirth Of The Mors」

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episode40「殲滅巨兵の復活-The Rebirth Of The Mors-」

 時は、少しだけ遡る。


 レクスとの戦闘中、突如身体の自由を取り戻したジェインは、レクスと共にヴァレンタイン邸周囲のゲルビア帝国兵を片付けた後、主であるコーディ・ヴァレンタインの安否を確認するためにヴァレンタイン邸の中へと急いだ。


 ザップの影響下にあった時のことを思うと、今でも身の毛がよだつ。身体の中に何かが入り込んで好き放題に弄ばれているような感触は、二度と味わいたいものではない。


 ジェインは知る由もないことだが、ザップの能力は複数同時に操作することは可能なものの、その場合の精度はどうしても落ちる。ラズリルが最初から意識を保てたのはザップが同時に二人操作していたからである。


 裏口からヴァレンタイン邸の中に入り込んだジェインは、すぐにコーディがいた客間へと向かう。


 コーディは連れ去られているか、最悪殺されている可能性もある。 祈るような気持ちで客間へ入ると、中はしんと静まり返っていた。使用人達の姿は道中どこにもない。死体も見当たらなかったので、恐らく避難出来たのだろう。


 誰もいない客間を、警戒しながら歩いていく。すると、部屋の隅で意識を失っているコーディ・ヴァレンタインの姿があった。

 身体はロープで縛られており、身動きが取れない状態だ。


 ジェインは慌てて駆け寄り、コーディを縛るロープを解く。その最中、コーディは意識を取り戻して目を見開いた。


「ご無事ですか!?」

「ジェイン! ……意識が戻ったのか!?」

「申し訳ありません。私としたことが……」

「いや、良い……それよりも」


 立ち上がり、コーディは窓の外へ視線を向ける。


殲滅巨兵モルスが危険だ……! サイラスの部下が一人、殲滅巨兵モルスを探している……見つかるのも時間の問題だ!」


 コーディのその言葉に、ジェインはゴクリと生唾を飲み込む。


「奴らは……殲滅巨兵モルスを動かせるのでしょうか」

「わからん……だが、決して渡すわけにはいかん! 私のことは今は良い、それよりも奴らを止めてくれ!」

「……はい! 直ちに」


 ジェインがそう答えた瞬間、地面が大きく揺れた。



***



 サイラスの部下、リッキー・カスケットはヴァレンタイン邸の中をくまなく探し、邸内にはないと判断した。


「……なんで僕が一人でやらなきゃなんないんだよッ!」


 サイラスは部下を陽動に使い、ザップは適当に放置。自分はレクスとかいう団長と戦うために待機。肝心の殲滅巨兵モルスをリッキー一人に任せている。


 考えれば考えるほど苛立って、リッキーは顔を歪ませた。


 エリクシアンとしての適正を手にしてイモータル・セブンに配属されることが決まるところまでは、順風満帆だった。しかし肝心の隊長がサイラスだとわかった時、リッキーはひどく落胆した。


 戦闘狂で、任務に対して不真面目な部分があるサイラスの評価は、リッキーの中では極めて低い。似たような人間なら歓迎かも知れないが、少なくともリッキーはもっと真面目な隊長のいる部隊に配属されたかった。


 実際サイラスとリッキーは性質が合わず、リッキーが飲み込むことでどうにかここまでやってきたようなものだ。別部隊への異動を願うことも考えたが、ようやく手にしたイモータル・セブン配属というキャリアにはまだ一点の汚れもつけるべきではない。


 そう考えて耐えてきたが、このヘルテュラシティでの任務は最悪だった。


「毎日毎日酒! 女! 喧嘩! バカなのかあいつは!」


 それも喧嘩は自分より明らかに格下のシュエット・エレガンテをあしらうだけのつまらないものだ。余興にもならない。


 リッキーの実家、カスケット家は没落貴族だ。成り上がるためにはもっと功績が必要なのだ。

 それなのにこんな田舎でちんたらと遊んでいるなんて状況には耐えられない。


 さっさと殲滅巨兵モルスを見つけて、こんな町ともサイラスともおさらばしたかった。この任務が終わったら、別部隊へ異動出来ないか掛け合ってみるつもりだった。


「どこなんだ殲滅巨兵モルスは……!」


 邸内にないなら、まずはその近辺を探す。それで見つからなければ、ひとまずサイラスに報告してまた探し直す必要がある。


 ヴァレンタイン邸の外は、木々が広がるばかりでロクなものが見つからない。


 そもそも殲滅巨兵モルスの存在自体、リッキーからすれば曖昧な伝承のようなものだった。いくら魔法遺産オーパーツには強大なものがあるとは言え、殲滅巨兵モルスのような怪物がいるなどとはにわかには信じがたかった。


 戦闘時以外は役に立たないサイラスを適当な任務につけて遊ばせているだけなのではないかと勘ぐったくらいだ。

 そう思うと、とばっちりのような形で田舎に張り付けられていることへの苛立ちが高まってくる。


 苛立ちながら歩いていると、眼前に巨大な岩山がそびえ立っているのが見えた。

 周囲の景色とは少し浮いた、妙な岩山だ。ヴァレンタイン邸よりも高さがある。


 図々しくそびえ立つソレが、無性に苛立って仕方がない。リッキーは舌打ちすると岩山を思い切り蹴りつけた。


「……は?」


 しかし帰ってきた感触は、リッキーの想定とは全く違うものだった。


 リッキーは、岩山の一部を蹴り壊すつもりで蹴ったのだ。エリクシアンとしてそれなりに力を込めている。だが目の前にある岩山は、表面が削れているだけでビクともしていない。


 削れた岩の向こう側には、赤錆びた金属の表面らしきものが覗いている。

 それを見た瞬間、リッキーは確信した。


「……まさか、これが……!?」


 半ば震えたリッキーの手が、赤錆色の金属面に触れた。



***



「チリー!」


 サイラスとの戦いを終えたチリーの元に、レクスが駆け寄ってくる。


「倒したのか……?」

「……多分な」


 今のところ、サイラスが起き上がってくる様子はない。


「エリクシアンがもう一人いたハズだ。そいつが殲滅巨兵モルスを見つける前に叩きのめす」


 サイラスとの戦いの疲労はあるが、このまま野放しにしておくわけにはいかない。

 チリーの言葉に、レクスが頷いた……その時だった。


 巨大な地響きと共に地面が揺れる。

 その突然の振動に、その場にいた全員が僅かに動揺した。


 そして次の瞬間、轟音と共にヴァレンタイン邸の天井が消滅した。


「何……ッ!?」


 降り注ぐ太陽光と共に、赤錆びた巨人が姿を見せる。


 ソレを見た瞬間、チリーの隣でレクスが震え始めた。


「馬鹿な……何故……ッ!」


 赤錆色の巨体は、ヴァレンタイン邸よりも大きい。掴むためだけにある三本の指らしきものが、ヴァレンタイン邸の屋根の一部を握り込んでいた。


 身体の所々に土や石、苔が付着している。長い間動いていなかった証拠だ。

 頭部には黒ずんだ半透明の目のようなものが一つだけあり、それがギョロリとチリー達を見下ろした。


殲滅巨兵モルスが……復活した……ッ!」


 その言葉を聞いた瞬間、チリーは目の色を変えた。


「こいつが……殲滅巨兵モルス……!」


 サイラスを含めて、敵のエリクシアンは三人いた。この場にいなかったもう一人……リッキーが殲滅巨兵モルスを見つけ出したのだ。


 殲滅巨兵モルスは鋼鉄で出来た巨人だ。元々、ヴァレンタイン邸内に隠せるような場所はない。殲滅巨兵モルスは泥や岩でカモフラージュされ、あたかも岩山であるかのように外に置かれていたのだ。


 まさかそんな場所に簡単に殲滅巨兵モルスがあるとは誰も思わない。そもそも伝承で語られているような存在だ。誰もがその存在自体半信半疑でいるような代物である。


「ひれ伏せェ……!」


 突如、殲滅巨兵モルスの中から声が聞こえてくる。


 そして殲滅巨兵モルスの拳はチリー目掛けて振り下ろされた。


「――――ッ!」


 即座に、チリーは横っ飛びに殲滅巨兵モルスの拳を回避する。

 殲滅巨兵モルスの拳が直撃した地面には、巨大な穴がポッカリと空いていた。


殲滅巨兵モルスはもう僕のものだ……全員ここで叩き潰してこいつを帝国へ持ち帰る!」


 リッキーの身体は、殲滅巨兵モルスの内部にあった。


 殲滅巨兵モルスは、リッキーが触れた瞬間動き始めたのだ。リッキーのエリクシアンとしての魔力に反応し、長い眠りから覚めたのである。


 胸部が開き、人一人入れるスペースがあるとわかった瞬間、リッキーはすぐにその中へ乗り込んだ。

 胸部が閉じると、リッキーの視界が殲滅巨兵モルスの頭部の目と共有されるようになった。リッキーの身体から魔力が流れ出し、殲滅巨兵モルスの中へ循環していく。そして気がつけば、殲滅巨兵モルスはリッキーの思うままに動くようになっていたのだ。


「そこでのびてるサイラス諸共、全員ここで叩き潰してやるッ!」


 狂気を帯びたリッキーの笑い声が、殲滅巨兵モルスの中から漏れ出ていた。


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