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赤き贖罪の英雄譚 -The Legend Of Re:d Stone-  作者: シクル
Season2「The Rebirth Of The Mors」

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episode33「闘争本能-Blade and Struggle-」

 もう、迷っている余裕はない。


 再び、レクスはジェインの剣を振り払う。力強く振り切られた金剛鉄剣アダマンタイトブレードの勢いに、ジェインの手から剣が離れかけた。


 ジェインの身体が剣を握り直し、一度レクスから距離を取って構え直す。


「レクスさん!」


 レクスの背後から聞こえた声は、ミラルのものだった。


 振り向けば、訓練所からここまで向かってきたミラル、チリー、ラズリルの三人の姿が見える。


 レクスはあえてジェインに視線を戻しながら、三人へ背を向けたまま告げる。


「……ここはいい。それより、中でシュエットが戦っている……頼めるか?」


 その言葉に、チリーが静かに頷く。


「任せな。待ってるぜ」


 それだけ告げて、チリーを先頭に三人は屋敷の中へと入っていく。ジェインは、それを追おうとはしなかった。


 あくまでレクスと戦うことだけを命じられているのか、それともジェインがあらがったのか、理由はわからなかったが。


「行くぜジェイン……俺ァもう加減しねェぞ!」


 ようやく構えたレクスに、ジェインは笑みをこぼす。


「言ってくれるぜ”坊主”が……! 不本意な形だが、久々に本気の稽古と行こうじゃねえか!」


 二人の剣が交わる。

 守ることをやめたレクスの剣が、ジェイン目掛けて怒涛の勢いで繰り出された。



***



 チリーとサイラスの戦いは、ほとんど互角と言っても差し支えなかった。

 互いに全く小細工を弄さず、素手での攻防が続いている。


 サイラスは軍服こそまとっているものの、その戦い方はチリーと同じ”喧嘩”のやり方だ。場所はヴァレンタイン邸のホールだが、そこで繰り広げられているのは最早路地裏の喧嘩だ。ただ一つ路地裏の喧嘩と違うことがあるとすれば……その戦いが素人では一切手出し出来ないレベルで行われていることだけだ。


「良いねぇ……最高だぜお前! 最初っからレクスよりもお前に声かけるんだったなァ!」


 繰り出されるサイラスの拳を避けながら、チリーは微かに笑みをこぼす。


 闘争。


 本能が求める闘争への渇望は、何もサイラスだけのものではない。無闇に戦うことは好まずとも、チリーの中にも確実にある衝動だった。


 己の全てを出し尽くし、思う存分に他者と戦い、競い合う。そこにどうしようもない愉しみを見出してしまうのは、人間を含む多くの生物が……その中でもとりわけ雄が有史以前から刻み込んでいた狩猟本能がそうさせているのだろうか。


 だがそれでも、本能や衝動に抗わなければ人は人足り得ない。闘争を求め、獣に成り果てることは堕落に他ならない。特に、エリクシアンのような力のある存在は……。


 チリーは視界の端で、ザップと交戦するラズリルの姿を見ていた。


 ザップがエリクシアンであることを考えれば、あの場をラズリルとミラルで切り抜けるのは極めて難しい。一刻も早くサイラスとの戦いを切り上げて、救援に向かう必要がある。


 正面からの殴り合いは心を昂らせるが、このままサイラスに付き合って獣になれば”また”失うことになりかねない。


「もっとだ! お前もっとやれそうじゃねえか! 本気出せよガキィッ!」


 サイラスの戦闘力は高い。素手での戦いに手慣れており、状況を愉しもうと言う余裕がある。この単純な応酬をあえて演出しているかのようだ。


 試しにチリーが右拳で僅かにフェイントをかけると、サイラスはすぐに乗ってきた。続いて左拳。二度のフェイントを見せ、両方に反応したサイラスの腹部に左足でミドルキックを叩き込む。


 ガードが間に合わず、ミドルキックをそのまま喰らったサイラスはその勢いのままチリーから距離を取った。


「テメエの方こそ適当やってンじゃねえぞ」

「相手からそんな言葉を言われたのは久しぶりだな……唆るぜ、お前は!」


 サイラスはまだ、エリクシアンとしての能力らしきものもまだ発動しているように見えない。もしまだ本気で戦っていないのなら、いっそのこと今の内に攻め切って、ミラル達の救援に向かった方が得策だろう。


 チリーはまだ、ミラルの力を借りていない。持続時間が不明瞭だったのもあるが、もしサイラス達が殲滅巨兵モルスを起動させてしまえば、殲滅巨兵モルスを破壊する前に力を使い切るわけにはいかなかった。


 だがこの状況なら、殲滅巨兵モルスが相手の手に渡る前に片付けられる可能性がある。


 どうにか隙を作り出し、ミラルを救出して力を借りれば少ない被害で事態を収束させられるかも知れないのだ。


「わりーが切り上げさせてもらうぜッ!」


 チリーは体内の魔力を意識的に操作することが出来る。力の配分を自分で完全に操作出来るため、その場に応じて局所的なパワーを引き出すことが出来るのだ。


 足に魔力を集中させたチリーの速度は風よりも速い。ほとんど瞬時にサイラスの眼前まで肉薄することが出来る。


「――――ッ!?」


 突如速度を上げたチリーに、サイラスは目を見開く。しかしその時には既に、チリーのボディブローがサイラスの腹部に命中していた。


「これで終わりだッ!」


 サイラスの腹部に食い込んだ真紅の籠手が、赤く爆ぜる。高密度の魔力が、ただただ爆発するエネルギーとしてその場で拡散されたのだ。


「がッ……!?」


 想定上の威力だったのか、サイラスが初めてうめき声を上げる。


 チリーの一撃を受けたサイラスは、その大柄な体躯を派手に回転させながら後方に弾き飛ばされる。その確かな感触に、チリーは安堵した。


 ……が、それは束の間の安堵に過ぎなかった。


「なんだ……!?」


 突如、倒れているサイラスから発せられる魔力が膨れ上がる。その異様な威圧感に、チリーは一瞬気圧された。


「そうつれねえこと言うなよ……」


 気がつけば既に、サイラスは立ち上がっていた。


「もう少しろうや……まだまだこれからだろ?」


 駆り立てる焦燥感に歯噛みしつつ、チリーはサイラスへ視線を据えた。


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