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赤き贖罪の英雄譚 -The Legend Of Re:d Stone-  作者: シクル
Season2「The Rebirth Of The Mors」

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episode32「団長の器-Blade and Struggle-」

 時間は、チリー達が屋敷にたどり着く少し前まで遡る。


 ジェインによって屋敷の外へと弾き出されたレクスは、再び中庭でジェインと対峙していた。


 ジェインは元々、レクスへ剣を教えた師にあたる人物だ。レクスはその太刀筋や戦い方をよく理解している。

 しているからこそ、意識がないとは言えそう簡単に対処出来る相手ではないこともよくわかっていた。


 だが意識がないせいか、本気で剣を振るうジェインから感じる、ひりついた感覚はない。それを根拠に、レクスは仮説を立てる。


「操られているんだな……ジェイン!」


 サイラス達イモータル・セブンはエリクシアンだ。エリクシアンの持つ特異な能力は、何も直接戦闘に関連するものだけではない。


「目を覚ませジェイン!」


 ジェインを傷つけまいとなんとかジェインの剣を回避し続けるレクスだったが、それにも限界が訪れる。


 レクスは背負っていた大剣を引き抜き、ジェインの剣を受け止めた。


 銀色の巨大な刀身が煌めく。レクス自身の身の丈程もある巨大な大剣――アダマンタイトブレードはレクスが特注で作らせた武器だ。


 レクスは勢いよく、金剛鉄剣アダマンタイトブレードを薙いだ。


 普通の剣とは比べ物にならないような質量が風を裂き、音を立てる。ジェインの剣は派手に弾かれ、たたらを踏む。

 すかさずレクスは踏み込み、ジェインへ接近するとその胸ぐらを掴んだ。


「ジェイン!」


 レクスの言葉に、ジェインはすぐには答えなかった。

 しかしやがて、虚ろだった目に光が戻る。


「……レクス」


 ジェインがそう呟いた瞬間、レクスは一瞬安堵のあまり気を抜いた。だがすぐに、ジェインの表情と身体の動きが一致していないことに気づく。


「――――ッ!」


 意識を取り戻し、半ば困惑しているジェインの表情とは裏腹に、ジェインの身体は隙を見せたレクスへ襲いかかる。


 後一秒でも反応が遅ければ斬られていただろう。レクスは即座にジェインから距離を取り、その様子を観察した。


 ジェインの目は、ジッとレクスを見つめていた。意識を失っている様子もない。殺気は一切感じられなかった。


 しかしそれに反して、ジェインの身体はレクスに剣を向ける。どうやらジェインが取り戻したのは意識だけで、身体のコントロールまで取り戻したわけではないらしい。


「俺を斬れ」


 そして静かに、ジェインはそう告げた。


「何言ってやがる……! 出来るわけねェだろ!」


 悲鳴じみた声を上げて、レクスは更に続ける。


「アンタ程の男が、敵に良いようにされてんじゃねェよ! ”団長”!」

「俺はもう団長じゃねえよ……わかってるだろ?」


 再び、ジェインがレクスへ斬りかかる。それを金剛鉄剣アダマンタイトブレードで防ぎ、レクスとジェインは鍔迫り合いの状態になった。


 レクスはなるべくジェインを傷つけずに事を収めたかったが、意識を取り戻した上で斬りかかってくる辺り、身体に対する支配は相当強力だとわかる。


「今の団長はお前だろ、英雄レクス!」

「……それでも俺にとっちゃ、アンタは団長なんだよ!」


 ジェインは元々、ヴァレンタイン騎士団の団長だった男だ。弟子であり、ヘルテュラの英雄となったレクスを団長として推薦し、現在は副団長としてレクスを支える立場にある。


「いつまでもオッサンが団長なんぞやってられん! それに、実力じゃもうお前の方が上だろうが!」

「違う! ……アンタは、あの時の傷さえなきゃ……ッ!」


 表向きは新たな世代を育成するためだったが、実際は少し違う。

 ジェインが団長職を退いたのは、かつてゲルビアに攻め込まれた時の戦いで負った怪我が原因だ。


「俺は結局……こうして町を危険に曝しちまった……! 団長の器なんかじゃ……」


 言いかけたレクスの言葉を遮るかのように、ジェインが金剛鉄剣アダマンタイトブレードに剣を押し付けるようにしたまま、全体重を乗せてタックルを仕掛けた。


 その勢いのまま、レクスの身体が押し出される。よろけたレクスに対して、ジェインは鋭い視線を向けた。


「泣き言はやめろッ!」

「……ジェイン」

「敵に良いようにされてんじゃねェとは言うがな……同じことをお前に言いたい奴がいるハズだ!」


 レクスの脳裏を、シュエットの顔がよぎる。だがそれを振り払うようにして、レクスは小さくかぶりを振った。


「……俺はもう、犠牲を出したくない」


 かつての戦いで、レクスはうんざりする程見てしまった。


 傷つき、死んでいく仲間も、攻め込まれる町も。


 ジェインが大怪我をしたのも、戦いの中でレクスをかばったことが原因だ。


 いつだってレクスの中にはあの時の光景がまざまざと蘇る。


 そして何度だって誓うのだ。

 あの惨劇を繰り返さないためなら、泥でもなんでもかぶると。それが例え、自分を敬愛してくれていた団員からの軽蔑の視線であってもだ。


「お前はあの時の戦いで怖くなっちまってるんだろ!?」


 叫び、駆けるジェイン。その気迫は、操られているとは思えない程のものだ。剣を振るうジェインは、この状況で必死に何かを伝えようとしている。


 それを、レクスは金剛鉄剣アダマンタイトブレードで受け止めた。ジェインを見据えると、その相貌はまっすぐにレクスを見つめていた。


「だが思い出せよ……! お前が率いるヴァレンタイン騎士団は、一緒に戦えない程弱い連中か!?」

「……ッ!」


 その時突然、レクスは急に周囲の声が聞こえるようになった気がした。


 ただ目の前のジェインに必死になっていたレクスに、周囲の声が一気に流れ込む。


 ヴァレンタイン騎士団は戦っていた。

 サイラスの指示で攻め込んできたゲルビア兵と、まだ戦っているのだ。


「俺達の町を、これ以上荒らさせるな!」


 そんな叫びが聞こえてきた時、レクスは一瞬愕然とした。


「率いるということは、背負って立つことでも全員を団長がかばうことでもない! わかるな? レクス!」


 押し込まれるジェインの剣を受け止めたまま、レクスはジェインの言葉に耳を傾ける。


「”共に戦う”ということだ……! 団長が盾なんじゃねえ、ヴァレンタイン騎士団全員でこの町の、この国の盾であり……剣だ!」


 いつからか、レクスは守るために戦うことをやめた。


 あの日、仲間達が倒れゆく中、たった一人で抗い続けて……慣れ親しんだ町を地獄と見紛った。


 二度と団員や町の人達を傷つけないために、レクスは剣を降ろし頭を垂れた。

 共に戦うなんて考えは思い浮かばなかったのだ。


 シュエット・エレガンテは、団員達はいつだってすぐそばで戦っていたのに。


「さあ来いレクス! 俺を斬れ! そして……ゲルビアのクソ共に、思い知らせてやれ!」


 ジェインの剣が勢いを増す。繰り出される剣戟を金剛鉄剣アダマンタイトブレードで受け止めながら、レクスは息を呑んだ。


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