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赤き贖罪の英雄譚 -The Legend Of Re:d Stone-  作者: シクル
Season2「The Rebirth Of The Mors」

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28/112

episode28「襲撃開始-The Legend Of Annihilation Giant-」

 時は、サイラス達がヴァレンタイン邸を訪れたタイミングまで遡る。


 サイラス達がコーディに対して、殲滅巨兵モルスの引き渡しを要求しに来たのはこれで三度目だ。


 殲滅巨兵モルスがヴァレンタイン邸で管理されていることを知っているのは、騎士団の人間とアギエナ国内の一部の人間だけだ。


 その存在は伝承に過ぎない、というのが民の間での一般認識である。


 そのため、コーディは毎回ここには存在しない、と答え続けてきた。


 しかしそれでも、サイラス達は引き下がらなかった。


 何らかの形で確信しているとしか思えない態度だ。何故彼らが殲滅巨兵モルスが存在すると断言出来るのか、コーディには全くわからない。何らかの形でゲルビア帝国に情報が漏洩している可能性が高かった。


 例え漏れているとしても、あると言うわけにはいかない。


「何度も申し上げております通り、そのようなものは伝承に過ぎません。我が領土に、そんなものは存在しないのです」

「嘘はよくねえな……」


 正面に座るサイラスは、心底退屈そうにぼやく。


「俺は戦ってる方が好きでな。こういうつまらん仕事は反吐が出る程嫌いなんだ。わかるな?」


 次の瞬間、サイラスの右足がテーブルを強く蹴りつける。置かれたティーポットが勢いよく倒れ、テーブルの上に紅茶をぶちまけた。


「さっさと在り処を吐け」


 ギロリと。サイラスの鋭い目がコーディを睨みつける。その光景に、後ろに控えていたヴァレンタイン騎士団の副団長、ジェイン・ウェストサイドは剣の柄に手を置きかけた。


 サイラス達の横暴な態度に対する不満は、既に騎士団にいくつも寄せられている。ジェイン自身実際に現場に居合わせて怒りを覚えた回数も少なくない。


 なるべく穏便にすませたいという団長、レクスの意見にはジェインも同意出来る。しかし仕えている主に、目の前でこのような態度を取られては、憤るなという方が難しい。


 それでも怒りを抑えるジェインだったが、今度はサイラスの隣にいるリッキーという男が不快な笑みをこぼす。


「おい、お前ら自分の立場わかってんのかァ……? こんなしょうもねえ国、俺達はいつだってつぶせるんだぜェ……?」


 ゲルビア帝国とアギエナ国の関係性。現状、アギエナ国はゲルビア帝国の温情で攻め込まれずにすんでいる状態だ。他国のようにいつ攻め込まれて領土になってもおかしくはない。


 レクスがサイラス達を刺激しないように耐えているのはこのためだ。


 しかしだからと言って、危険な魔法遺産オーパーツを簡単に渡すわけにはいかない。


「リッキー、出しゃばるな。今は俺が喋っている」

「は、はい……」


 サイラスに諌められ、リッキーはおずおずと引き下がる。だがその口元で、僅かに舌打ちしたのがジェインには見えた。


「なんかもう、めんどくせえなぁ」


 深く、わざとらしくため息をついてから、サイラスは口角を釣り上げる。


「どうせここも最後はうちの領土になるんだ。先に制圧しちまったところで、皇帝陛下も文句は言わねえだろ」


 そう、サイラスが口にした瞬間、屋敷の外が急に騒がしくなる。


 騒ぎはやがて、剣と剣が打ち合う戦闘の喧騒へと変化していく。それに気づいた瞬間、コーディの血の気が引いた。


「ああ、もうそろそろ”指示通り”に突入する頃合いか」


 ドアの方へ視線を向けつつ、サイラスはわざとらしくそう呟く。隣に座ったリッキーとザップが、ニヤニヤと厭な笑みを浮かべる。


 その瞬間、必死に平静を装っていたジェインの堪忍袋の緒が切れた。


「サイラス……貴様元からそのつもりで……ッ!」

「最初から素直に差し出しときゃ良かったんだ。こんなまどろっこしい真似させやがって」


 今日この屋敷に来た時点で、サイラスはもう既に交渉をするつもりなど毛頭なかったのだ。


 最初からこの屋敷を襲撃し、戦闘に持ち込むことがサイラスの目的だったのだろう。


 ジェインやレクスが耐え忍んできた意味などもうない。


 どれだけ屈辱を感じても避けたかった事態は、今ここで起きてしまった。


「おい、レクス連れてこい。あいつと戦わせろ。もしくは客人にいた目つきの悪い白髪のガキだ」


 昨夜、サイラスはグレイフィールド酒場で一瞬だけ異様な殺気を感じ取っていた。あれがシュエットやレクスのものでないのだとしたら、恐らく消去法であの白髪の少年――チリーになる。未知数だが、サイラスの見立てでは間違いなくただのガキではない。


 サイラスの任務はあくまで殲滅巨兵モルスの入手だが、任務とは別に個人的な目的もある。


 それが戦いだ。サイラスの本心から言えば、素直に渡されるよりもこのような状況になる方が望ましい。笑みがこぼれるのを、サイラスは隠そうともしない。


「どうした?」


 立ち上がり、サイラスはテーブルを踏みつける。


 そして座ったまま青ざめるコーディを見下ろして――――


「どうせ抵抗すんだろ?」


 平然とそんなことをのたまった。


 次の瞬間、ジェインは剣を抜いていた。


 一閃。


 銀の閃光がサイラスの首めがけて放たれる。


 それを首の動きだけでいともたやすく回避して、サイラスは初めてジェインへ視線を向けた。


「お前の相手など、レクスの手を煩わせるまでもない……!」

「あァ?」

「それとも、副団長のオッサンじゃ不服かい?」

「……不服だね。萎びたジジイにゃ用はねえ」


 言って、サイラスは隣のザップに顎で指示を出す。


「ザップ、遊んでやれ」

「……はいよ」


 ゆらりと、ザップが立ち上がる。しかしジェインは、それを無視してサイラスへ切っ先を向けた。


「舐めるなよ。三下で相手が務まる程、俺はまだ衰えちゃいねえぞ」


 ジェインは、既に齢は四十を過ぎようとしているが、それでも実力はほとんど衰えてはいない。レクスにその座を譲るまで、実に十五年もの間ヴァレンタイン騎士団を率いてきた猛者だ。単純な剣技でなら、まだまだレクスとも渡り合える。


 だがサイラスは、ジェインに取り合うつもりはなかった。


「お、おい……今なんつった……?」


 へらへらと笑っていたザップが、突如その表情を歪ませる。


 わなわなと震えながら、まるで身体のどこかが痛んでいるかのように、ザップは声を震わせた。


「さ、三下って……おッ……俺の、ことか……?」


 ザップの右手が、勢いよくテーブルに叩きつけられる。その音に、サイラス以外の全員が僅かに驚く様子を見せた。


「ああ、すっげーチクチクする! クソッ! お前、チクチクする言葉を俺に言ったなッ!? 最悪だ! ああ、忘れられねえ! 俺、三下って言われたァーーーーーッ!」


 ザップが激しく声を荒らげると同時に、サイラスが今度はリッキーに顎で指示を出す。


「おいリッキー、殲滅巨兵モルスを探しとけ」

「……はい」


 部屋を出て行こうとするリッキーを、身構えて様子を伺っていた騎士団員達が追いかける。そちらは団員達に任せ、ジェインはここでサイラスとザップの相手をするつもりだ。


 しかし一瞬リッキーに気を取られた瞬間、目の前に座っていたハズのザップの姿が消えていた。

 慌てて周囲を見回していると、不意に後ろから肩を叩かれる。


「頼むから……俺には優しい言葉を使ってくれよ」


 耳元で囁かれた瞬間、ジェインは背筋を虫が這い上がるかのような怖気を感じた。


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