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赤き贖罪の英雄譚 -The Legend Of Re:d Stone-  作者: シクル
Season2「The Rebirth Of The Mors」

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25/112

episode25「うさぎさんの推察-Knights Of The Borderland-」

 シュエットとレクスに案内され、三人は無事にヴァレンタイン邸へと到着した。ヴァレンタイン邸は町外れの森の近くにある大きな屋敷で、一目で領主の邸宅だとわかる。


 屋敷の向こうには森が広がっており、更にその向こうに屋敷と同じくらいのサイズの岩山が鎮座していた。


「どうした?」


 その岩山を見つめて立ち止まるラズリルに、チリーが問う。


「いや、なにかな~って……」

「ただの岩山じゃないの?」


 興味深げに岩山を見つめるラズリルだったが、ミラルにはただの岩山にしか見えない。確かに少し大きい気はするが、それだけだ。


(……なんか不自然な位置にある気がするんだよねぇ……)


 ヴァレンタイン邸の周囲はほとんどがただの森だ。そこにただ立っている岩山が、ラズリルにはどうにも異物に思えて仕方がない。


「チリーくんはどう思う?」

「わからん」

「だと思ったぜぇ」

「それがわかってんなら聞くな!」


 怒鳴るチリーをなだめつつ、ラズリルは岩山を思考の隅に追いやる。この岩山が何だったとしても、ラズリルにはあまり関係のないことだ。少なくとも今は。


「チリー、声を荒らげないで。ただでさえこんな時間の訪問で申し訳ないんだから……」

「別に構わねえっつってただろ。気にすんなよ」


 レクスは問題ないと言っていたが、それでも夜遅くの訪問は気持ち的に躊躇われる。やはり野宿にしておこうか、などとミラルが迷っていると、チリーが躊躇なくヴァレンタイン邸のドアをノックしていた。



***



 ヴァレンタイン家の従者はこんな遅い時間の訪問にも関わらず三人を歓迎すると、客室へと通してくれた。既に主人のコーディは休んでおり面会は明日という形になる。


 数日ぶりの清潔な部屋とベッドに、ミラルは思わず涙ぐみそうになる。しばらくぶりに獣や外の物音に怯えずゆっくり眠ることが出来るのかと思うと、一気に身体から力が抜けてしまいそうな程だった。


 というか実際に力が抜けてベッドに倒れ込んでいた。


「柔らかい……いい匂いがするぅ……」

「いやぁ、宿に泊まるよりもずっと良いベッドにありつけたねぇ」


 ミラルとラズリルは同室で、チリーは別の部屋に泊まることになっている。


 ヴァレンタイン邸はヴァレンタイン騎士団によって守られている上、もしもの場合はラズリルが対応出来る。チリーもラズリルの腕をある程度信用しているのか、ミラルをラズリルに任せて自分用の部屋へと入っていった。


「なんか……ようやく色々と落ち着いた気がするわ……。今はラズしかいないし……」

「ふむ? チリーくんがいると何かまずいのかい?」

「……まずい、というか、気が抜けない、というか……」


 一応三十歳くらい年上ということになるらしいが、見た目上は同じ年頃の男女だ。チリーはどうだかわからないが、ミラルにとっては十分意識してしまう”異性”である。それもミラルはペリドット家にいた頃面識のあった男性は非常に少なく、父親以外の男性と四六時中、寝る時まで一緒にいるなんて経験は全くなかったのだ。


「なるほどなるほど……なるほど……へぇ~~~、ふ~~ん?」

「な、なによ……」


 ニヤニヤとした顔でミラルの顔を様々な角度から覗き込むラズリルから、ミラルは顔を背ける。


「頑張りたまえよミラルくん、奴は手強いぜぇ」

「どーゆー意味よ!」


 頬を赤らめるミラルを眺めつつ、ラズリルはやたらと愉しげに腕を組んで数度頷いた。


「鈍いだけならまだしも、一物抱えて後ろを見ていやがるからね、彼は」

「……そう、ね」


 結局ティアナについては、チリーから直接聞き出すことはしていない。ミラルが知っているのは、あくまでチリーと青蘭の会話の中から汲み取れる情報だけだ。


「……なるべくそばにいてあげるといいよ。あの手の男は意外とうさぎさんだぜ」

「うさぎって……」

「毛並みも近いし」


 ラズリルがそんなことを言い始めたせいで、ミラルの脳裏でチリーの頭に兎耳が生えてくる。


 仏頂面でボサボサの銀髪の上でぴょこんと立つ兎耳が異様にシュールで、ミラルは思わず吹き出してしまった。


「そうね、チリーってうさぎさんよね――――」


 そんなことを口にした途端、突如部屋のドアが勢いよく開く。


「……誰がうさぎだッ!」


 しかめっ面のうさぎさんに怒鳴り散らされ、ミラルはひとまずベッドの中に逃げた。



***



「ていうか、急に入ってこないでよ!」

「そーだそーだ!」

「うるせえな、お前らに話があるからわざわざ来たンだろーが」


 ミラルとラズリルに非難されたが、チリーはぶっきらぼうにそう答えつつ嘆息する。


「乙女の部屋には勝手に入るものじゃないぜうさぎくん」

「ほーお? ピエロの控室はサーカスじゃ乙女の部屋っつ―のか?」

「言うともさ。我が一座始まって以来の習わしでね」


 口の減らないチリーとラズリルは放っておけばいつまで言い合いをしているかわかったものではない。すぐにミラルは、話を本題に戻すために割って入っていく。


「それでチリー、話って?」

「ああ。サイラス達についてだ」


 チリーがそう言った瞬間、ミラルもラズリルも真剣に耳を傾けた。


「あのレクスって奴の見立て通り、サイラスはエリクシアンだ。横の二人もな」

「……全員エリクシアンか」


 呟いて、ラズリルは顔をしかめる。


 イモータル・セブンはほとんどがエリクシアンのみで編成された少数精鋭の部隊だ。彼らがイモータル・セブンだと仮定すれば、むしろ全員エリクシアンである方が自然だろう。


「しかしチリーくん、君はエリクシアンを判別出来るようだけど、他のエリクシアンはどうなんだい?」

「さあな。他のやつのことまでは知らねえよ。ただまあ……俺の方が魔力……エリクサーや賢者の石の力には敏感みてえだな」


 曖昧な言い方だったが、チリー自身もこのことについてはよくわかっていない。

 通常、エリクシアンはエリクサーを接種することで人間からエリクシアンへと変化する。しかし三十年前に賢者の石に直接触れたチリーと青蘭は、他のエリクシアンとは違う経緯で今の身体になっている。


「それって、賢者の石に直接触れたチリーは特別ってこと?」


 ミラルは、チリーとエトラが戦った時のことを思い出す。


 あの時、チリーはエトラを一目でエリクシアンだと見抜いた。しかしエトラの方は、チリーが魔力を使うまではチリーの正体に気づいていない様子だった。


「確証はねえがな」

「もしサイラスという男がチリーくんの正体に気づけるなら、何もしてこないのは不自然だしね」

「気づいてねえのか、或いは既に動向を探られているのか……。どっちにしろ、つけられてはねえハズだ。俺とお前、それにレクスの奴も三人そろって尾行に気づけねえってことはねえだろ」

「まあ、用心するに越したことはないだろうけどね」


 ラズリルの言葉に、チリーは短く頷く。


「それにしてもなんだってイモータル・セブンがこんな場所に滞在してるんだか……。これ以上関わりになる前に出発した方が良さそうだよ」

「……そうね」


 サイラス達がミラルのことや聖杯について気づけば必ず狙われる。戦闘になれば、エリクシアン三人を同時に相手取ることになるだろう。

 今はただ、何も起こらないことを祈ることしか出来なかった。


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