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赤き贖罪の英雄譚 -The Legend Of Re:d Stone-  作者: シクル
Season2「The Rebirth Of The Mors」

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episode24「英雄だった男-Knights Of The Borderland-」

 レクスに連れ出され、ミラル達はヴァレンタイン邸に向かいながらお互いに自己紹介をすませた。レクスは、ミラル達に関しては父親のコーディ・ヴァレンタインの客人、という部分しか聞いておらず、素性や旅の目的までは知らないようだった。


 レクスは町の人間は大体覚えているため、知らない顔でサイラスに今更絡まれる女は間違いなく旅人である、と判断していた。

 それがコーディの客人であるかどうかはどちらでも良かったらしく、当たっていればヴァレンタイン邸に連れて行くし、違うなら違うでそのまま離れた場所まで逃がすつもりだったようだ。


「本当にありがとうございます。正直、あのまま逃げられるかどうかは不安だったので……」

「気にするな。これも俺の仕事の一つだ」

「そうさ。ヴァレンタイン騎士団はレディを絶対に守る」


 そう言って得意げに笑うのは、レクスではなく先程サイラスにぶっ飛ばされたシュエット・エレガンテだ。


 ヴァレンタイン騎士団はこの国境の町、ヘルテュラシティを警備する騎士団で、元々はヴァレンタイン公爵家の私兵だった。しかしその実力を買われ、国王のウィリアムの補助を受けながら町と国を守る騎士団となったのである。


 今でこそアギエナ国とゲルビア帝国は友好的な関係を築けているが、他国のようにゲルビア帝国からの侵略を受けていたこともある。


 しかしヘルテュラシティに攻めてきたゲルビア帝国兵達は、ヴァレンタイン騎士団によって一度撃退された。その時最も武勲を立てたのが現団長であるレクス・ヴァレンタインなのだ。


 その戦いの後、アギエナとゲルビアは同盟を結び、現在の関係に落ち着いたのである。


「あの時の団長はすごかったんだ……団長ならエリクシアンが相手でも負けるわけがない」


 当時の戦いを思い返しながら、シュエットは酔いしれるようにレクスの武勇伝を語る。


 語られるのはレクスの話ばかりで、シュエット自身の話はほとんど出て来ない。大方、先程のサイラスとの戦いのようにすぐにやられてしまったのだろうとミラルは苦笑いしてしまう。


「……昔のことだ」


 むず痒いのか、レクスはシュエットから目をそらしてそう呟く。すると、シュエットの表情が一変する。


「ああ、団長がすごかったのはあの時が最後だ」


 顔をしかめるシュエットに、レクスはため息をつく。

 その反応が納得いかなかったのか、シュエットは声を荒らげ始めた。


「なんという体たらくだ団長! あんな連中に頭を下げるなんて!」

「お前の不始末は、上司の俺が頭を下げるのが筋だ」

「困っているレディを助けることの、どこが不始末だって言うんだ!」


 そこで立ち止まり、シュエットは真っ直ぐにレクスを見つめる。


 その真剣な眼差しを、レクスは直視し続けることが出来なかった。

 どこかでなくした、或いは押し込めたものを見せつけられているような気がしたのかも知れない。


 レクスが言葉を失いかけていると、不意に今まで黙っていたチリーが口を開く。


「……自分の実力も弁えずに向かって行きゃ、不始末扱いされても仕方ねえだろ」


 チリーの言葉に、シュエットは何故かキョトンとした顔を見せた。


「……何だ君は。誰だ、いつからいた?」

「ずーーーっといただろーが! 鳥頭かテメエは!」

「おお、思い出した! 少年Aか!」

「お前ほんっとーにぶちのめすぞ」


 ついつい拳を握りしめるチリーを、慌ててミラルがたしなめる。


「それに、あのサイラスって奴、本気で相手されてたら死んでたぞお前」


 ミラルに免じて拳を収めたチリーがそう言うと、シュエットより先にレクスがピクリと反応を示した。


「実力がわかるのか?」

「なんとなくな」


 それなりに場数を踏んできたチリーから見れば、実力のある人間とない人間はすぐに見分けがつく。ラズリルと初めて会った時に警戒したのもそのためだ。


 だが実力以上に、チリーはサイラスの危険性を感覚的に理解している。


 サイラス・ブリッツは、恐らくエリクシアンだ。


「彼の言う通りだシュエット。サイラスは自分のことをイモータル・セブンの隊長の一人だと言っていた。それが嘘だとしても、奴の実力は俺にもある程度は推察出来る」


 イモータル・セブン。

 ゲルビア帝国で編成された、エリクシアン中心の特殊部隊だ。


 サイラスがエリクシアンだということを加味すれば、隊長だというのも事実かも知れない。


 イモータル・セブンの存在はミラルやラズリルもある程度は知っている。現在のゲルビア帝国の巨大な領土を作ったのは、ほとんどイモータル・セブンだと言っても良いくらいだからだ。


「あの男は、恐らくエリクシアンだ」


 レクスの言葉に、シュエットは一瞬言葉を詰まらせる。


 だが引き下がれないのか、すぐに拳を握りしめて声を上げた。


「そんなことはわかっている! だからと言って、あんな連中を野放しに出来るか!」


 サイラス達は、自分達がゲルビア帝国の軍人だからと言う理由で好き勝手に振る舞っている。

 彼らはこの町に滞在するようになって以来、ずっとそうやって過ごしているのだ。


 シュエットはそれが許せない。

 立場を笠に着て横暴な態度を繰り返し、金も払わずに飲み食いするような連中が野放しになっていることが我慢ならなかった。


 しかしそれでも、強く出られないのが今のアギエナ国だ。明らかな犯罪行為ならまだしも、サイラス達はツケを理由にギリギリのラインで好き勝手にやっている。それに結局のところ、アギエナ国の平和はゲルビア帝国の”温情”だ。反感を買えば、すぐに捻り潰される。


 それがわかっているから、レクスは立場上動くことが出来なかった。


「……まあまあ、シュエットくんのおかげでこうしてラズ達は助かったわけだし、ヴァレンタイン邸にも予定より早く行ける……ここは感謝しようじゃないか」


 重い空気をなんとかなだめようとするラズリルに、ミラルは隣で頷く。


「そうね。本当にありがとう、シュエットさん」


 そう言ってミラルが頭を下げると、シュエットは少しだけ表情を和らげる。


「……いや、気にしないでくれ。レディを助けるのは当然のことだ」

「ラズもレディだよね?」

「勿論だとも」


 シュエットが深く頷いて見せると、ラズリルはにっこりと笑った。そんなラズリルに、チリーは小さく嘆息する。


「お前、けっこー単純な奴だったんだな」

「ふふ、ラズのことを複雑そうに見てくれてありがとう。実はこの通り、単純な女なのさ」


 そんなことをのたまいながら何故か得意げに笑うラズリルに、チリーはもう一度、今度はわざとらしく嘆息した。


「……酔い、覚ましとけよ」

「覚めてる。いつも通りだよ」


 カラッと笑うラズリルに、もうチリーは何も言う気が起きなかった。


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