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赤き贖罪の英雄譚 -The Legend Of Re:d Stone-  作者: シクル
Season2「The Rebirth Of The Mors」

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episode23「エレガントな乱入-The Elegant Intruder-」

「恐らく旅の者かと……」


 近くにいた店員がそう答えると、サイラスは手招きし始める。


「嬢ちゃん、こっち来いよ。酒でも飯でも、好きなモン奢ってやるぜ」


 サイラスがそう言った瞬間、ラズリルがピクリと反応を示した。


「え? ほんとに? おごり?」

「バカ言えピエロ面、お前じゃねえ」


 二色の瞳が、死んだ魚のように冷める。


 即座に袖の中へ手を突っ込もうとしたラズリルを、チリーはとりあえずそっと止めた。


「そこのキレイな亜麻色の髪のお嬢ちゃんの方だ。こっち来いよ」


 ゆっくりと、サイラスが歩み寄ってくる。


 なんとか平静を装おうとしているが、ミラルの肩が強張り始めた――その時だった。


「待ちたまえ!」


 店全体に響く程張り上げられた声が、入り口からサイラスへ叩きつけられる。


 サイラスはすぐにそちらに目をやったが、すぐに呆れたようにため息をついて見せた。


 そこにいたのは、軽装の鎧で武装した、黒い短髪の若い男だった。彼の胸元には狼を象ったプレートが縫い付けられている。端正で男らしい顔つきで、太めの眉をしかめてサイラスを睨みつけていた。


「またテメエか」

「ふっ、聞かれたからには答えてやろう」

「聞いてねえよ知ってんだから」


 適当にあしらおうとするサイラスだったが、男の方はもうほとんど聞いていない。堂々と店の中央まで歩いてくると、声高に名乗りを上げる。


「我が名はシュエット・エレガンテ! 誇り高きヴァレンタイン騎士団のナンバー2だ!」


 そこで、死んだ魚のようだったラズリルがハッとなる。


「ヴァレンタイン騎士団……そうか、あの狼のプレートはヴァレンタイン公爵家の家紋だったね」


 ヴァレンタイン公爵はこのヘルテュラを納める貴族であり、その名を冠した騎士団を持つことでも知られている。あのプレートを身につけているということは、このシュエットという男も騎士団のメンバーで間違いない。


 つまるところ、一応味方だ。


「さあ、お逃げなさいお嬢さん!」


 シュエットは三人の元へ駆け寄ると、かばうようにして両手を広げる。


「ラズも入ってる?」

「勿論だとも! 二人共はやく逃げるんだァッ!」


 満更でもなさそうなラズリルに、チリーは思わず小さく嘆息した。


「さあ表へ出ろ! 今日こそ決着をつけるぞサイラス・ブリッツ!」

「……ったくしょうがねえな。付き合ってやるよ。お前ら手ェ出すなよ」


 シュエットが勢い良く外へ飛び出すと、その後をめんどくさそうにサイラスがついていく。その様子を呆れた顔で見ていたチリーは、ややうんざりした顔で呟く。


「俺あーゆー一人で勝手に盛り上がる奴苦手なんだよな……青蘭せいらんとか」

「……流石に一緒くたにするのは気の毒よ……」


 思わずそうフォローを入れてしまうミラルだったが、チリーの言いたいことはわからないでもなかった。


 兎にも角にも、シュエットのおかげでこの場から逃げ出す格好のチャンスが訪れている。


 すぐにこの酒場をこっそり出てしまおうと店員に話をつけ、裏口から出る相談をしていた三人。しかし、ぶっ飛ばされて入り口から転がり込んできたシュエットを見下ろして三人共が目を丸くした。


「だ、大丈夫ですか……?」


 ついついミラルがそう問うと、シュエットはがばりと起き上がって笑顔を見せる。


「ご心配なく、鍛えてますから!」


 そう言ってシュエットは、即座にミラルの手を取った。


「いやなに。今日は調子が悪かった。調子が良ければあんな連中指先一つで……」


 元々整った顔立ちをしているので、綺麗に笑えばとにかく見栄えは良い。しかし肝心のシチュエーションが極めて情けない。


 要するに、サイラスには負けたが言い訳している状態である。


 そんなシュエットの頭に、上からげんこつが落ちる。


「何やってやがんだテメエは」


 げんこつの主は、シュエットと同じプレートを身につけた細身の男だった。


 外ハネの激しいショートヘアをウルフカットにした二十代後半に見える男だ。大剣を背負っているが軽装で、頬には傷跡がある、男はライトブラウンの切れ長の瞳で、シュエットを軽く睨みつける。


「レクス団長!」


 シュエットにレクス隊長と呼ばれたその男は、呆れてため息をついた後、シュエットを連れてすぐ入り口へと向かう。丁度そこには、外から店内に戻ってくるサイラスの姿があった。


「ふははは! サイラス! 団長が来た以上お前は終わりだ!」

「サイラス殿……うちの部下が大変失礼した」


 高笑いするシュエットだったが、レクスはサイラスに対して深く頭を下げる。


「なあに気にすんな。ほんの余興だ、なあ?」


 サイラスがそう言ってザップとリッキーに目をやると、二人はニヤニヤと嘲るような笑みを見せた。


「まあ、部下のしつけはしっかり頼むぜ、英雄さんよ」


 そう言ってサイラスがレクスの肩を叩く。レクスは頭を下げたまま一瞬だけ鋭い目つきをしたが、すぐに目を伏せた。


「……はい」

「貴様ら! 団長をバカにするな! ボコボコにされたいのか!?」


 騒ぐシュエットには取り合わず、レクスは頭を上げるとミラル達へ視線を向ける。


「彼女達は父の客人だ。連れて行って構わねェか?」

「あ? コーディのか? しょうがねえな……後で紹介しろよ」


 レクスはサイラスの言葉には曖昧に答え、ミラル達とシュエットを連れてすぐに店の外へと出て行った。



***



 レクスに連れ出され、ひとまず一行はサイラスから逃れることに成功する。


 グレイフィールド酒場を出る頃には外は暗くなっており、ミラルは王都で調達したランタンに火をつけた。


「さっきは、ありがとうございます」

「気にすることはないさ、美しいお嬢さん達と少年A」

「誰が少年Aだ誰が」


 シュエットを軽く睨みつけるチリーだったが、動じる様子はない。


「いや、むしろそこのバカが迷惑をかけたな。すまない」


 ミラルとラズリルに詰め寄るシュエットを強引に引き剥がしつつ、レクスはそう言って嘆息する。


「自己紹介が遅れて悪い。俺はレクス・ヴァレンタイン。アンタらの話は親父から聞いてるんでな……こっから屋敷まで案内させてもらう」


 レクス・ヴァレンタイン。彼は、ヴァレンタイン騎士団の団長にして、ヴァレンタイン公爵家の人間だった。


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