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赤き贖罪の英雄譚 -The Legend Of Re:d Stone-  作者: シクル
Season2「The Rebirth Of The Mors」

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22/112

episode22「酒場での遭遇-The Elegant Intruder-」

 翌日、一行がヘルテュラシティに到着したのは日が暮れ始めてからだった。


 この時間帯にヴァレンタイン邸を訪問するのは流石に無遠慮だろう。一行は一晩宿で明かすことに決める。


 入り口の城門は、クリフに渡された通行証を見せればすぐに中へ通してもらえた。


 ヘルテュラシティは国境の町だ。西側はゲルビア帝国の領地であるルクリア国と面しており、交流があるためそれが町の発展に繫がっている。


ヘルテュラシティから北へ行けば、テイテス王国だ。


 一行は酒場と宿屋を兼任しているグレイフィールド酒場、という場所で宿を取ることに決めた。


「というわけで~~~~! ヘルテュラ到着を祝って、かんぱ~い!」


 非常に高いテンションで、ラズリルはエール(麦芽を原料とした醸造酒)の入ったジョッキを突き出す。


 ミラルは嬉しそうに、チリーは渋々と言った様子でコップを突き出して三人で乾杯する。


「エールキメるのラズだけ~? みんなも飲もうよ~~」


 ミラルは酒を飲んだことがないため、今回はとりあえずミルクだ。チリーに至ってはただの水である。


 テーブルにはスープやハム、ソーセージなどが並んでいる。道中は携帯食料ばかり食べていたので、香ばしい香りが三人の鼻孔を激しく刺激する。


「酔っ払って襲撃に対応しそびれたらどーすんだよ。今日はお前寝とけよ」

「優しいねぇチリーくんは。しっかり美女二人を守ってくれたまえよ」

「おうおう。のろまとピエロのお守りにゃ慣れてンだ」

「ひどいやつだねぇ君は」


 そんなことを言いつつも、ラズリルは上機嫌そうにククッと笑う。


 一方のろま呼ばわりされて抗議の目を向けていたミラルは、途中でハムの旨味に酔いしれてしまい、自然と抗議を取りやめていた。


「ていうかこれ、ラズの奢りだよ~? チリーくんはもうちょっと感謝の気持ちを見せてもいいんじゃないかな!?」

「へいへい、ありがとーごぜーました」

「気持ちを込めろ気持ちを~~!」


 酒場でこうしてゆっくり出来るのは、実はラズリルのポケットマネーのおかげである。


 クリフにもらった金貨のほとんどは旅支度で使ってしまっており、本来なら今日も安い宿に泊まるか最悪野宿の予定だったのだ。


 しかしそれではヘルテュラシティ到着を祝えない! とラズリルが騒ぎ立て、あまりのエール飲みたさに奢るとまで言い出したのである。


「……本当にありがとうラズ……とってもおいしい……」

「…………ミラルくんが泣きそうな顔で感謝してるから、彼女に免じて許してやろうチリーくん」


 そうして貴重な憩いのひとときを過ごす一行だったが、その安寧は予期せぬ訪問者によって壊されることになる。


 グレイフィールド酒場のドアを、ゲルビア帝国の軍服を着た三人の男達が開けたからだ。


 そしてその周りには何人もの女達が取り囲んでいる。どの女も着飾っており、中心にいる男にまとわりつくようにして腕だの肩だのに触れている。


 その一団を見た途端、酒場で談笑してた者達がそそくさと店を出ていく。そうして空いた広い席に男達がどっかりと座り込むと、その周囲に女達が黄色い声を上げながら座っていった。


 軍服を着た三人の内の一人が、店員を呼び止める。


 ひょろりとした背格好の、あまり軍人らしくない男だ。薄っすらとヒゲを蓄えており、前頭部を剃り上げた短髪の男だ。


「おい、この店で一番良い酒を持って来い」

「申し訳ありません。先日切らしてしまいまして……」

「何ぃ?」


 男の眉間にシワが寄る。


「……それと、大変申し上げにくいのですが……まだ、これまでのツケをいただいておりません……」


 店員がやや震えた声でそう言うと、男は一気に形相を変えた。


「なんだそりゃ……ってーとお前はアレか? 俺を盗人呼ばわりするつもりか? ツケとくって言ってるのによォ~~~~ッ!」

「いえ、なにもそんなことは……」

「今のは心がちくちくしたぜ……。俺は繊細なんだよ! ちくちくする言葉はやめろッ!」


 妙な罵声を浴びせる男に、店員は竦み上がる。そんな男を、中心にいる赤髪の男が制止した。


「ザップ」

「俺には優しい言葉だけ使えッ! ちくちくするなッ! クソが! 盗人だなんてひでえこと言いやがる! 優しくしろよォ!」

「ザップやめろ。まあいいじゃねえか、酒ならなんでもよォ」


 喚き立てる男の名は、どうやらザップというのだろう。赤髪の男が語気を強めると、ザップはやや不服そうに引き下がった。


「おい、二番目で構わねえから酒持って来いや」


 赤髪の男は、ザップに比べるとかなり体格が良く、大男と言って差し支えない。真っ赤な髪は前髪だけなでつけられており、後ろは肩まで伸び放題と言った様子だ。いかつい顔立ちだが、年の頃は三十前後と言ったところだろうか。


「はい、サイラス様」


 店員は男――サイラスに頭を下げ、すぐに酒を取りに行く。その背中に、三人目の小柄な男がニタニタと笑う。


「はやくしろよ……誰のおかげで平和でいられると思ってんだ……?」


 アギエナ国は現状、ゲルビア帝国と友好関係を築くことで平和を維持している状態だ。ゲルビア帝国とアギエナ国ではあらゆる面で大きな差がある。友好的な関係と言えば聞こえは良いが、実際は見逃してもらっているような状態だ。


 もしゲルビア帝国がアギエナ国を潰そうと思えばすぐにでも出来る。それをあえてしないのは、する必要がないだけなのだ。


 その結果がこれだ。


 ゲルビアの軍服を着ているだけでどこまでも横柄な態度が取れる。彼らの言う”ツケ”も半永久的に払われることはないのかも知れない。


「リッキー、その気持ち悪い笑い方やめろっつったろ」


 サイラスに咎められ、リッキーと呼ばれた小柄な男は慌てて頭を下げる。


「す、すいません隊長」


 しかしサイラスから隠れたその表情は、吐き出した言葉とは正反対だ。

 サイラスの代わりとでも言わんばかりに床を睨みつけ、リッキーは顔を歪ませる。


「お前は別に見た目が悪いわけじゃねえんだ。その気持ち悪い笑い方さえやめりゃ、女の一人や二人いくらでも紹介してやるよ」

「善処します……」


 そんなものに興味はない。リッキーにとっては酒も女もただの付き合いでしかない。そもそもサイラスの部下でいること自体、取り入る以上の意味はないのだ。


 今に見ていろと下剋上を心の片隅で誓うリッキーの思いなどつゆ知らず、サイラスはリッキーから視線を離して隣の女の髪をなでた。


 サイラス達がそんなやり取りをしている内に、彼らのテーブルに酒と料理が運ばれてくる。


 聞いていた様子では料理を頼んでいるようには見えなかったのだが、ミラル達のテーブルとは比べ物にならない程の大量の料理が運ばれてきている。


 肉料理が大半で、思わず羨ましくなるような分厚いステーキからは食欲を掻き立てる香りが漂っていた。


 幸い、サイラス達はミラルやチリーにはまだ気づいていない。人相までは出回っていないのか、単に彼らの任が別にあるのか。いずれにせよ、ここに長居するのは危険だった。


 三人は既に食事を食べ終わっていたため、宿だけキャンセルして別の宿を探すか、諦めて野営する覚悟を決める。


 そうして帰る準備を整えていると、不意にサイラスの視線がミラル達の方へ向けられた。


 驚いて肩をびくつかせるミラルと、静かに身構えるチリーとラズリル。しかしサイラスは、嬉しそうに表情を和らげる。


「なんだよ、ガキだがかわいいのがいるじゃねえか! 見ねえ顔だな、どこのガキだ?」


 サイラスの視線は、明らかにミラルに向いている。


 ミラルの背筋を厭な汗が伝った。

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