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赤き贖罪の英雄譚 -The Legend Of Re:d Stone-  作者: シクル
Season1「The Long Night is Over」

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episode18「聖杯の継承者-Heir of the Holy Grail-」

 そのままラウラはエリクサーが生まれた経緯を話し始める。


「元々ゲルビア帝国は、賢者の石を複製しようとしていた。エリクサーは、いわばその副産物のようなものよ」

「エリクサーは偶然の産物ってことか」

「そうね。帝国は様々な魔法遺産オーパーツや古い文献をかき集めて、賢者の石……もしくはそれに準ずる力を持つモノを作り出そうとしていた」


 そんな中で、偶然ヴィオラ・クレインが完成させたのがエリクサーなのだ。


「エリクサーは賢者の石の出来損ないとも言えるけど……その力は人間の身に余る。ハッキリ言って彼の……青蘭という人の言うことは間違っていない」

「……まあな」


 飲んだ人間の能力を一定の確率で飛躍的に上昇させて、エリクシアンへと変化させる。魔力を操り、異能を発現させるエリクシアンはあまりにも危険な存在だ。


 ――――エリクシアンは、エリクサーは過ぎた力だ。当然、賢者の石もな。


 青蘭の言葉を思い返し、チリーは眉をひそめる。


「だけど、全ての人間がエリクシアンになれたわけではないわ。適合しなければ、大抵は身体が崩れて死ぬか、異形の肉塊に成り果てて……廃棄される」


 ラウラの口から語られるのは、ゲルビア帝国が内包する悍ましい闇の部分だ。


 エリクサーの素材になった人間と、エリクサーに適合出来ずに廃棄された人間。ゲルビア帝国の内部では、夥しいまでの命が犠牲になっているのだ。


 大帝国ゲルビアの栄華は、無数の屍から成り立っている。


「罪人や、他国の捕虜を使って実験は何度も繰り返された……。母の代でも、私の代でも」


 当時のことを思い出したのか、ラウラの表情に影が差す。


 ラウラは、正気を保ち続けたことが災いした。


 正気を捨て去り、研究に没頭出来ればそれがラウラにとっては一番良かったのかも知れない。実際の所、ヴィオラ・クレインは研究に注力するあまり犠牲を伴うことに対して何の感情も抱かなくなっていたのだから。


 そんな母の姿を見て、ラウラは自分に流れる血を悍ましく思ったことすらある。


 流されるままに研究を引き継ぎ、母が息を引き取ったあの日――――アルドに諭され、ラウラは逃げ出すことを決意した。


「……死のうとすると、実験台にされた人達の顔が頭に浮かぶのよ……。苦しむ顔がいくつも浮かんで……楽になるつもりかって……」


 そこでふらりと、ラウラの身体がよろめく。隣にいたラズリルがそれを慌てて受け止め、しっかりと支えた。


「ラウラくん、少し休みたまえ。顔色が最悪だ」

「……いいえ、もう少し話させて。身の上話が長くなってごめんなさい」


 そう言ってラウラは自力で身体を起こすと、ミラル達に頭を下げる。


「ミラルちゃん、あなたの話をしないといけないわ」

「……はい、お願いします」


 ラウラの言葉に、ミラルは拳を握りしめて身構えた。


「アルドが私に会うようあなたに伝えたのは……恐らく真実をあなたに伝えるためよ」


 ゴクリと。ミラルが生唾を飲み込む。


 そしてラウラは、静かに告げる。


「ミラルちゃん、あなたにはテイテス王家の血が流れている」


 ラウラがそれを口にした瞬間、真っ先に反応を示したのはチリーだった。


「どういうことだ!?」


 テイテス王家。

 それはかつて賢者の石によって崩壊したテイテス王国を納めていた王族の家系だ。


 動揺するチリーと、戸惑うミラル。


 ラウラはそのまま話し続けた。


「ミラルちゃん、あなたの母親の名はシルフィア・ロザリーナ・テイテス。れっきとしたテイテス王家の王女よ」

「そ、そんなこと……お父様は一言も……っ!」


 ミラルが物心ついた時には、既に母は他界してしまっていた。

 母の記憶はほとんどない。家には肖像画も置かれてなかったため、顔を思い出すことさえ出来なかった。


 そんな母親が元は他国の王族だと言われても、ただ困惑するばかりだ。


「……まさか!」


 ハッとなり、ミラルは懐からブローチを取り出す。それを見せると、ラウラは深くうなずいた。


「そのブローチは、テイテス王家の秘宝の一つ。……あなたが持っておくべきものよ」


 あの日、アルドが手渡したブローチは、恐らく母の形見だ。


 このブローチは、ただの商家であるペリドット家の家宝としては明らかに上質過ぎた。それを父が持っていた理由も、父がミラルに託した理由も、ラウラの話で全て説明がついてしまう。


 ブローチを握りしめるミラルを見つめつつ、ラウラは話を続ける。


「賢者の石は元々、テイテス王国で管理されていたわ……そして、それを制御するための方法も」

「制御する方法……だと……!?」


 驚愕するチリーに、ラウラは首肯する。


「賢者の石を制御するための魔法遺産オーパーツ、膨大な魔力を制御するための受け皿……それが聖杯よ」


 ――――彼女の聖杯が……目覚めた!


 あの地下牢での戦いで、ラウラは確かにそう言った。


「そして聖杯は、テイテス王家の人間が代々母体を通して受け継いできた、と言われているわ。シルフィアもまた、聖杯の継承者だった」


 王家の血。

 母体による継承。

 ミラルの母、シルフィア。


 それらが導き出す答えはただ一つ。


「聖杯は、ミラルちゃんの身体に受け継がれている」

「私に……聖杯が……?」

「昨日の夜、地下牢で彼の力が高まった時、私は確信した。彼が賢者の石に直接触れてエリクシアンになったのなら……聖杯の影響を受けても不自然ではないと思うの」


 そもそもエリクサー自体が、賢者の石を複製しようとした時に偶然生まれた副産物だ。力の由来はあまり変わらない。


 チリーの力が賢者の石に触れて直接与えられたものならば、賢者の石を制御出来る聖杯の力がチリーに影響を与えたと考えることが出来る。


 あの時ミラルは、チリーの力になりたいと強く望んだ。


 それを、チリーの中にある魔力を増幅させる、という形で聖杯が叶えたのかも知れない。


「それじゃ……あの時も……」


 チリーと出会ったあの日、ミラルは導かれるようにして洞窟の中へ入った。


 青蘭の時も同じだ。鼓動に導かれた先に、彼はいた。

 それは二人の中にある賢者の石の魔力に、ミラルの中の聖杯が反応したからなのかも知れない。


「……なるほどな」


 あの地下牢での戦いの時、チリーはミラルに触れることで力を取り戻した。


 地中から脱出し、ラウラの家に戻るまでは完全に力が戻った状態だと感じていたのだが、一晩休むとあの時程の力は感じられなくなっていた。


 あれは力が戻っていたのではなく、一時的にミラルの聖杯の力で増幅されていただけだったのだ。


「……大体のことはわかった。それで、お前は賢者の石の在り処はわかるのか?」


 チリーの問いに、ラウラは首を左右に振って否定する。


「……振り出しか」


 いくつかの疑問は解けたものの、結局のところ賢者の石の在り処に関してはほとんど手がかりがない。


「あ、あの……」


 そこで、ミラルがおずおずと口を開く。


 言葉を促すようにラウラが視線を向けると、ミラルは伏し目がちに話し始める。


「お父様のこと……もう少し教えてもらえませんか? その、ゲルビア帝国にいた頃のこととか……どうしてお母様と知り合ったのか……」


 ミラルの父、アルド・ペリドットについてはあまりにも不明な部分が多い。

 何年も一緒に暮らしていたハズのミラルだったが、思っていたよりも父を知らなかったことには半ば愕然とするような思いがあった。


「……アルドについては、私も詳しい話はわからないの。ごめんなさい。ゲルビア帝国を抜け出した後、一緒にテイテス王国に逃げ延びたから、その時になにかきっかけがあったのだと思うけど……」

「ラウラくんがテイテス王国に滞在していた時間は短いからね」


 横からラズリルが補足すると、チリーはすぐにラズリルへ視線を向ける。


「お前も一緒だったのか?」

「一緒だったと言うか……ラズがさらったような感じかな」

「さらっただァ?」

「さらわれたわけじゃないのよ。ただ、偶然出会って一緒に旅を始めただけで……」


 チリーが顔をしかめると、慌ててラウラが訂正する。


「当時の私は塞ぎ込んでいたから……ごめんなさい、テイテス王国やアルドに関しては知っていることが少ないの」

「ああいえ、そんな……謝らなくても……。わかる限り話していただいて、ありがとうございます。でも、どうして旅を……?」

「…………どこでも良かったの。ただ、どこかに行ってしまいたかった。私も、彼女も」


 静かな声音でそう言って、ラウラはラズリルに目を向ける。


 ラウラは、ただひたすら逃げるようにラズリルと旅立った。忌まわしい記憶を、置き去りに出来ると信じて。


「だけど結局、私は逃げられなかったみたいね」


 そう言って、ラウラは無理にはにかんで見せた。


 ラウラに、どう言葉をかけたら良いのかわからない。そう感じてミラルがくちごもっていると、ラズリルが強引に空気を切り替えるかのように手を叩く。


「少し休まないかい? ラウラくんもミラルくんも顔色が悪いし、チリーくんは目つきが悪い」

「おい」

「二人共少し横になるといいよ」

「テメエも今から休ませてやろうか?」

「遠慮しまーす」


 チリーは眉間にシワを寄せてはいるが、本気で怒っているようには見えない。


 いつの間にか打ち解けているチリーとラズリルのおかげで、ミラルは少しだけ気持ちが和んだ気がした。


「……ありがとう。少し休むわ」


 ミラルがそう言うと、ラズリルはすぐにミラルを自分の寝室に案内した。



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