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赤き贖罪の英雄譚 -The Legend Of Re:d Stone-  作者: シクル
Season1「The Long Night is Over」

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episode17「霊薬の作り方-Heir of the Holy Grail-」

 ミラルとラウラが地下牢を脱出すると、そこにはランドルフと対峙するラズリルの姿があった。


 ラズリルは二人に気づくとすぐに表情を明るくさせる。


「ラウラくん! ミラルくん!」


 対するランドルフは、脱出したラウラを見て表情を歪めた。


「青蘭の奴……しくじったか!」


 ランドルフがそう言って舌打ちした瞬間、激しい地響きと共に地面が揺れる。それにランドルフが戸惑っている隙に、ラズリルは二人の元へ駆け寄った。


 恐らく地下牢で激しい戦いが繰り広げられている。そう読んだラズリルは、ミラルとラウラを連れて地下牢の入り口から出来るだけ離れていく。


 その直後――――地下牢付近の床が激しい音を立てて崩れ去った。


「何だ!? 何が起こっている!?」


 幸い城全体が崩壊するまでには至らなかったようだが、部分的に壁や天井が崩れており、かなり危険な状態だ。


 ひとまず落下物による死傷者は出ていない。ラズリルに倒された者達も、軽傷ですんでいる。


「チリー!」


 地下牢は完全に崩落し、中で戦っていたチリーと青蘭は中に埋まっているような状態だ。

 二人は人間より強靭なエリクシアンだが、この状態で必ず生き残れる保証はない。


「貴様ら……こんな真似をしておいてタダですむと思うなよ……ッ!」


 怒りにわなわなと震えるランドルフの元へ、騒ぎを聞きつけた衛兵達が一斉に集まってくる。


「貴様ら全員極刑だッ! 奴らを捕えろ! 一匹たりとも外へ逃がすなァッ!」


 ほとんど絶叫に近いランドルフの怒号に、ミラルは竦み上がるような思いだった。

 如何にラズリルと言えど、ミラルとラウラを守りながら戦うのでは分が悪い。何か策はないかと必死で脳をフル回転させるラズリルだったが、状況は思わぬ形で一変する。


「どういうつもりだ貴様ら!?」


 なんと、集まった衛兵達が取り囲んだのはミラル達ではなく、ランドルフの方だったのだ。


 状況がわからず、ランドルフ共々困惑するミラル達の前に、想定外の男が現れる。


「そこまでです、兄上」


 その男を見て、ラズリルは思わず目を見開く。


「おいおいマジかよ」


 ラズリルがそんなことをぼやいてしまうのも無理はない。


 何故なら、そこに現れたその男は、現在外交で城を留守にしているハズのクリフ・レヴィン殿下だったからだ。


 ランドルフと同じブロンドの短髪だが、体格はやや華奢な部類に入る。武人のような顔立ちのランドルフとは対照的な、甘い童顔の男だ。


「馬鹿な……何故ここに……!」

「あなたの放った刺客は、あなたに従うつもりはなかったようですね」


 クリフの言葉に、ランドルフは思わず目を見開く。


「彼は私を殺すどころか洗いざらい話してくれましたよ、兄上の計画を」


 恐らく、”彼”というのは青蘭のことだろうか。しかし状況がよくわからずミラルは顔をしかめてしまう。


「何の話だ……?」


 クリフに対してしらを切るつもりなのか、ランドルフはどうにか平静を装って問い返す。だが、クリフに動じる様子はない。


「……彼は他国の人間ですが、あなたよりも余程この国の行く末を考えていたようですよ」


 他国の人間、刺客という言葉からやはり青蘭のことだろうとミラルは確信する。


「まさか、あの人……!」


 あくまで青蘭の目的はエリクシアンの抹殺であり、エリクサーの生成方法を知るラウラを始末することだった。ランドルフの計画がそのまま進めば、アギエナ国が崩壊へ向かうのは明らかだ。それを理解していた青蘭は、ランドルフの計画を利用するだけ利用して、後は失脚させるつもりだったのかも知れない。


「これだから雇われってやつは」


 そう言ってラズリルが肩をすくめると、その隣でラウラが小さく笑う。


「全くだわ」


 二人がそんなやり取りをしている間に、囲まれたランドルフが拘束され始める。かなり抵抗している様子だったが、集まった衛兵の数は十を越えている。逃れられようハズもない。


「兄上、しらを切るつもりならそれで構いません。この件はこの後父上と相談しようじゃありませんか」

「……いいだろう」


 ランドルフの額に厭な汗が滲む。


 元よりこの国で支持されているのはランドルフではなくクリフの方だ。味方の少ないランドルフにとって、青蘭が裏切った時点で圧倒的に不利な状況に追い込まれている。


 多額の報酬を前金の時点で払ったランドルフにとって、このような形での裏切りは完全に想定外だったのだ。


「……兄上はさておき」


 そんなランドルフを横目に見つつ、クリフの視線がミラル達へ向けられる。


「侵入者の皆さん、これは流石にやり過ぎだ」


 その一言で、衛兵達の視線も一気にミラル達へ向かう。


 しかしその瞬間、轟音と共に床が派手に爆発した。


「ったく……流石に死ぬかと思ったぜ」


 大量の砂埃を回せつつ、床から這い出てきたのは地下で埋もれたハズのチリーだった。


 半ばチリーの生存を絶望視していたミラルは、そのまま言葉を失う。


 なんとも言えない感情がせり上がってきて、胸がしめつけられるような感触さえあった。


 そんな思いで見つめるミラルを一瞥すると、チリーは乱雑にミラルを右腕で担ぎ、そのままラウラも左腕で担ぎ上げた。


「へ……?」

「よし、ずらかるぞ」

「あいよっ」


 状況を飲み込めないミラルをよそに、チリーとラズリルは短いやり取りで意思疎通をすませる。そしてそのまま全速力でその場から逃げ出したのだ。


 勿論それを見逃す衛兵達ではない。


「あいつら……ッ!」


 砂埃に咳き込みながらも追いかけようと動き始める衛兵達だったが、それはクリフによって制止される。


「……恐らくエリクシアンだ。深追いするな」

「し、しかし……」

「返り討ちに遭うぞ」


 どこか楽しげにそう言って、クリフは衛兵達にランドルフを連れて引き上げるよう指示を出した。



***



 どうにか城を脱出した四人は、ひとまずフェキタスシティのスラム地区へと戻った。


 しばらく幽閉されていたせいで、ミラルもラウラも疲弊している。チリーもまた、青蘭との激戦のダメージは決して軽くない。四人は一度休息を取ってから、改めて話をすることになった。


 そして一晩休息取った後、四人は居間に集まってラウラから事情を説明してもらうことになる。


「……まずは改めてお礼を言わせてほしい。三人共、本当にありがとう。随分と迷惑をかけてしまったわ」


 ラウラ・クレインは、長い黒髪を三つ編みに束ねた華奢な女だった。ややタレ目がちな黒い瞳と、どこかやせこけた頬。今にも倒れそうな儚さがある。


 隣に座るラズリルが、まるでラウラを支えているかのように見える程だ。


「礼も謝罪もいらねーよ。ンなことより、知ってることを全部話しな」


 つっけんどんに言い放つチリーに、ミラルは笑みをこぼす。

 もしかするとこれは、チリーなりの”気にするな”なのかも知れない。なんとも不器用な態度だが、チリーなりに気を遣っているのだろう。


「それで、アンタはヴィオラ・クレインの娘で間違いねェな?」


 チリーがそう確認すると、ラウラは静かに頷いて見せる。


「ええ。私の母はヴィオラ・クレイン。私は、母からエリクサーの生成方法を引き継いでいる」


 確信に近い推測が、事実として確認される。その場の空気が、僅かに張り詰めた。


 ラウラはゆっくりと、自分のことを話し始める。


「私は、母の後を継いでゲルビアの研究所ラボに所属していた。だけど……私は耐えられなかったの。エリクサーを生成するために、何人も犠牲にし続けることに。だから私は、当時研究所(ラボ)の警備をしていたアルドと一緒に逃げ出した……」


 ラウラの言葉に、ミラルもチリーも息を呑む。


「それじゃあ……エリクサーの素材って……」

「ええ。人間の命よ……それも複数の」


 告げられた真実に、ミラルは言葉を失った。



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