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赤き贖罪の英雄譚 -The Legend Of Re:d Stone-  作者: シクル
Season1「The Long Night is Over」

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episode14「宿命の再会-Destined Re-Encounter-」

 時は、ミラルが捕らえられた直後まで遡る。


「どうしてあなたがここに……?」


 アギエナ城の地下牢で、反対側の牢からラウラ・クレインがミラルに問う。


「それは……色々と事情があって……」


 ひとまずミラルは、ペリドット家に起きた事件とここに至るまでの経緯をかいつまんで話した。

 薄暗くて表情までは見えなかったが、ラウラはすぐに申し訳なさそうな声音で謝罪の言葉を告げる。


「……ごめんなさい。私を捜してこんなことに……」

「それはラウラさんのせいじゃないです……。それより、お父様は何故あなたに会えと……?」

「……ここでは誰が聞いているかわからない。申し訳ないけど、今話すことは出来ないわ」


 すぐに一つの仮説を立てて、ミラルは生唾を飲み込んだ。


「それは賢者の石や……エリクサーに関わる話なんですか……?」

「……ええ」


 これはつまり、ミラルとそれらが関係あるということに他ならない。


 アルドがミラルを逃したのは、やはり賢者の石と関係があったのだ。今こうして捕まっている自分の迂闊さに歯噛みするミラルだったが、現状を打開する術は思いつかない。


 どんな秘密があるのかはわからないが、何としてでもラウラと共にここを脱出する必要がある。


 ラズリルがこのことに気づいてくれていれば、恐らくチリーに知らせてくれるだろう。今ミラルが出来ることは、二人を信じて待つことだけだった。


「あなたの父、アルドがゲルビア帝国に所属する軍人だったことは知ってる?」

「えっ……?」


 思いもよらない言葉に、ミラルは息を呑む。


「私がゲルビア帝国から逃げる手助けをしてくれたのは……アルドなのよ」


 語られ始めた父の過去に、ミラルは動揺を隠せなかった。



***



 ラズリルが城から帰還した日の夜、チリーとラズリルはすぐにアギエナ城へ向かった。


 フェキタスシティから王都までは距離も短く、夜が更ける頃には丁度城門付近へ辿り着くことが出来た。


 当然見張りがおり、城壁は非常に高い。だがエリクシアンとしての身体能力を持つチリーにとって、通常の城門は障壁足り得ない。


 チリーはラズリルを背負うと、軽々と城壁の上へと飛び上がる。


「お前やっぱり重いな」

「む、相変わらずレディに対して失礼だね君は」

「バーカ、体重じゃねえよ。……結局何隠し持ってンだ?」

「手品師ってのは種を明かさないものさ」

「道理でいつも胡散臭えと思ったぜ」

「ふふ、みんなには内緒だよ」


 そんな軽口を叩いた後、二人は城内へと忍び込んでいく。


 衛兵達に全く見つからずに進むことは困難だったが、その肝心の衛兵が相手にならない。エリクシアンであるチリーは勿論だが、普通の人間であるラズリルも慣れた手付きで衛兵達を始末し、次々に気を失わせていく。


 乱暴に正面から殴り倒すチリーに対して、ラズリルの手際は鮮やかだった。


 音もなく近づいたかと思えば、次の瞬間には衛兵が気を失っている。チリーでさえ、少しでも気を抜けば見逃してしまいそうな速さだ。


 なるべく気配を消し、見つかり次第見張りや見回りの衛兵を気絶させ、チリーとラズリルは暗い城内を進んでいく。


 エリクシアンであるチリーは暗闇でもある程度目が見える。ラズリルの方もマジックフレームの効果があるのか、暗闇をほとんど気に留めていない様子だった。


「……お前一人でも出来たんじゃねえのか?」


 小声で問うチリーに、ラズリルはとんでもないとかぶりを振る。


「ラズ一人じゃ、まず城壁を越えられないよ」

「はしご扱いか?」

「強くておしゃべりも出来る、最高のはしごさ」


 すっかりいつもの調子を取り戻しているラズリルに、チリーはもう悪態をつく気も起きない。


「地下牢はこの先だ。急ごうじゃないか」


 先導するラズリルに、チリーは黙ってついていく。

 しばらくすると、チリーもラズリルも同時にピタリと足を止める。行き止まりの通路だが、古びた扉が左側に一つある。


「スムーズにここまで来たつもりだったけど……」


 後方から複数の足音が聞こえてくる。チリーとラズリルは振り返って身構えた。


「どちらかというと踊らされてたっぽいね」

「……らしーな」


 舌打ちするチリーと肩をすくめるラズリルの前に、六人の武装した男達が姿を現す。男達の内一人が持つトーチの明かりが二人を照らした。


「そういうことだ」


 そしてその内の一人が、えらく尊大な態度でそう言う。


 その男だけは軽装で、ブロンドの短髪の端正な顔立ちの男だ。

 体格の良いその男は、白を基調とした軍服のような衣服を身に纏っており、二人を見てニヤリと笑って見せる。


 この男こそが、ランドルフ・レヴィンである。ラズリルはすぐにそのことに気づき、小さく嘆息した。


「コソコソと嗅ぎ回るネズミがいることくらい、この俺が気づかないとでも思ったのか?」

「思ってたよ」

「王族に対してその言葉……忘れるなよ」

「善処しまーす」


 小馬鹿にしたような態度を見せるラズリルだったが、ランドルフは平静を保ったままだ。


「……チリーくん、地下室へは君が行きたまえ」

「あ? 普通逆だろ。数なら俺が引き受けるぜ」


 隠密行動の得意なラズリルの方が、混乱に乗じて脱出しやすい。チリーは並の人間が相手なら、余程囲まれでもしない限りは負ける理由がない。


 しかしラズリルは首を左右に振る。


「この中にエリクシアンはいるかい?」

「……この中にはいねえな」

「もし噂通りエリクシアンの護衛がいるとしたら、地下牢を張っている可能性がある。そっちは君じゃなきゃ倒せない」

「はっ、まるでこっちはお前でも倒せるみてェな言い方だな」


 チリーがそう言うと、ラズリルは不敵に口角を吊り上げて見せる。


「倒せるとも。手品でね」


 ラズリルがチリーに向かってウインクする。それを合図と受け取ったチリーは、すぐさま地下牢へ向かって走り出す。


 ラズリルはチリーへ背を向けたまま、迫り来る衛兵達に対して身構え――――すぐにその場からかき消えた。


 突然のことに、衛兵達が困惑して辺りを見回す。そうしている内に、衛兵の内一人が音を立ててその場に崩れ落ちた。


 すぐに、トーチの明かりがその衛兵の方へ向けられる。

 煌々と燃えるトーチの明かりをその身に受けながら、ラズリルは芝居がかった動作で両手を広げた。


「これよりラズリル・ラズライトの、一世一代の高速マジックショーをお見せしちゃうぜ~」


 おどけるラズリルに、再び衛兵達が迫りくる。それをラズリルは一瞥し、今度は衛兵達に対してわざとらしくウインクして見せた。


「見逃すなよ?」



***



 ラズリルに衛兵達を任せ、チリーは地下牢の入り口へと向かう。

 当然扉は施錠されていたが、チリーは強引に腕力で鍵を破壊し、力づくで扉を開ける。


 階段を駆け下りると、剥き出しの岩壁が目立つ薄暗い空間が広がっていた。


「おい、ミラル! いるか!?」


 すぐさま声を荒らげてミラルを捜したが、チリーは暗闇の中で一つの気配を感じ取って表情を変える。


「…………ッ!」


 そこで一度、チリーは完全に動きを止めた。


「チリー!」


 ミラルの叫び声が聞こえたが、もうほとんどチリーの耳には入っていない。


 地下牢の奥から歩み寄ってくる足音と気配に、チリーは自然と全神経を集中させていた。


 ろうそくの火で薄っすらと照らされたチリーの顔が、驚愕に歪む。普段のチリーからは想像も出来ない程狼狽えているように見えた。


 暗がりに浮かび上がるようにして現れたその男を、チリーは凝視する。


「……久しぶりだな。ルベル」


 言葉に反して、その声音から再会を懐かしむような感情は汲み取れない。錆びついた怒りのように感じられる。


 それをあえてそのまま飲み下し、チリーはまっすぐに男を見据える。


「テメエかよ……青蘭せいらん


 男――――青蘭の冷えた瞳に、わずかに火が灯ったように見えた。

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