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赤き贖罪の英雄譚 -The Legend Of Re:d Stone-  作者: シクル
Season4「The Legend Of Immortal Witch」

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112/112

episode112「幕間-interlude-」

タイトル通り幕間となります。

一応このエピソードはSeason4に含まれます。

現在Season5準備中です。

まだしばらくかかりそうですが、必ず再開します。

 そこにあったのは、滅茶苦茶に砕かれた瓦礫の山と、いくつかの無惨な死体だった。


 そのほとんどが高熱によって焼けただれており、原型をとどめていない。


 その地獄絵図のような場所で、一人の少女がたそがれていた。


 彼女の名はノア・パラケルスス。

 現代に蘇った古の魔女であり、人類に滅びを齎す使命を持つ――――テオスの使徒。


「……はぁ」


 ノアは物憂げに風を浴びて、自身の行った破壊の残滓を眺める。

 そこにはなんの感慨もなく、ただなにかゴミが散らかっている、程度の感情しかなかった。


 そんな彼女の元に、一人の少年がどこかから歩み寄ってくる。


 かなり近くに来るまで気配に気づけなかったことを訝しみつつ、ノアは少年の方へ目を向ける。


 そして、息を呑んだ。


「……ティアナ」

「え……?」


 そこにいたのは、ルベル・C(チリー)・ガーネットだった。


 鋭い目つきの真紅の虹彩。長い銀髪のその少年は、穏やかな目でノアを見つめていた。


「……悪い。俺はやっぱり、お前のことが忘れられねェ」

「……」


 チリーの言葉に、ノアはすぐには返事が出来なかった。


 答えられないまま、続きを促すようにチリーをジッと見つめる。


「俺は……破壊者だ。その運命は、変えられねェ……」

「わかって、くれたんだ……?」

「……まあな。人間には、守る価値なんてねェよ。ゲルビア帝国を止めたところで、また第二第三の帝国が現れるだけだ」

「……そうだよ、多分。だから、もう滅ぼしちゃえば良いんだよ」


 ノアがそう言って瓦礫から飛び降りると、チリーはやや駆け足でノアに近寄っていく。


 そして、その手をそっと握った。


「俺が守る。クソみてェな人間から、お前を……俺が」

「チリー…………」


 穏やかに目を細めて、ノアはチリーを抱き寄せる。

 すると、チリーはそれを受け入れた。


「愛している。三十年前から、ずっと」

「……知ってるよ……知ってたよ」


 ギュッと強く抱きしめて、ノアは一瞬身を委ねる。


 そして懐から短剣を取り出すと、チリーの首筋に突きつけた。


「ヨクちゃんさ、そういうのやめてって前も言ったよね。そんなに私に殺されたいワケ?」


 それは、見る者すべてを凍てつかせるような冷えた瞳だった。

 心臓を直接握りつぶすような殺意を間近に受けて、チリー……の姿をした者は慌ててノアを突き飛ばして距離を取る。


「あれ、バレてた? どの辺から?」

「……言いたくない。そんなに殺してほしい?」

「なんだよぉ。ちょっとさみしそうだったから、慰めてただけじゃんかよ」


 そう言った瞬間、チリーの姿がどろりと溶ける。


 まるで纏っていたなにかが溶け落ちるかのように、ソレは別の姿へと変化していく。


「……私もしかしたら、ヨクちゃんのことけっこー嫌いかも」


 そうして姿を現したのは、中肉中背で特徴のない何者かだった。


 真っ白で何も描かれていない仮面で顔を隠しており、服はだぼついたコートのようで体型がわからない。

 セミロングの金髪が三つ編みで一本にまとめられ、肩から適当に垂らされていた。


「えー? そんなこと言われたらヨクちゃん寂しいんですけど!?」

「は? キモい」


 一蹴するノアに、”ヨクちゃん”はカラカラと笑う。その声は高くも低くもない、中性的な声だった。


「お詫びの証にこのヨクラトル・パラケルスス……ノアお嬢様の願いとあればなんでも叶えて差し上げましょう」

「じゃあ死んで」

「オッケー!」


 退屈そうにノアが言うと、ヨクちゃん――――ヨクラトルはナイフを取り出すと自身の首に躊躇なく突き刺した。


 しかし奇怪なことに、血は一滴も流れない。ヨクラトルは首筋にナイフを刺したまま、仮面の裏でククッと笑う。


「失敗しちゃった☆」

「はー、バカバカしい。はやくどっか行ってよ。私今めちゃくちゃ機嫌悪いんだからね」

「ふられちゃったもんねぇ」


神炎の聖剣ルブルマグヌマルツ・ヴィスフェイム


 躊躇なくノアが唱えると、ノアの真上から無数の魔力の熱線がヨクラトルへ降り注ぐ。


「ちょっとぉ!?」


 ヨクラトルはそれを、尋常ならざる身体能力で横っ飛びに回避して、慌てた様子でノアへ駆け寄った。


「ヨクちゃんが死んだらどうする!?」

「喜ぶけど」

「いやーん、ヨクちゃんかなし~」


 どこまでもおどけた様子のヨクラトルに、ノアは呆れてものも言えずに嘆息する。


「ていうかさ……ヨクちゃんだよね?」

「なにを?」

「ゲルビアに情報流したの」


 睨むような視線で言うノアに、ヨクラトルは肩をすくめる。


「ヨクちゃんのせいで私死にかけたんですけど」

「いやあ、まさか現ゲルビア皇帝(ハーちゃん)がほんとに殺しに行くとは思わなくってさぁ」

「嘘つき。わかっててやったクセに」

「まあねー。ハーちゃんは責任感つよつよだからね。人類の危機を知ったとなれば、迷わず自分の手も汚す……ヨクちゃん、そういうとこに惚れちゃったかも」


 ケラケラとのたまうヨクラトルの肩に、ノアが即座に短剣を投擲する。

 肩に突き刺さったままの短剣を無視して、ヨクラトルは笑う。


「ヨクちゃん的にはさ、一方的なお話ってのは好きじゃないんだよね」


 ふと、真面目な声音でヨクラトルは語る。


「ヨクちゃんは言わば、舞台の演出家さ。鑑賞に耐える物語の戦いってのは、ある程度拮抗するものだと思わない?」

「ふぅん、じゃあ脚本家は誰なの?」

「誰だろうねぇ。お前さんかも知れないし、チリーくんやミラルちゃん、青蘭くんかも知れない。もしかすると、或いは…………」


 ヨクラトルが含みを持たせて言葉を切ると、ノアがピクリと表情を動かす。


「……アルは起きたんだ?」


 ノアの問いに、ヨクラトルは静かに頷く。


「勿論さ。彼はヨクちゃん達と違って大真面目だからね。もうとっくに、チェックメイトまでの計算を始めてたりするかもよ」


 ヨクラトルのその言葉に、ノアは視線をそらしてどこか考え込むような表情を見せる。

 しかしすぐに、ハッとなったようにヨクラトルへ目を向ける。


「ちょっと、しれっと私をヨクちゃんみたいなちゃらんぽらんでいい加減な生き物と一緒にしないでくれる? 真面目にやってるんですけど……多分」

「はいはい失礼しましたよっと」


 ノアはまだ睨んでいたが、ヨクラトルは大して気に留める様子もない。


「ていうかやる気ある?」

「どうだかねぇ、ないかも。ヨクちゃんはほんとは観客でいたいのさ。だけどこのままじゃ、くだらない舞台になっちゃうじゃない? だから渋々泣きながら自分で演出してるわけよ」


 おいおいと泣き真似を始めるヨクラトルにはイラついたが、ノアは適当にため息をついて怒りを誤魔化す。


「ま、いーけど」


 これ以上ヨクラトルの戯言に付き合っても時間の無駄だろう。ノアは適当に流して、ヨクラトルから視線を外す。


「あ、そうだ。一つ聞きたいんだけどいいかい?」

「……なに?」


 ヨクラトルには視線を戻さず、ノアは抑揚のない声で応える。


「ここにあった野盗のアジト、なんで潰したの??? ヨクちゃんの取引先の一つだったんですけど???」

「は? 知らない。ただの八つ当たり」


 冷たくそう答えると、ノアはヨクラトルに背を向ける。


「今日ここに泊めてもらおうと思ってたんですけどー!」

「だからそんなの知らないって言ってるじゃん。瓦礫の枕と死体のお布団で寝れば? じゃあね」


 ヨクラトルの方をチラリとも見ず、ノアはふわっと宙に浮くとその場から去っていく。


 それを下から見上げて、ヨクラトルは嘆息する。


「…………次は機嫌良さそうな時にお土産持ってこよ……」


 流石に茶化し過ぎたと反省し、ヨクラトルは肩を落とした。


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