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赤き贖罪の英雄譚 -The Legend Of Re:d Stone-  作者: シクル
Season1「The Long Night is Over」

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episode11「二人の王子、アギエナ国の諸事情-It's A Honey Honey Joke!-」

「なるほどね。大体わかったよ。うんうん」


 話を聞き終わった後、繰り返し頷いて見せながら、ラズリルはおどけた様子で腕を組んでいた。


 ミラルが何故ペリドット家を出てこんな場所まで来たのか。

 チリーとどこで出会い、チリーが何者で何を目的としているのか。


 ラズリルは所々大げさに驚くので、やたらと話しがいがあったのか途中からはミラルも少し楽しそうに話していた。


 エリニアシティを出てからしばらく、ミラルは緊張した状態が続いていた。しかしややふざけ過ぎるきらいはあるものの、ラズリルの軽い調子はミラルの緊張を解きほぐしつつあった。


 それとは逆に、チリーはラズリルをまだ警戒しているようだったが。


「さて、ラズは軽口ばかり言う悪癖があるし、ここからはある程度率直にいこう」

「自覚があって何よりだ。最初からそーしてくれ」


 悪態をつくチリーをちらりと見て微笑んでから、ラズリルは話し始める。


「誰がラウラくんを攫ったか、実は大体の検討はついているんだよ。ただこれが非常に面倒でね。ラズとしてもどうすればいいのか困り果てていたところなんだ」


 そう言ってわざとらしく難しそうな顔をして見せてから、ラズリルはゆっくりと自分の推測を話し始める。


「まず結論を言おう。ラウラくんを攫ったのは、このアギエナ国の王族だろう」


 驚くミラルとマテューに、ラズリルはそのまま話し続ける。


「現在アギエナ国は、レヴィン王家を中心としたレヴィン王朝によって成り立っているのは知っているね?」


 そう確認したラズリルに対して、頷いたのはミラルだけだった。


「現国王のウィリアム・レヴィン陛下には二人の御子息がいらっしゃるよ。お兄様がランドルフ殿下、弟君がクリフ殿下」


 ミラルにとっては常識だが、三十年前の人間であるチリーと、スラム育ちのマテューには知る由もない話だ。


「で、普通ならランドルフ殿下が継承者なんだけど、少し問題があってね」

「馬鹿なのか?」

「そうなんだよ~」

「こら! あなた達なんてこと言うの!」


 チリーとラズリルの出身国は不明だが、ミラルにとってはアギエナ国は自分の生まれ育った国である。流石に殿下を馬鹿呼ばわりされるのは看過出来ない。

 出来ないが……噂程度にはミラルも知っていた。


 アギエナ国内では、圧倒的に兄のランドルフよりも弟のクリフの方が支持されている。理由は非常に簡単で、ランドルフ殿下は政治よりも戦争の方にご執心だからだ。


 現在のアルモニア大陸は、ゲルビア帝国に従いさえすればほとんど平和と言っても差し支えない。アギエナ国は現国王のウィリアムがうまくゲルビアに取り入ることで平和を維持している状態なのだ。


 そして隷属による平和を良しとしないのが、ランドルフ殿下である。


「確かに……ランドルフ殿下のいい噂はほとんど聞かないわね」

「でしょ? クリフ殿下の方はウィリアム陛下のやり方をそのまま引き継いで、国内の問題をどうにかしようとしてるって話だ。とりわけ、我ら貧困層に対する問題意識は強めだとか」

「はちみつ塗りたくってる奴のどこが貧困層だよ」


 即座にツッコミを入れるチリーを、ラズリルはまあまあとなだめる。


「クリフ殿下がどうにかしたいのは、正確にはこのスラム地区のことだね。特にフェキタスシティ辺りは人が多過ぎるから、地方を興して人を分散させたいとか。そのための街路の整備とか、色々考えてるみたいだよ」


 ちなみにランドルフ殿下はこの件については「全員徴兵すりゃいい」とのことである。


 レヴィン王朝は通常なら継承権第一位のランドルフが引き継ぐことになるが、現状ほとんどの貴族がクリフ殿下を支持している。王宮内でも圧倒的にクリフ派が多く、民や教会からの支持も厚い。


「ランドルフ殿下はどうしても戦争がしたいらしいよ。ゲルビア帝国を潰して大陸の覇権を握りたいとのことで」


 しかし全員がクリフ派というわけでもない。ランドルフ同様、ゲルビア帝国打倒を画策する貴族は当然おり、そのためなら戦争も辞さないとする派閥もある。他には単純に現状のレヴィン王朝に不満を持つ者達がひとまず現状打破のためにランドルフを支持しているケースも少なくない。


「そしてその戦争のためにランドルフ殿下がどうしてもほしいもので、ラウラくんが確実に知っているもの……と言えば?」

「……エリクサー」

「そゆこと。ラズリルポイント上げるね」


 続きを答えたミラルのパンに、ラズリルはラズリルポイント(はちみつ)を追加する。そんな様子をマテューがジッと見つめていたのは最早言うまでもない。


「そーゆーわけだから、ラズはラウラくんを攫ったのはランドルフ殿下一味じゃないかと思っているよ。まあ、憶測の域を出ないけどね」


 つまるところ、ラウラを救出する場合相手はアギエナ国の王族かも知れない、ということになる。


 そもそも結果的にゲルビアと敵対していたとは言え、ミラルは改めて事の大きさに生唾を飲み込む。現状、ラウラ以外に手がかりはない。賢者の石を探すなら、ラウラを無視して進むことは難しいだろう。それに、父の真意もまだわからないのだ。


「なるほどな。んじゃ、ラウラを救出するぞ」


 考え込むミラルだったが、チリーの方は平然とそう言い放つ。


「えぇ!? 殿下を相手にィ!?」

「要するに馬鹿王子をぶちのめしゃいいんだろ。ついでに弟の方に恩売りゃ何してもチャラだぜ」


 驚くマテューにそう言って、チリーは不敵に笑って見せる。


「ラズはさんせー」


 はいはーいとおどけて手を上げて、ラズリルは立ち上がった。


「ラウラくんには借りがあるからね。ラズとしてはできれば助けたいんだよ」


 そう言ったラズリルの表情は、今までになく真剣だ。マジックフレームの向こうの二色の双眸の向こうに、ようやく彼女の感情が垣間見える。


「万一ランドルフ殿下の思い通りに話が進んだりしたら、この国は終わりだよ」


 ラズリルの言う通りだと、ミラルは小さくうなずく。


 ゲルビア帝国が保有するエリクシアンの数は計り知れない。そもそもゲルビアが大帝国になったのは、エリクシアンの力を専有しているからなのだ。


「エリクシアンだらけのゲルビアにちょっとやそっとの数で挑んでみなよ。数日でアギエナ国全土がゲルビアの領地になっちゃうぜ」


 仮にランドルフがラウラからエリクサーの生成方法を聞き出せて、エリクシアンを作り出せたとしても、その数や練度がゲルビア帝国に届くまで一体いつまでかかるかわからない。


「ランドルフ殿下が、今も少しずつ戦争の準備をやっているという噂もある。冗談じゃないよね」


 噂が本当なら王位を継ぎ次第大々的にゲルビア帝国と敵対しかねない。ランドルフの無謀な計画が実現すれば、何人が死ぬかわからなかった。


「だからチリーくん、君はアギエナ国を救う英雄になりたまえよ」


 ラズリルの言葉に、チリーはつまらなさそうに息をつく。


「けっ、俺を乗せるつもりで言ってンなら英雄なんて言葉は使うンじゃねえよ」


 そんなものになるつもりは、毛頭なかった。

 あの日、あの時、あの力に触れた日から。


「俺の肩書はただの”破壊者”だ。英雄でも、まして破壊神でもねえよ」


 チリーの言葉に、ミラルはどう声をかければいいのかわからない。しかしラズリルの方は大して気にする様子もなく、話を続ける。


「とにかくまずは情報収集をしないといけないんだが……ふふ、ラズに考えがあります」


 マジックフレームをくいっと人差し指で動かしてニヤリと笑うラズリルに、他の三人は訝しむような目を向けた。



***



 ラウラ・クレインは、王宮の地下牢に閉じ込められていた。


 アギエナ国の王宮の地下牢は現在ほとんど使われていない。元々は王宮内で何かあった時に一時的に容疑者を収容するために使われていた場所だ。

 現在表向きには不穏な動きはないため、ここは使われていない……ことになっている。


 ラウラがこの牢に閉じ込められてまず最初に驚いたのは、中に残っている夥しいまでの血痕だ。見ればわかる、大して古くはない。まだわずかに血の香りが漂う程には。


 王宮地下牢は、ランドルフ・レヴィンによって私物化されている。


 ラウラがここに放り込まれたのはつい先日のことだ。


 素性を隠し、スラム地区でラズリルと共にひっそりと暮らしていたラウラだったが、どこからかラウラの居場所がランドルフに漏れたのだろう。ラズリルがいない間に二人の家にランドルフの私兵が忍び込み、ラウラを強引に攫ってしまったのだ。


 目的は考えるまでもない。

 エリクサーの生成方法だ。


「まだ吐く気にならんか」


 階段からゆっくりと降りてきたのは、アギエナ国の王子、ランドルフ・レヴィンだ。

 年の頃は大体二十を過ぎた頃合いだろうか。

 ブロンドの短髪の、端正な顔立ちの男だ。

 体格は良く、王子というよりは軍人のような見た目をしている。


 ランドルフはラウラのそばまで近寄ると、座り込んでいるラウラを見下ろした。

 その背後には、二人の護衛がついている。


「エリクサーの生成方法を吐け」


 答えないラウラに苛立ったのか、ランドルフは鉄格子を思い切り蹴りつける。それでも、ラウラは態度を変えなかった。


「貴様を拷問してやってもいいが、貴様のようなタイプは拷問では吐かんだろうな」

「……あなたのような人間には、死んでも教えない。それに、知ったところであなたには作れない」


 ラウラの強気な態度に、ランドルフは再び苛立った表情を見せる。

 だがすぐに平静を取り戻すと、ラウラに背を向けた。


「まあいい。だが俺は気が短いぞ。吐こうが吐くまいが、憂さ晴らしに痛めつけることもあるかも知れん」


 そう言い残して、ランドルフは地下牢を後にする。

 その背中を睨みつけながら、ラウラは歯噛みした。



***



 ランドルフが護衛と共に地下牢を出ると、入り口で一人の男が控えていた。


 このアルモニア大陸の人間とは多少見た目が異なる男だ。顔つきは二十代のソレだが、体格はこの大陸で言えばやや少年に近い。

 黒い短髪と、白というより黄色に近い肌色。大陸の外の、東側の人間だろう。

 あまり生気の感じられない黒い瞳をランドルフに向けると、男は即座に膝をついた。


「例の仕事はすんだか?」

「……はい」


 抑揚のない声で男がそう答えると、ランドルフはぐにゃりと笑みを作って見せる。


「では、これからもよろしく頼むぞ……”エリクシアン”」


 男はただ黙って、その顔を伏していた。


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