魔法陣オヤジ
酷暑の坂道を歩いている。
アスファルトの照り返しは強く、陽炎はすぎる車を滲んで見せる。
『席取りありがーと♡ 午後の代返もお願いね♡ ウチらバイトで忙しーからさ♡』
「リモート授業にまた戻んないかなぁ……。」
思い出すのは、愛想笑いで“いいよいいよ”と返事する自分。
バイトなんて大嘘で本当はP活なのも知っている。私を安全な格下と見なしているからペラペラと自慢してきた。
「今日の派遣先は工事現場か……。」
コロナでバイト先のタピオカ屋が潰れて以来、会話なし、接触なしの日雇いバイトを登録した。ママゾン配達は扉の隙間からアルコールスプレーを顔に掛けられて辞めた(辞めてから置き配当たり前の世の中になった)。残ってるのは引っ越しのバイトしかなかった。ひと段落した今は工事現場の交通整理がもっぱらで、かなり楽になった。
この酷暑でなければ。
――去年までこんな暑くなかったじゃない。
引っ越しで爪は割れて、この紫外線で髪はぱさぱさ。前髪は自分で切るようになり、後ろはもう伸ばしっぱなしで一年になる。帽子と一つ結びでごまかしているけど、学校ではクスクス笑われた。バレてるよね。
コロナが明けてもマスクは手放せない。
化粧も一切しなくなって、化粧代も浮いた。コスメボックスは秋冬用のまま止ってる。
早く冬にならないかな。空調服も効かないこの暑さよりましでしょ。
陽炎でゆらぐ景色、アスファルトの熱は薄いソールを突き抜けて足の裏をじりじりと焼く。
――もう、これ、現場に辿り着く前に倒れるんじゃない?
眩暈までしてきた。ヤバい、これ……。
すると、信号の向こうに、明らかにつむじ風? 的なゆらぎか何かが、一か所から立ち上っているのが見えた。
――なに、あれ。
建物に寄りかかるように近寄り、わずかな日陰に頭がかかるようにして、なんとか意識を凝らしてそれを観察する。
地面、光ってる?
目を凝らしてよくマジマジとそれを見た。
円の中にルーン文字? が描かれて、そこから光が出てる、地面から放射されるように。
改めて地上を見ると、そこだけ光の柱が地面から立ち上がっていた。
これって、召喚……!?
誰かが現代日本人へ助けを求めて呼んでいる……ってコト!?
改めて周りを見ると、不思議なくらいに人気がない。セミの音さえなく、無音だ。
――もうこっちの世界も半分異世界化してる。
本当に繋がっているんだ。
そう思うと、心臓が、熱射も忘れるくらいにドキドキしてきた。
――もうバイトしなくていいんだ。
――向こうは学校とは違って、私を必要としてくれる人たちいるんだ。
――とりあえずこの暑さから逃れられる!!!!!
そう思うと体は走りだしていた。
私が近づくのに呼応するようにその光は強くなる。
――ああ、やっぱり私を求めている世界があるんだわ!
それを前にし、立ち止まる。これまでの思い出が走馬灯のようによみがえる。
「……写真、撮っておこう。」
私が異世界で輝く第一歩。
スマホを取り出し、振り向くと、私と光り輝く魔法陣が共に映るようにスマホを構える。
――はい、チーズ。
その心での掛け声とともにボタンを押すと、そこには何故か知らないくたびれた太ったおじさんが入り込んだ。
「えっ!?」
「えあっなんだこれ!?」
私が振り向くのとおじさんが驚くのは一緒だった。
「えっえあっうわぁ!!!」
おじさんが青白い光に包まれる。
「ちょ、ちょっと! それ、わたし、……の……。」
おじさんは光に包まれたかと思うと、驚きのポーズのまま、その光と共に、消えた。
ひゅうと涼やかな一陣の風が吹く。
「えっ!? ウソっ!? ウソでしょ!? ねぇっ!?!?」
思わず魔法陣があった地面に膝をついて手で触る。
「あっつ!!!!」
すぐに手を放して立ち上がった!
「えっ! ウソ!? 違う! 人違い! 違う人!! 今の違う人なのよ!!! ねぇ!!!!!」
魔法陣のあった場所に立つと、地団駄を踏み鳴らしては、なんとか入れないかと連続ジャンプする。
パァ! というクラクションの音が響き、辺りは喧騒とともに車の群れ、人の群れが戻ってくる。
「お母さん、あのお姉ちゃんあそこでダンス踊ってる!」
「こら! 人様を指ささないの!」
背後で聞こえた言葉に恥ずかしくなり、ジャンプのあと屈伸すると、伸びをして何食わぬ顔をして歩き出す。
「……さぁ~、工事現場のバイト頑張らないとなぁ~……。」
曲がる予定のない曲がり角を曲がると、全速力でダッシュした。
――私だったのよ!? あれ、私のだったのに!!!!
練習&テスト的に作成したものです。
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