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魔法陣オヤジ

作者: Tick'n
掲載日:2022/10/17

酷暑の坂道を歩いている。

 アスファルトの照り返しは強く、陽炎はすぎる車を滲んで見せる。

『席取りありがーと♡ 午後の代返もお願いね♡ ウチらバイトで忙しーからさ♡』

「リモート授業にまた戻んないかなぁ……。」

 思い出すのは、愛想笑いで“いいよいいよ”と返事する自分。

 バイトなんて大嘘で本当はP活なのも知っている。私を安全な格下と見なしているからペラペラと自慢してきた。

「今日の派遣先は工事現場か……。」

 コロナでバイト先のタピオカ屋が潰れて以来、会話なし、接触なしの日雇いバイトを登録した。ママゾン配達は扉の隙間からアルコールスプレーを顔に掛けられて辞めた(辞めてから置き配当たり前の世の中になった)。残ってるのは引っ越しのバイトしかなかった。ひと段落した今は工事現場の交通整理がもっぱらで、かなり楽になった。

 この酷暑でなければ。

 ――去年までこんな暑くなかったじゃない。

 引っ越しで爪は割れて、この紫外線で髪はぱさぱさ。前髪は自分で切るようになり、後ろはもう伸ばしっぱなしで一年になる。帽子と一つ結びでごまかしているけど、学校ではクスクス笑われた。バレてるよね。

 コロナが明けてもマスクは手放せない。

 化粧も一切しなくなって、化粧代も浮いた。コスメボックスは秋冬用のまま止ってる。

 早く冬にならないかな。空調服も効かないこの暑さよりましでしょ。

 陽炎でゆらぐ景色、アスファルトの熱は薄いソールを突き抜けて足の裏をじりじりと焼く。

 ――もう、これ、現場に辿り着く前に倒れるんじゃない?

 眩暈までしてきた。ヤバい、これ……。

 すると、信号の向こうに、明らかにつむじ風? 的なゆらぎか何かが、一か所から立ち上っているのが見えた。

 ――なに、あれ。

 建物に寄りかかるように近寄り、わずかな日陰に頭がかかるようにして、なんとか意識を凝らしてそれを観察する。

 地面、光ってる?

 目を凝らしてよくマジマジとそれを見た。

 円の中にルーン文字? が描かれて、そこから光が出てる、地面から放射されるように。

 改めて地上を見ると、そこだけ光の柱が地面から立ち上がっていた。

 これって、召喚……!?

 誰かが現代日本人へ助けを求めて呼んでいる……ってコト!?

 改めて周りを見ると、不思議なくらいに人気(ひとけ)がない。セミの音さえなく、無音だ。

 ――もうこっちの世界も半分異世界化してる。

 本当に繋がっているんだ。

 そう思うと、心臓が、熱射も忘れるくらいにドキドキしてきた。

 ――もうバイトしなくていいんだ。

 ――向こうは学校とは違って、私を必要としてくれる人たちいるんだ。

 ――とりあえずこの暑さから逃れられる!!!!!

 そう思うと体は走りだしていた。

 私が近づくのに呼応するようにその光は強くなる。

 ――ああ、やっぱり私を求めている世界があるんだわ!

 それを前にし、立ち止まる。これまでの思い出が走馬灯のようによみがえる。

「……写真、撮っておこう。」

 私が異世界で輝く第一歩。

 スマホを取り出し、振り向くと、私と光り輝く魔法陣が共に映るようにスマホを構える。

 ――はい、チーズ。

 その心での掛け声とともにボタンを押すと、そこには何故か知らないくたびれた太ったおじさんが入り込んだ。

「えっ!?」

「えあっなんだこれ!?」

 私が振り向くのとおじさんが驚くのは一緒だった。

「えっえあっうわぁ!!!」

 おじさんが青白い光に包まれる。

「ちょ、ちょっと! それ、わたし、……の……。」

 おじさんは光に包まれたかと思うと、驚きのポーズのまま、その光と共に、消えた。

 ひゅうと涼やかな一陣の風が吹く。

「えっ!? ウソっ!? ウソでしょ!? ねぇっ!?!?」

 思わず魔法陣があった地面に膝をついて手で触る。

「あっつ!!!!」

 すぐに手を放して立ち上がった!

「えっ! ウソ!? 違う! 人違い! 違う人!! 今の違う人なのよ!!! ねぇ!!!!!」

魔法陣のあった場所に立つと、地団駄を踏み鳴らしては、なんとか入れないかと連続ジャンプする。

 パァ! というクラクションの音が響き、辺りは喧騒とともに車の群れ、人の群れが戻ってくる。

「お母さん、あのお姉ちゃんあそこでダンス踊ってる!」

「こら! 人様を指ささないの!」

 背後で聞こえた言葉に恥ずかしくなり、ジャンプのあと屈伸すると、伸びをして何食わぬ顔をして歩き出す。

「……さぁ~、工事現場のバイト頑張らないとなぁ~……。」

 曲がる予定のない曲がり角を曲がると、全速力でダッシュした。

 ――私だったのよ!? あれ、私のだったのに!!!!


練習&テスト的に作成したものです。

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