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第八話 地下二階の憂鬱


「ハァーーっ!」


 スルリグは慣れ親しんだ騎士剣を突き出すと、少し遅れて目の前の人影がボッと吹き散らされた。


「お前で……最後だッ!」


 剣を横に構えてのショートスイング。


 正面に浮かんでいたイグニスファッツスは、吹き散らす動きで身体を削り取られ……消滅した。


「……終わったかな」


 スルリグは床に落ちている自分の騎士盾を拾って、パンパンと埃を払った。


 鳥の意匠を付けたバケツヘルメットの奥、鉛色の光は拷問部屋と呼ばれる部屋を見渡す。そして、敵が居ない事を確認して部屋を出ていった。


 この拷問部屋とは、冷たい手で経験値を吸い取って行くゴースト共の巣で、玄人ほど近寄らない狩り場なのだが、スルリグは偶然霞のロードヴァンパイアから盗んだ“星脈の欠片”の効果で経験値を吸い取る“エナジードレイン”の耐性を得ており、恰好の修行場と化していた。


 一度この部屋に潜って得られる経験値は地下五階の戦闘三回分に登る。しかも、相手がゴーストとイグニスファッツス等のアンデッドモンスターなので、対策さえ練れていれば泥仕合をせずに済むのだ。


 以前はエナジードレインを食らう確率を考えるとギャンブルの様な状態だったが、“エナジードレイン無効”の星脈の欠片を手に入れたスルリグにとっては、勝率九割のギャンブル……の様なものだった。


 ただ、それも十割ではないので、保険は必要だったのだが。


「おい、杓子しゃくし〜、漁火いさりび〜行くぞ〜」


 スルリグの問い掛けにピコピコと蠢く2つの影。それは彼のパーティメンバーである“船幽霊の闇杓子”と“手招く漁火の指”だった。


 船幽霊の闇杓子は文字通りの船幽霊。大海原の闇に彷徨う船乗の霊を核として生まれた闇の精霊の一種で、ひしゃくを握る腕が地面から生えている様な姿をしている。


 手招く漁火の指は海で溺れ死んだ霊を核として生まれた火の精霊の一種にてイグニスファッツスの親戚。人魂の中に人の手首が浮いている様な姿をしていた。


 彼等は海賊としてそこいらを通る小舟を襲っていたのだが、たまたま襲った舟に乗っていたスルリグによって取っ捕まえられ、冒険者養成所に突っ込まれていた。


 だが、今回猫の手も借りたいスルリグによって引っ張りだされたのだ。


 役割はスルリグに何かあった際の保険として、“麻痺治療薬”と“毒治療薬”を持って待機する事。


 何故ならば、ゴーストやスプークの冷たい手はしばしば麻痺や毒を引き起こすので、スルリグ1人だけだと全滅の可能性があるのだ。


 無論、スルリグにとってその攻撃は過去何度も目にしたものなので、“知恵と経験”によって回避する事が可能だ。しかし、“知恵と経験をすり抜けてくる運命地味た一撃”は容易くそれをぶち抜いてくるので、保険を用意した……と言う訳だ。



 扉を出たスルリグは二人に「訓練……いくぞ」と呟いてブンブンと片手で騎士剣を振り回し、騎士盾の下部スパイクを地面に叩き付けた。


「我が王国騎士団の名誉を護り給え!」


 盾から強烈な光が迸り、刻まれた防御紋が宙空に浮かび出る。


「からの……二段斬り!」


 流れる様な業で慣れ親しんだ騎士剣をブンブンと振り回す。


 仮想敵は霞のロードヴァンパイア。お供の二人が死なない様に騎士盾の防御効果で護りつつ、敵を手数で縛り付け、相手の行動力を削る様な動きだ。


 少し遅れてスルリグの背後から闇のエネルギーと火炎のエネルギーが吹き出し、彼の剣先で交差する。杓子と漁火が放った精霊特有の魔法攻撃だ。


 スルリグの恩寵稼ぎに付き合う事によって“神々の恩寵”を稼いでいる二人の攻撃は割と高威力で、二重攻撃が直撃したらあの高耐久の代名詞でもあるクロコダイルを一撃で葬り去る威力があった。


「これならいけるか……いや、まだ足りないか」


 自身の剣先にいる仮想敵が鼻で笑った気がした。


 こないだはたまたま知恵と経験をすり抜ける運命地味た一撃が決まっただけで、それ以外はマトモな攻撃は通っていない。


 スルリグは過去最高の恩寵を取り戻し、なおかつ二階級以上も鍛え上げているが、攻撃が通るイメージは全く湧かない。


「キュキュキュ?」


「ふなぁー」


「ああ、スマンスマン。考え事だ考え事。あと一回戦ったら一旦休憩な。もし恩寵が来たら良いが……な」


 スルリグは持ってきた薬草を口に含んで立ち上がった。


「そろそろゴースト達も復活しただろ」


 首をグギグギと鳴らしながらバケツヘルメットを被る。


「秋は……近いぞー」


 そう独り言ちつつ、“この先拷問室”……の扉を開けた。



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