第四話 霞のロードヴァンパイア
「霞の……ロードヴァンパイアが出たぞー!」
「なぬぬっ!」
本来ならば鼻毛を抜く力もない筈のスルリグは仲間の叫び声に反応して立ち上がった。
「来やがったか……今回はやけに早ェえな!」
スルリグは虚空に向かって剣を構えた。身体は半身に開き、片手剣を両手で振り上げる様な形だ。
敵は触れるだけで麻痺や猛毒を振り撒き、“経験値”をブッコ抜いていく災害の様な存在だ。しかも鋼鉄製武器の一撃を素手で受け止める程の剛腕を誇る。
味方の叫び声が聞こえた方向を向き、構える事僅かに六秒。
スルリグは、常人には分からぬ程の空間のゆらぎを感じとった。
「そこだッ! ちゃァァーーっ!」
一歩踏み込んで全力振り下ろしの斬撃。
空間のゆらぎが人の形を成した瞬間。完全に相手の不意を突く一撃。正に運命をすり抜ける一撃を逆にやってのけたのだ。
(これは……殺ったか!?)
敵の顔面を通過した袈裟懸けは確かな手応えを感じさせる。
しかし、現実は非常に非情だ。
不意をついた会心の一撃も、霞のロードヴァンパイアにとっては子供の振り回した木の枝が頬を掠めた程度のダメージしか通らなかった。
……だが、その一撃は敵の左耳から胸を撫でる様に通過して……漆黒のローブの表面を斬り裂く。
それがスルリグの運命を変えるのだが……ここではまだ気付く事はなかった。
◇ ◇ ◇ ◇
「おい、スルリグ! スルリグ!」
爆装士がスルリグのバケツヘルメットをガンガン叩いて揺り起こす。
「そんな心配せんでも生きとるわ……」
スルリグは先の一撃の後、追撃すべく全身を使った体当たりの様なニノ剣を放ったが、結果は空振り。
その勢いのまま地面に突っ込み、頭蓋を強打して気絶。起き上がる頃には、周囲に霞のロードヴァンパイアの気配はなくなっていた。
「ったく……折角一太刀入れてもすぐ逃走だもんな……上手く首でも刎ねられたら良いんだが、刎ねられそうな腕利きの剣士は軒並み死んじまったからな……」
スルリグはブツブツと独り言ちながら立ち上がると……。
ガチッ! 腕の留め金から不意に金属音が鳴った。
何事かと見ると、怪しく光る小石のような物が小手の可動部に挟まっていた。
「これは……さっきのか?」
スルリグの脳裏に先程の光景が再生される。
斬撃が服をなぞった後の体当たり気味のニ撃目。避わされたものの一瞬懐に突っ込んだ際に感じた小手の違和感。
「……霞のロードヴァンパイアが懐に入れていた石か。図らずとも盗んでしまった訳か」
見てみると不思議な力を感じる。
(今度王宮の学者が来たら見せてみるか)
石をしげしげと眺めていると、階段を降りてきた爆装士の声が聞こえてきた。
「おい、スルリグ。今回は特別にもう一回休憩だ。騎士団長にお礼言っとけよ」
「え、いいの?」
「お前のおかげで今回の襲撃は被害が軽かったからな、まぁ有給だと思っとけ!」
スルリグは再び休息を取るべく例の玄室へと向かった。
後書き:完成はしているので完結までノータイムで投稿する予定でしたが、少し忙しくなったので半端な投稿してしまいました。今夜からまた投稿しますね。